炬火たいまつ)” の例文
ロミオ (炬火持に對ひ)おれ炬火たいまつれい。おれにはとてかれた眞似まね出來できぬ。あんまおもいによって、いっあかるいものをたう。
それをいくらかの金銭に代へて、何か肴と一合ばかりの泡盛を買って、女達はハブに咬まれないやうに炬火たいまつとぼして帰って来る。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
地球より二百倍も大きい火星が炬火たいまつのようにまっかに輝いているのが見える。大空は黒く、星辰はひらめいている。驚くべき光景である。
汝若しメレアグロの身が、炬火たいまつの燃え盡くるにつれて盡きたるさまを憶ひ出でなば、この事故にさとりがたきにあらざるべく 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
サアおいでだというお先布令さきぶれがあると、昔堅気むかしかたぎの百姓たちが一同に炬火たいまつをふりらして、我先われさきと二里も三里も出揃でぞろって、お待受まちうけをするのです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
暗黒大陸の西半部をてらす一本の炬火たいまつにならうといふ決心で、西部の秘密境に突進し、壮烈なコンゴー河下りの大冒険をなすのであります。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
そして寝しずまる頃を待ち、客舎のまわりに投げ炬火たいまつをたくさんに用意し、乾いた柴に焔硝えんしょうを抱きあわせて、柵門の内外へはこびあつめた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことにこの山中に生ずるサヤハタという木は、水中に在ってもよく燃えるので、その皮を炬火たいまつとして大雨中だいうちゅうでも振回して歩く事が出来るそうだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
われわれは炬火たいまつを持ってひき返した。あのかわいい坊やが道に迷って、夜の湿気や露に濡れどおしだとおもうと、じっとしておれなかったからだ。
それを千本幟のように数ばかり多く、ちょうど千駄焚きが炬火たいまつにかわったごとく、めいめいべつべつに持つものにしたことが、すでに変遷であった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
梅原と内藤と三人で「炬火たいまつ」を観たが、愛情の生活から思想の生活にかへると云ふ筋の全体は甘く出来た作だが、部分に少しづつ面白い所を見受けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
軒の間から見える山の傾斜の道をたくさんの炬火たいまつが続いておりて来るのを見るために尼たちは縁の端へ出ていた。
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
弓矢や炬火たいまつをかゝげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押えようとしていました。
かつての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火たいまつは、今や冷めたい灰になりかかっている。
探偵小説の真使命 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
フランシスとその伴侶なかまとの礼拝所なるポルチウンクウラの小龕しょうがんともしびが遙か下の方に見え始める坂の突角に炬火たいまつを持った四人の教友がクララを待ち受けていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
天狗は既に烏天狗の域を脱して凄い赤鼻と、炬火たいまつのような眼をもった大天狗だ。天狗は百姓を見て云った。
四辺あたり滔々とうとうたる濁流であります。高い所には高張たかはり炬火たいまつが星のように散って、人の怒号が耳を貫きます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うねうねとつづく山車だしの列は、笛、太鼓の囃子はやしに調子を揃えて山門から霊屋の前まで、炬火たいまつの光りを先登に、あとからあとからと、夜あけがたまでつづいていた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その火鉢へ、二人が炬火たいまつをさし込みましたわ。一ふさりふさって、柱のように根を持って、かっと燃えます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一般に保守的なものと考へるのはどうかと思ふな。早い話が、オリムピックの炬火たいまつリレーだつて……
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ふりかざした彼の炬火たいまつが海の方になびいて、そのながい炎に照しだされた彼らが闇のなかに浮んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
シンフォニイの最後の拍子に連れて、序曲プロロオグを唱う者登場する。そのうしろに炬火たいまつ小厮こものたち。
もう一辺庭先に出て見ると、もう大方花見の行列も出尽してしまつて、遥かの田甫道を煉つて行く炬火たいまつや提灯の火が、海の上の漁火のやうに揺れながら遠のいて行つた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
官舎の畳の上に住み、食卓の前に坐って「白米」を食べるのである。夜のランプは兄の家の炬火たいまつに較べると、なんと明るく溢れるように、胸のなかをてらすことであろう。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
