)” の例文
この「霜の花」を作っているうちに、私の頭の中にいつの間にか、雪の結晶も人工で出来はしまいかという気持がいて来たのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
己は根岸の家の鉄の扉を走って出たときは血がき立っていた。そして何か分からない爽快そうかいを感じていた。一種の力の感じを持っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それを行って見ずに、ぐずぐずしていて、朝夕お極まりにき上がって来る、悲しい霧を見ているのである。実に退屈である。
大瓶猩々の謡に「あまたの猩々大瓶に上り、泉の口を取るとぞみえしが、き上り、涌き流れ、めども汲めども尽きせぬ泉」
鶴見もまた迢空さんに誘われて、何かもう少しいってみたいと思う言葉が醸成され、して来るのを内心に感じている。
世界中の煙突えんとつと云う煙突をこゝに集めて煤煙の限りなくく様に、眼を驚かす雲の大行軍だいこうぐん音響おとを聞かぬが不思議である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こう岸本はそこに疲れ倒れている節子を励ますように言って、彼女の眼にいて来る涙をそっと自分の口唇くちびるぬぐうようにしてやることもあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして同時に、彼女のうちにいつかいて来た結婚前の既に失われた自分自身に対する一種の郷愁のようなものは反対にいよいよ募るばかりだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
恐々こわごわながら巌頭がんとうに四つんいになると、数十丈遥か下の滝壺は紺碧こんぺきたたえて、白泡物凄ものすごき返るさま、とてもチラチラして長く見ていることが出来ぬ。
信州飯田いいだから少しはなれた上郷かみさと村の雲彩寺うんさいじの庭に、杉の大木の下からいている清水がそれで、その為にそこにいるいもりは左の眼が潰れているといいます。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一部分から水がチョロ/\いて、引佐川へ流れ落ちる。小池という姓もこの涌き水から来たのだろう。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と叫ぶと、僕はサイレンのスウィッチを下す、村人がき立つ、海上には忽ち目醒めざましい活劇がき起る。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
何も仕事などは出来なくなつて、ただひた苦しみに苦しんで居ると、それから種々な問題がいて来る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おくみともすでに十一年になるが、寝屋を共にしたのはゆうべが初めてであるし、そうなったいまでも、やはり「自分の女」という感じが少しもいてこなかった。
一五八四年ヴァランス(Valence)において、霖雨りんうのために非常に毛虫がいたことがあった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
天災に縛られていた人間の心が今や町全体の上に湧然ときのぼっているような心持ちである。が四谷の塩町に行くまでは自分はまだ幾分の平静を保つことができた。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
こめたはらよりぜに蟇口がまぐちよりいづ結構けつこうなかなに不足ふそく行倒ゆきだふれの茶番ちやばん狂言きやうげんする事かとノンキに太平楽たいへいらく云ふて、自作じさく小説せうせつ何十遍なんじつぺんずりとかの色表紙いろべうしけて売出うりだされ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
こういう時に白い粉薬を、少しばかりコップの中へたたき込んでしまえば好い。まあなんという造作もない事だろう。こう思うと同時に、なぜだか目の中に涙がいて来た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「ここによろずの神のおとないは、狭蠅さばえなす皆き」は火山鳴動の物すごい心持ちの形容にふさわしい。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それを見ていると私の双の眼になみだが一ぱいいて来た。その手紙は私のいちばん親しかった青年時代の友から来たものだった。彼は私が大いに期待をかけていた親友だった。
花火がもくもく池の底からいて出るように見える趣向になって居るのだそうであります。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
天然にき出でまするお湯は、肌ざわりがまた天然に軟らかでございますものですから、ほんとうに久しぶりでわたくしは、我を忘れてお湯の中へ魂までつけこんでしまいました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのき出ずる水源は踏破しがたく、その地中の噴き出口は人の測定をゆるさない。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
小さい女房はツァウォツキイの顔をじっと見ていたが、目のうちに涙がいて来た。
