おやぢ)” の例文
「酒は好きだが、勝負事は嫌ひだつたさうで、多分大きな仕事でも請負うけおつて、手金がはひる話だらう、つて居酒屋のおやぢは言つてましたが」
顔を白く塗つて耳かくしにしてゐる女給の二三人もあるカフエーだの、肥つたおやぢのゐる薬屋だの、八百屋だの、蕎麦屋だの、鮨屋だのが混雑ごた/\と……。
くづれた土手 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
『そだつてお前、過般こねえだも下田の千太おやぢどこで、巡査に踏込ふんごまれて四人許よつたりばか捕縛おせえられた風だし、俺アほん心配しんぺえで……』
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「カアネギーのおやぢめ、肉饅頭を半分食つただけで、すつかり新時代の資本家になりすましてしまつた。」つて——。
案内者ガイドのメラデイインおやぢが望むまゝに滿谷等は彼を写生し、三浦工学士と僕とは彼の手帳へ証明を与へてやつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
蚊遣香のにほひが、またひとしきり強く漂つてきた時、窓の外で、何やらこと/\と不祥事を予感せしめるやうな音が伝はり、さきの齢老いたおやぢとおぼしい声で
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
そりや僕も、おやぢすねを食ひ荒して、斯様こん探偵にまで成り下つたんだから、随分惨酷ざんこくなことも平気でつて来たんですが、——篠田には実に驚いたのです、社会党なんぞ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
つゞいて引掛ひつかゝつたのがおないへ子守兒こもりつこ二人ふたり、三人目にんめ部屋頭へやがしらなんとかおやぢ女房にようばうであつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
町内ちやうないに二十ねんんでゐる八百屋やほやおやぢ勝手口かつてぐちでわざ/\説明せつめいしてれたことがある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
耄碌頭巾に首をつゝみて其上に雨を凌がむ準備よういの竹の皮笠引被り、鳶子とんび合羽に胴締して手ごろの杖持ち、恐怖こは/″\ながら烈風強雨の中を駈け抜けたる七藏おやぢ、やうやく十兵衞が家にいたれば
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
菊枝 やれやれ、おやぢさま。久しう待たしておぢやつたなあ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
一人のおやぢチヤルメラを吹き
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おやぢは言つて、『うも一人でなにも致すで、草がぢきにえて困りますばい。二三日鎌さ入れねえとかうでがんすばい』と、そばに青くなつた草をゆびさした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
平次は八五郎に眼配せして、蕎麥屋のおやぢに別れると、そのまゝ左衞門河岸の方へ向つたのです。
便所はばかりへ行く時小使室の前を通ると、昨日まで居た筈の、横着者のおやぢでなく、かねて噂のあつた如く代へられたと見えて、三十五六の小造りの男が頻りに洋燈掃除をして居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
帽子掛のあるへやには、としを取つた黒ん坊のおやぢさんが一人立つてゐて、来る人の来る人の帽子を、おいそれと無造作に預かつてくれた。お客のなかには相手が老人としよりなのを気遣つて
な、彼の今日こんにち来ないと云ふのが、彼の我党たる証拠だよ、彼はおやぢの非義非道を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「はあ、うそふまい、馬鹿野郎ばかやらうきさまおやぢと、おれ兄弟分きやうだいぶんだぞ。これ。」
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時そのとき宗助そうすけはだつてのこつてゐれば、またたけえてやぶになりさうなものぢやないかとかへしてた。するとおやぢは、それがね、あゝひらかれてると、さううまくもんぢやありませんよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
隣のおやぢには、性根しやうねがある。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おやぢさまいのう。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
心太ところてんをけに冷めたさうに冷して売つてゐる店、赤い旗の立つてゐる店、そこにゐるおやぢの半ば裸体はだかになつた姿、をりをりけたゝましい音を立てて通つて行く自動車
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「二日二た晩、伊之助親方と呑んで居たんだが、酒ならいくらでも呑ませるくせに、あの話となるとどうしても口を開かねえ、あんな頑固なおやぢは滅多にありませんね、親分」
理髪床かみゆひどこおやぢは飛んだ粗忽そさうをした。だが、まあ堪忍してやるさ、十日も経てば頭は五分刈の長さに伸びようといふものだ。世の中には三年経つても髪の毛一本生えない頭もあるのだから。
かく定義を下せば、すこぶる六つかしけれど、是を平仮名ひらがなにて翻訳すれば、先づ地震、雷、火事、おやぢの怖きを悟り、砂糖と塩の区別を知り、恋の重荷義理のしがらみなどいふ意味を合点がてんし、順逆の二境を踏み
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さつき一寸見えたがナ、僕は何だか気の毒の様に感じたから、挨拶もせずに過ぎたのサ、彼女むかうでも成るべく人の居ない方へと、さけてる様子であつたからナ、山木見たいなおやぢに梅子さんのあると云ふは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
維新前から船の問屋のおやぢを知つて居るお爺さんは、朝から禿頭を光らして出かけて行つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
話しかけようとするおやぢの口をふさぐやうに、平次は櫻の老樹の蔭に身をひそめます。
栖鳳氏のいた雀やたけのこの値段を、このおやぢさんに聞かせたら何と言ふだらうて。
理髪床かみゆひどこおやぢ剃刀かみそりを持つた手を宙に浮かせた儘、腑に落ちなささうに訊いた。
「わかりましたがね、あの屋敷は名題の地獄ぢごく屋敷で、宵に入つたら、朝まで出られやしません。門番のおやぢだつて、御老中の御家來の見識けんしきだから、一杯買つたくらゐぢや言ふことを聽いてくれません」
「それは戴いて居ります。だが、実を申しますと、警察の旦那方にああやつて表へ立たれましては、こゝいらの店子たなこがすつかり弱つちまひますので。」とおやぢさんは膝進にじり寄つて来て声を低めた。
蕎麥屋のおやぢは、平次の顏を見て愛想を言つて居ります。
クレマンソーのおやぢめ、いろいろな事を知つてゐるな。
「後で話す。あツ、そのおやぢを逃すなツ」