トップ
>
無慙
>
むざん
ふりがな文庫
“
無慙
(
むざん
)” の例文
真新しい紅白の鈴の緒で縛り上げられた中年者の男が、二た突き三突き、
匕首
(
あいくち
)
で刺されて、見るも
無慙
(
むざん
)
な死にようをしているのです。
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
外で揉み合っていた連中は一時に小屋の中へ
雪崩
(
なだ
)
れこんだ。お芳も逃げるに逃げられないで
無慙
(
むざん
)
な
羞恥
(
はじ
)
を大勢のうしろに隠していた。
銀河まつり
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
埃
(
ほこり
)
をかぶって、カサカサに枯死した姿を見るのは、子供心にも
無慙
(
むざん
)
だった。その福寿草の野生の姿を俺は根室へ来て初めて見たのだ。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
雰囲気の醸成を企図する事は、やはり
自涜
(
じとく
)
であります。〈チエホフ的に〉などと少しでも意識したならば、かならず
無慙
(
むざん
)
に失敗します。
芸術ぎらい
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
震災の当日、その時びっくりして戸外に飛び出した私の目に、八階から上が折れてなくなった、浅草公園の十二階の
無慙
(
むざん
)
な姿が映った。
生い立ちの記
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
▼ もっと見る
夥しい書籍が——数百枚の重い粘土板が、文字共の
凄
(
すさ
)
まじい
呪
(
のろい
)
の声と共にこの讒謗者の上に落ちかかり、彼は
無慙
(
むざん
)
にも圧死した。
文字禍
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
仏の心に反する行為にちがいない。そう思って、僕はただ堪えることを考えていた。
無慙
(
むざん
)
な壊滅に堪えうるかどうか、それはわからない。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
今まで着物の袖で隠れていた手首の根元の方は、
肱
(
ひじ
)
の所から
無慙
(
むざん
)
に切落されて、切口には、赤黒い血のりが、ベットリとくっついていた。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
首を
刎
(
は
)
ねた後の
屍骸
(
なきがら
)
を、
無慙
(
むざん
)
な木曽家の奴ばらは巴ヶ淵へ蹴込んだのだ。いまだに私の屍骸は、巴ヶ淵の底にある。そればかりではない。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
おそらく丈夫な葉が、スクスク延びているのを、そのままでは送りにくいので、
無慙
(
むざん
)
にも押っぺしょってくるくると縛りつけたのであろう。
雪割草の花
(新字新仮名)
/
石川欣一
(著)
それは貴方のせいで美しかったのでございます。それなのに貴方はとうとうわたくしを
無慙
(
むざん
)
にも
棄
(
す
)
てておしまいなさいました。
痴人と死と
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
可惜
(
あたら
)
、鼓のしらべの緒にでも干す事か、縄をもって一方から引窓の紐にかけ渡したのは
無慙
(
むざん
)
であるが、
親仁
(
おやじ
)
が心は優しかった。
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
なんという
無慙
(
むざん
)
な殺し方であろう、みんな頭蓋骨を一撃で粉砕されている。震える手で次々と調べて行くうち一人だけ
微
(
かす
)
かに息のある者がいた。
流血船西へ行く
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
道鏡の悲歎は
無慙
(
むざん
)
であった。葛木山中の岩窟に苦業をむすんだ修錬の
翳
(
かげ
)
もあらばこそ。外道の如き
慟哭
(
どうこく
)
だった。一生の希望が終ったようだった。
道鏡
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
友は
蔦蘿
(
つたかづら
)
の底に埋れたる一
堆
(
たい
)
の石を指ざして、キケロの墓を見よといへり。是れ
無慙
(
むざん
)
なる
刺客
(
せきかく
)
の劍の羅馬第一の辯士の舌を
默
(
もだ
)
せしめし處なりき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
それは今現に
無慙
(
むざん
)
な戦争がこの地上を息苦しくしている時に、
嘗
(
かつ
)
ての人類はどのような
諦感
(
ていかん
)
で生きつづけたのか、そのことが知りたかったからだ。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
「あっ、怪我をした!」チョコレート色の絹の靴下は、見るも
無慙
(
むざん
)
に斜に斬れ、その下からあらわに出た白い
脛
(
すね
)
から、すーっと
鮮血
(
せんけつ
)
が流れだした。
什器破壊業事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