かの烈々れつれつたる怨念おんねんの跡無く消ゆるとともに、一旦れにし愛慕の情は又泉のくらんやうに起りて、その胸にみなぎりぬ。苦からず、人き後の愛慕は、何の思かこれに似る者あらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして彼等は聴くであらう、同時に近くから遠くからき起るうつろな鐘のひびきを、続いて無数の黄ばんだ祈りの声を。のみならず、たとへば私なら、もつと先を想像することが出来る。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
併し間もなくまた憎悪、憤怒ふんど、絶望がむらむらとき上がつて来る。
劉淵は怪しんで※児をとらえようとすると、蛇は山の穴に隠れた。しかもその尾の端が五、六寸ばかりあらわれていたので、追っ手は剣をぬいて尾を斬ると、そこから忽ちに泉がき出して池となった。
「さうか。きだちの清水だからな。」
八の字山 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
絶えずきあがるがごとくにあれ。
洗物をさせるにも、雑巾掛ぞうきんがけをさせるにも、湯をかして使わせるのに、梅の手がそろそろ荒れて来る。お玉はそれを気にして、こんな事を言った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
こうした珠数でも胸の上にけて幻の栖所すみかのように今の生活を思うような心と、夜もられぬほど血のくような心とが、彼には殆ど同時にあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下の方から見る見るうちにいて来て、それが互にせめってはどちらとへともつかず動かされながら、そこいら一面を物凄いほど立ちこめ出していた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
日なたぼこりで孫いじりにも飽いた爺の仕事は、くわ煙管ぎせる背手うしろでで、ヒョイ/\と野らの麦踏むぎふみ。若い者の仕事は東京行の下肥しもごえりだ。寒中の下肥には、うじかぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
崖にはところどころ、岩の割れ目に水がいていて、北向きであるために、そこは真夏でも陽のさすことがなく、いつもじめじめしているし、ひんやりと涼しかった。
伊都いと郡の野村という所などは、弘法大師が杖で突いてからき出したと伝わって、幅五尺ほどの泉が二十五間もある岸の上から落ちて、広い区域の田地を潤しています。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
生命はとどこおるところなく流動する。創造の華が枯木にも咲くのである。藤原南家の郎女いらつめ藕糸はすいとつむいで織った曼陀羅まんだらから光明が泉のようにきあがると見られる暁が来る。
ちぢれた褐色とびいろの皮の上にほとばしる肉汁の香りが室内に漂うて人々の口に水をかしている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「親父がほんの思いつきのように、あすこは昔温泉いていたところかも知れないと言ったんだ。それが頭に残っていたのだろう。僕は君の屋敷から温泉が涌き出した夢を見た」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その中からいて来る自然のたくみの持つ一つの雰囲気は私に強い感動を与えた。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
日蓮上人がやはり諸君の三十五方里の中からいて出でたことであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一村十二戸、温泉は五箇所にきて、五軒の宿あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それゆえ天元五年に成って、永観えいかん二年にたてまつられた『医心方』が、ほとんど九百年の後の世にでたのを見て、学者が血をき立たせたのもあやしむに足らない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、さて、こうやって待ち構えたような気分でいると、別に好い事なんぞは何処からもいて来そうもない。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
えかえる初春の空に白光しろびかりする羽たゝきして雲雀が鳴いて居る。春の驩喜よろこびは聞く人の心にいて来る。雲雀は麦の伶人れいじんである。雲雀の歌から武蔵野の春は立つのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一 から松のみぎり左にくいぢみ、汲めどもめどもつきひざるもの
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこには、隠れた地の底からいて来たままの鉱泉がよどんでいた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それじゃあ、まだ、あそこにはき湯が出ているだな」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
藤田は股栗こりつした。一身の恥辱、家族の悲歎が、こうべれている青年の想像に浮かんで、目には涙がいて来た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何かごおっという微妙な音といっしょになってそれが絶えずいているような幻覚さえおこってくるようだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)