おとこ)” の例文
「いよいよゆかしいおとこだ」と、かえって尊敬をいだいた。同時に、彼が関羽に対する士愛と敬愛は、異常なほど高まるばかりだった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓の外の雪を見ていると、不意に引戸がガラリとあいて、はなはだ荒々しい人の足音。同時に裸体を現わした甚だ大きなおとこと、さまで大きからぬ男。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一個ひとり洋服の扮装いでたちにて煙突帽をいただきたる蓄髯ちくぜんおとこ前衛して、中に三人の婦人を囲みて、あとよりもまた同一おなじ様なる漢来れり。渠らは貴族の御者なりし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞く彼は近年細君のお蔭にて大勲位侯爵の幇間ほうかんとなり、上流紳士と称するある一部の歓心を求むるほかにまた余念あらずとか。彼もなかなか世渡りの上手なるおとこと見えたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
……始めて海鼠なまこを食いいだせる人は其胆力に於て敬すべく、始めて河豚ふぐきつせるおとこは其勇気において重んずべし。海鼠をくらえるものは親鸞しんらんの再来にして、河豚ふぐを喫せるものは日蓮にちれんの分身なり。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卯ノ花の汗衫かざみを着てとぼけているが、首筋は深く斬れこんだ太刀傷があり、手足も並々ならず筋張っていて、素姓を洗いだせば、思いがけない経歴がとびだしそうな曰くありげなおとこだった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
突然木立の間から怪しいおとこが白刃を手にしておどり出た。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
張飛は、徹底的に、呂布というおとこが嫌いだった。呂布を見ると、なんでもない日頃の場合でも、むらむらと闘志を挑発させられる。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不精で剃刀かみそりを当てないから、むじゃむじゃとして黒い。胡麻塩頭ごましおあたまで、眉の迫った渋色の真正面まっしょうめんを出したのは、苦虫と渾名あだな古物こぶつ、但し人のおとこである。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思いがけない経歴がとびだしそうないわくありげなおとこだった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そうです。慾望には目のくらむおとこですから、この際、彼の官位を昇せ、恩賞を贈って、玄徳と和睦せよと仰っしゃってごらんなさい」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっ茶店ちゃや辿着たどりつくと、其の駕籠は軒下のきしたに建つて居たが、沢の腰を掛けた時、白い毛布けっとに包まつた病人らしいおとこを乗せたが、ゆらりとあがつて、すた/\行く……
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仲間をしていた頃から、よく力自慢をしていた体のいかつい男ざかりのおとこである。どこかで飲んで来たとみえ、酒のにおいを持っていた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分との事のために、離座敷はなれざしきか、座敷牢ざしきろうへでも、送られてくように思われた、後前あとさき引挟ひっぱさんだ三人のおとこの首の、兇悪なのが、たしかにその意味を語っていたわ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、曹操の返辞も、どうかと思っていたが、この文面、このたびの扱い、万端、至れり尽せりである。彼も存外、誠実なおとことみゆる」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、そばへも寄せぬ下働したばたらきおとこなれば、つるぎ此処ここにありながら、其の事とも存ぜなんだ。……成程なるほど、呼べ、と給仕をつて、鸚鵡を此へ、と急いで嬢に、で、こしもとを立たせたのよ。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これは、毛利一族に亡ぼされた尼子義久あまこよしひさを奉じて、年久しく、孤忠苦節こちゅうくせつをつづけて来た近頃稀れに見る信義のつよいおとこでござる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
引捻ひんねじれた唇の、五十余りの大柄なおとこが、酒焼さけやけの胸を露出あらわに、べろりと兵児帯へこおび
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれど、少女は、振向いてそのおとこを仰ぐと、姿を見ただけで、きもをつぶし、きゃっといって、逃げ走ってしまったのであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
智深ちしんは、その人をむしろに迎え、名乗りあってから、一さんけんじた。おとこおとこを知り、道は道に通ずとか。二人はたちどころに、肝胆かんたん相照あいてらして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして、秘密の上にも秘密にすべき大事は、世間へ出て、二度や三度会ったばかりのおとこへ、軽率に話したりなどするのはよろしくないことだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このおとこ、馬にも乗らず、七尺以上もある身の丈を持ち、鉄棒をかい込んで双の眼をつりあげ、漆黒の髯を山風に顔から逆しまに吹かせながら