と云ううち今一人の
武士
(
さむらい
)
は引抜いて切って掛る、
無慙
(
むざん
)
に切られるような圖書でない。処へ眞葛周玄が駈けて来るという、
一寸
(
ちょっと
)
一息して
後
(
あと
)
を申上げます。
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
いまだにそのまわりの伝法堂などは板がこいがされているが、このまえ来たとき
無慙
(
むざん
)
にも解体されていた夢殿だけは、もうすっかり修理ができあがっていた。……
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
あんなにも信頼していた数字、日附に、
無慙
(
むざん
)
にも裏切られた鷲尾老人が、遂に卒倒してしまったのだ。
白金神経の少女
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
この十日程のなやみで、げっそり
痩
(
や
)
せた女の頬。男の
顎
(
あご
)
もまた
無慙
(
むざん
)
に尖ってしまったのを女は見た。
窓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
一郎も澤も、乙子と養子の
無慙
(
むざん
)
な死に対し、又あんまり
無雑作
(
むぞうさ
)
に人間が圧倒された自然現象に対して、腹立たしい
自棄
(
やけ
)
の心持から、死んでも
惜
(
おし
)
くないような気持だった。
九月一日
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
余の全心全力を
擲
(
なげう
)
ち余の
命
(
いのち
)
を捨てても彼を救わんとする
誠心
(
まごころ
)
をも省みず、
無慙
(
むざん
)
にも無慈悲にも余の
生命
(
いのち
)
より貴きものを余の手よりモギ取り去りし時始めて
予察
(
よさつ
)
するを得たり。
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
みと子夫人は裁縫の名手だから高次郎氏の死後の生活の心配は先ず無くとも、見ていても出来事は少しこの家には早すぎて
無慙
(
むざん
)
だった。加藤家はその後すぐ人手にわたった。
睡蓮
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
其の自若として
無慙
(
むざん
)
の
蜚説
(
ひせつ
)
に意を留めざるは、恐らくは此の辺の観察もあるに依るなるべし。
大久保湖州
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
Une
(
ユヌ
)
persuasion
(
ペルシュアジョン
)
puissante
(
ピュイッサント
)
et
(
エエ
)
chaleureuse
(
シャリヨナリヨオズ
)
である。そして己の目は
無慙
(
むざん
)
に、抗抵なくこの話に引き入れられて、同じ詞を語る。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
そのお粂の驚きは彼女がささげようとする身を
無慙
(
むざん
)
にも踏みにじるようなものであり、ただ旦那が情にもろいとかなんとかの言葉で片づけてしまえないものであったという。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
誠に
無慙
(
むざん
)
なる
次第
(
しだい
)
なれども、
自
(
おのず
)
から
経世
(
けいせい
)
の
一法
(
いっぽう
)
として
忍
(
しの
)
んでこれを
断行
(
だんこう
)
することなるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
結婚はすっかり政略結婚になって、夫婦の情愛とか、母子の愛情は
無慙
(
むざん
)
に蹂み
躙
(
にじ
)
られた。
私たちの建設
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「餓鬼に訊いてみるがええでねえか。
木偶
(
でく
)
の坊奴! よくもあつかましく訊けたもんだね!」と、云い
様
(
ざま
)
、発作を起して子供の足を捉えて吊り下げると、
無慙
(
むざん
)
にも背中を打ち叩いた。
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
椴松の、丸太の、美女の胴体の、今のこの
無慙
(
むざん
)
である。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
無慙
(
むざん
)
に
唇
(
くちびる
)
を
咬
(
か
)
みて、宮は抑へ難くも激せるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
無慙
(
むざん
)
にも刺し貫かれた、これが読めるか。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
「
無慙
(
むざん
)
!」
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
眞新しい紅白の鈴の
緒
(
を
)
で縛り上げられた中年者の男が、二た突き三突き、
匕首
(
あひくち
)
で
刺
(
さ
)
されて、見るも
無慙
(
むざん
)
な死にやうをして居るのです。
