煮染にしめ)” の例文
小家こいえがちょっと両側に続いて、うんどん、お煮染にしめ御酒おんさけなどの店もあった。が、何処どこへも休まないで、車夫わかいしゅは坂の下でくるまをおろした。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この十四日には家々で強飯こわめしふかし、煮染にしめなぞを祝って遊び暮す日であるという。午後の四時頃に成っても、まだ空は晴れなかった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
破れた葮簀の衝立ついたてが立ってあり、看板を見ると御休所おんやすみどころ煮染にしめ酒と書いてありまするのは、いかさま一膳飯ぐらいは売るのでござりまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かずが無いので困る時には、生姜や日光蕃椒のほかに、ヤタラ味噌や煮染にしめなどを買って仲間へ大盤振舞おおばんぶるまいをするものもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
のし餅を三枚、ゴマメを一袋、鮭を五切れ、それに明日の煮染にしめにする里芋を五合ほど風呂敷に包んで、重い重いと言ってやがて帰って来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寺は四谷の小さい寺であったが、葬儀の案外立派であったのには、みんなもおどろかされた。当日の会葬者一同には白強飯しろおこわ煮染にしめの辨当が出た。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丁度瀬戸のいるところへ、植長のかみさんのおやすというのが、亭主の誕生日なのでこしらえたと云って赤飯を重箱に入れて、煮染にしめを添えて持って来た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その頃芝居の弁当といえば幕の内といって、押抜きの飯と煮染にしめと漬物で、甚だ淡白な物であったが、私は珍しく食べた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
拭掃除ふきさうじ面倒也めんどうなり、お茶拵ちやごしらへも面倒也めんどうなり内職婦人ないしよくふじんの時をおしむこと、金をおしむよりもはなはだしくそろ煮染にしめ行商ぎやうせふはこれがためおこりて、中々なか/\繁昌はんじやうと聞きおよ申候まうしそろ文明的ぶんめいてきそろ(二十日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
祭となれば、何様な家でも、強飯おこわふかす、煮染にしめをこさえる、饂飩うどんをうつ、甘酒あまざけを作って、他村の親類縁者を招く。東京に縁づいた娘も、子を抱き亭主や縁者を連れて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのほかに迎年げいねんの支度としては、小殿原ごまめって、煮染にしめを重詰にするくらいなものであった。大晦日おおみそかって、宗助は挨拶あいさつかたがた屋賃を持って、坂井の家に行った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なしけるに因つて領分構りやうぶんかまひとなり九郎兵衞は夫より駿河國府中ふちうに知る人あるにより遙々はる/″\と尋ね行き此處に三ヶ月程居たれども兎角とかく人請惡く彌々いよ/\落付おちつき難きに付煮染にしめたる樣な單衣ひとへもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
煮染にしめ(くわい。氷こん。にんじん。竹の子。しひたけ)。手しほ皿(焼とうふ。くづかけ。牛蒡黒煮)。皿(うこぎ。わらび漬)。下あげもの(くわい。牛蒡。柿。かやのみ。赤いも)。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
建場たてば々々で飲酒りますから、滅多に持出した事のない仕込の片餉かたげ油揚あぶらげ煮染にしめに沢庵というのを、もくもくと頬張りはじめた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺は四谷の小さい寺であったが、葬儀の案外立派であったのには、みんなもおどろかされた。当日の会葬者一同には白強飯しろこわめし煮染にしめの弁当が出た。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お種は祝の強飯こわめしだの煮染にしめだのを出して、それを炉辺で振舞っていると、そこへ正太が気息いきをはずませて入って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
赤の飯、刻鰑きざみするめ菎蒻こんにゃく里芋蓮根の煮染にしめ、豆腐に芋の汁、はずんだ家では菰冠こもかぶりを一樽とって、主も客も芽出度めでたいと云って飲み、万歳と云っては食い、満腹満足、真赤まっかになって祝うのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つぎやすむ故亭主八五郎は茶などはこばせて挨拶あいさつなしけるに若き夫婦は御世話ながらお酒を]一がふ御膳ごぜんを二人前出し下されと云ければ亭主は承知なし御肴おさかなは何んぞ見つくろひましよと云つゝ煮染にしめに飯と酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
切溜きりだめの中には沢庵たくあん煮染にしめや、さまざまのおかずが入れてあります。
真中まんなか卓子テエブルを囲んで、入乱れつつ椅子に掛けて、背嚢も解かず、銃を引つけたまま、大皿によそった、握飯、赤飯、煮染にしめをてんでんに取っています。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鹿尾菜ひじき煮染にしめ総菜そうざいじゃ、碌な智慧ちえも出めえ——」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眞中まんなか卓子テエブルかこんで、入亂いりみだれつゝ椅子いすけて、背嚢はいなうかず、じうひきつけたまゝ、大皿おほざらよそつた、握飯にぎりめし赤飯せきはん煮染にしめをてん/″\につてます。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
赤福のもちの盆、煮染にしめの皿も差置いたが、猪口ちょくも数をかさねず、食べるものも、かの神路山かみじやま杉箸すぎばしを割ったばかり。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へーい。」とやつこが、つゝんだつゝみを、ひよいとをんなわたしながら、引込ひつこめず、背後うしろたなに、煮豆にまめ煮染にしめものなどを裝並もりならべたたなしたの、賣溜うりだめの錢箱ぜにばこをグヮチャリとらして、銅貨どうくわ一個ひとつ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五日目の大入おおいりねたあとを、すずみながら船を八葉潟やつばがたへ浮べようとして出て来たのだが、しこみもののすし煮染にしめびんづめの酒で月を見るより、心太ところてんか安いアイスクリイムで、蚊帳かやで寝た方がいゝ
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
婆々はかまちに腰を下して、前垂まえだれに煙草の箱、煙管を長く膝にしながら、今こうわれて、急に思い出したように、箸のさきを動かして、赤福の赤きを顧みず、煮染にしめの皿の黒い蒲鉾かまぼこを挟んだ、客と差向いに
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)