炬火たいまつを皆手にして三面谷の隅々を探し廻ったが、娘小露ばかりでなく、直芳の姿も見えなかった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
僕の作はスペインのセヴィリヤを舞台にとって、神の栄光のために日ごとに国内に炬火たいまつが燃えて
黒い羽毛の兀鷹はげたかなどのように、予らの舟はゆっくりと嘆きの橋の方へ漂い下っていたが、その時、数知れぬ炬火たいまつが大公の宮殿の窓から燃え上り、またその階段を走り下り
そして、この言葉は「アーメン」を口にする人の数を、今でははるかに、抜いているのだ。そこには、新しい感激に燃える真理が、炬火たいまつのごとくに、ひかっているのだ。——
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
身をささげて尽瘁じんすいし、みずから自分の身を疲憊ひはいさし、四方から自分自身を焼きつくし、樹脂の炬火たいまつのようにしばらくのうちに燃えつくしているが、彼の友もその一人だった。
炬火たいまつが積み重ねられた。上から枯れ木が加えられた。焚き火は闇の中に高く焔先ほさきを上げた。人々は、がやがやとそのまわりを囲んだ。犬は遠くからいつまでも吠え止まなかった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
炬火たいまつ如何どうだな。おゝ、ひささんが来た。久さん/\、済まねえが炬火をこさえてくんな」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
芸術とは、人生のあらゆるおそろしい深みへも、恥と悲しみとにみちたあらゆる淵の中へも、慈悲深く光を射し入れる神聖な炬火たいまつです。芸術とは、この世に点ぜられた神々しい火です。
神の剣 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
二三本の炬火たいまつけて供をれた牛車が来た。元振は邪神が来たと思ったので室の中へ入って待っていた。入口に数多たくさんな跫音がして、を開けて紫の衣服きものを着た怪しい者が入ってきた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
藁束の炬火たいまつで焔の工合いを調節し、それを脚の下や、耳の中に入れたりなどする。
みんなは懐中電気やら、炬火たいまつやら、蝋燭らふそくやらを壁だの天井だのにさしつけて、秘密の出入口でもありはしないかと、しきりにさがしましたけれど、一向それらしいものが見当りません。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
炬火たいまつと竹槍とを用意しとげ。ええか。後から、一揆の統領が回って来るけにな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
プドーフキンは爆発の光景を現わすのに本物のダイナマイトの爆発をってみたがいっこうにすごみも何もないので、試みにひどく黒煙を出す炬火たいまつやら、マグネシウムの閃光せんこうやを取り交ぜ
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはひとたびゆいてかえらぬ生命の炬火たいまつの美しさだった。ああ、何という悦び! 愛するものを獲たのではないか! 和歌子と深井を獲たのではないか! 彼は靴音高く家へ帰って来たのである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
女子の学士をだし、更に女子の博士をも出そうとしている日本に、聡慧篤実な新進女子の次第に殖えて行くべきことは予見されますが、それらの女子の先駆として大きな炬火たいまつを執る一群の星の中に
「エンマは、炬火たいまつの光で、眞夜中に嫁入りしたいと思つた。」
道化の華 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
炬火たいまつを持ちて疫を逐い端門より出す云々とある。
炬火たいまつの焔、沈として、平安はもどり來りぬ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
炬火たいまつを翳して眞夜中を走せ
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
各寝室の鉄格子てつごうしの窓には灯火が上下し、新館の上層には一本の炬火たいまつが走り動き、かたわら屯所とんしょにいる消防夫らは呼び集められていた。
ときの声と共に、各所から花火のような火が噴いた。流星の如く炬火たいまつが飛ぶ。蛮陣の内は上を下への大混乱を起している。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マーキュ はて、愚圖ぐずついてゐるのは、晝間ひるま炬火たいまつけてゐるも同然どうぜんふのぢゃ。これ、意味いみりゃれ。
いと高しといふにあらねど一の山のそびゆるあり、かつて一の炬火たいまつこゝより下りていたくこの地方を荒しき 二八—三〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
文芸院学士アカデミシヤンアンリイ・バタイユの新作「炬火たいまつ」を演じると云ふので巴里パリイ初冬しよとうの劇壇はその方へ一寸ちよつと人気を集めて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
カーテンの僅な隙間から、一本の震える細い金線のような光線が薄暗い部屋に射しこみ、化粧台の上の白粉壺に、小さい燃える炬火たいまつのような閃きをつくっている。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
くもくらし、くもくらし、曠野あらの徜徉さまよかり公子こうしが、けものてら炬火たいまつは、末枯うらがれ尾花をばな落葉おちばべにゆるにこそ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)