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「疑いなく、昨年十月以来、まる一年、荒木村重のために、城中に
監禁
(
かんきん
)
されて、
無慙
(
むざん
)
な目にお
遭
(
あ
)
いになっていたものと思われまする」
黒田如水
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
けれども、あれも亦、考えてみると、猫が老婆に化けたのでは無く老婆が狂って猫に化けてしまったのにちがいない。
無慙
(
むざん
)
の姿である。
女人訓戒
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
それをば、
無慙
(
むざん
)
にも鉄板の上に乗せて焼いているのは、何か
丑三詣
(
うしみつまい
)
りに似た呪いの所業でも行なっているような気がし出したのだ。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
我心に従えと強迫すれど、聞入れざるを憤り、日に日に
手暴
(
てあら
)
き
折檻
(
せっかん
)
に、
無慙
(
むざん
)
や身内の皮は裂け、血に
染
(
そ
)
みて、紫色に腫れたる
痕
(
あと
)
も多かりけり。
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
掻かれた雪は
嵐
(
あらし
)
に
煽
(
あお
)
られ
濛々
(
もうもう
)
と空へ立ち昇る。その下から現われたのは
無慙
(
むざん
)
な権九郎の死骸である。
颯
(
さっ
)
と狼は飛びかかった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
主人は昨夜、寝室へ来てから、
無慙
(
むざん
)
なほど、やつれはてておりましたのです。
苛々
(
いらいら
)
と、寸時も居たたまらぬていで、脅えきっている様子でした。
不連続殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
見るも
無慙
(
むざん
)
な努力を続けて、とうとう気嚢の上によじ昇り、その平な中央に、ヨロヨロと立上って、図太くも、追手の船を迎える様に、身構えた。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
妙に期待めいたものは
寸毫
(
すんごう
)
もなく、狂おしくも
無慙
(
むざん
)
な、苦しみを伴なった思い出なのではあるが……
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
さてその初戀の眞の
價
(
あたひ
)
は
兎
(
と
)
まれ、
角
(
かく
)
まれ、その君が心に充牣したるもの、今や
無慙
(
むざん
)
にも引き放ちて棄てられ、その跡は空虚になりぬ。この空虚は何物もて
填
(
うづ
)
むべきか。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
無慙
(
むざん
)
な季節に
煽
(
あお
)
られて、生徒達はひどく騒々しく殺伐になっていた。旗行列の準備で学校中が沸騰している時も、彼はひとり職員室に残りぼんやりと異端者の位置にいた。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
其の方は去る十五日の
夜
(
よ
)
、大伴蟠龍軒の屋敷へ
踏込
(
ふんご
)
み、家内の者四人、蟠龍軒
舎弟
(
しゃてい
)
蟠作
(
ばんさく
)
を
殺害
(
せつがい
)
いたしたな、
何
(
なん
)
らの遺恨あって、何者を語らって左様な
無慙
(
むざん
)
なる事を致したか
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
加奈江は時を二回分けて、彼の手、自分の手で夢中になってお互いを
叩
(
たた
)
きあった堂島と、このまま別れてしまうのは少し
無慙
(
むざん
)
な思いがあった。一度、会って打ち解けられたら……。
越年
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
丘の中腹に大きな石で囲った深い横穴があり、
無慙
(
むざん
)
にもこわされた入口(いまは金網がはってある……)からのぞいてみると、その奥の方に石棺らしいものが二つ並んで見えていました。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
組長さんの
無慙
(
むざん
)
な宣告の下に弁慶はひとたまりもなくべそをかいてしまった。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
僕等は
無慙
(
むざん
)
にもひろげられた
路
(
みち
)
を向う
両国
(
りやうごく
)
へ引き返しながら、偶然「
泰
(
たい
)
ちやん」の
家
(
うち
)
の前を通りかかつた。「泰ちやん」は
下駄屋
(
げたや
)
の
息子
(
むすこ
)
である。僕は僕の小学時代にも作文は多少
上手
(
じやうず
)
だつた。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
無
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
慙
漢検1級
部首:⼼
15画
“無慙”で始まる語句
無慙至極