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんだ、おとこたるものが!」——と呉用ごよう智多星ちたせいは、ここぞと、語気を入れて、叱るように、兄弟の顔を、らんとめ廻した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弱者いじめな極悪非道は仲間おきてとしていましめ、賊は賊でも、時の宋朝そうちょう治下のみだれと闘う反骨と涙に生きるおとこ同士であろうと約したものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実はきょう、前からも心がけていたが——かねて尊公にもはなしていた劉備りゅうびというおとこ——それに偶然市で出会ったのだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうことも、恨みをふくむ一因であったかも知れないが、久秀は、その経歴が証明しているとおり、生来、野心とやまの抜けないおとこだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこに石井戸があるが、ここは高台なので、怖ろしく深いぞ。——おとこ。ばば殿が、墜ちると事だ。介添かいぞえしてやれ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればよ、死ぬ気で、柳生家の門へやって来たのだ。お父上の但馬守を主家の仇とのろい、是が非でも、父上に近づいて、ちがえる覚悟で来たおとこよ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李傕りかくは、元来が辺土のえびすそだちで最前のように、礼をわきまえず、言語も粗野なおとこですが、あの後で、心に悔いる色が見えないでもありませんでした。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何せい、私の知るうちでは、あのおとこなどが、和尚の申す、真の牢人。いわゆる蒼海の珠だったかもしれませぬ」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのおとこに突き崩されて、中川隊の一角は、ふたたび川の側まで押し返された。——と見て、中川勢のうちから
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、頼もしいおとこと思うと、打ち込む性情たちであった。佐久間、柴田、前田、そして藤吉郎などという幕下は、皆、信長が真実、打ち込んでいるおとこたちだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このおとこは、松永弾正だんじょう久秀という者で、もはやよい年でござるが、生涯、人にはできないことを三つなしとげておる。——第一は、足利公方くぼう光源院こうげんいん殿をころした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又右衛門が特に茶にたしなみが深いとか、殊勝な読書子であるとか、風雅に取柄とりえのあるおとことかいうのなら知らぬこと、わが家の門に咲いた菊さえ気がつかない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魯粛が来たのでしょう。実に怪しからんおとこだ。何の故か、彼は孔明のために踊らされて、国を売り、民を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「愚堂和尚のお噂に、ふと思い起したのですが、どこか心の隅に残るだけのものはあるおとこでしょう」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あまりに近いので、よもやと誰も思うでしょうが、藤井紋太夫、かれこそその切札となるおとこです」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九度山の伝心月叟でんしんげっそうこと——真田幸村さなだゆきむらこそは油断のならぬおとこである。あれをこそ、まことの曲者くせものとはいうべきだろう。いつ風雲によって、どう変じるかも知れぬ惑星だ。深淵しんえんりゅうだ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はてな、あのおとこ?」と、視る眼を、前とちがって、事ごとにゆがんで視るようになった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君君たらずといえども臣臣たり、——智あるも智に溺れず、彼は真面目なおとこであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……しかしさすがは里村紹巴じょうは仮病けびょうよそおうてのがれもせず、嵯峨口からでも五十余町もある山を、あたふたと登って参ったところは、似而非風流えせふうりゅうではない。わが友とするに足るおとこ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとこ——とよばれたのは、彼女の道案内に、半瓦はんがわらの部屋から付いて来た下っ端である。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんと、わしは邪推ぶかいおとこよ。筑前に対しても、官兵衛孝高に対してものわるいことではある。——しかしさすがは叡智えいちな半兵衛重治、よくぞ予の命をこばんで、於松を斬らずにおった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「信長公御在世中は、一にも滝川二にも滝川と、御重用をうけて、関東管領の重職をもさずけられておりながら、今次の凶変に、こう馳せつけに遅るるとは何事だ。さてもぶざまなおとこよな」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩間家の仲間ちゅうげんをよんで、裏の畑から西瓜すいからせ、ばばとおとこに馳走して
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
変なことをいうおとこかなといぶかったのであろう。急に怒る色もなく
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわば一種の反動者として、民間へは妙な人気のありそうなおとこだ。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実に、とんでもないおとこを、推薦してしまったというほかはない。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこまでも裸になれないおとこ。可愛げのないやつではある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ておられぬおとこなのだ
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)