浮彫うきぼり)” の例文
この壁柱かべはしら星座せいざそびえ、白雲はくうんまたがり、藍水らんすゐひたつて、つゆしづくちりばめ、下草したくさむぐらおのづから、はなきんとりむし浮彫うきぼりしたるせんく。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五分月代さかやきの時代めいた頭が、浮彫うきぼりのようにきりっとしていて、細身の大小を落し差しと来たところが、約束通りの浪人者であった。
水滴すいてき。陶器。窯は恐らく瀬戸。寸法、縦二寸一分、横巾二寸九分、厚さ八分。模様は竹にとら浮彫うきぼり。型。鉄砂入。日本民藝美術館蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
樫か胡桃くるみで作つた櫃には、奇妙な棕櫚しゆろの枝と天童の頭の浮彫うきぼりがしてあつて、ヘブライの經典ををさめた木箱のやうな形に見えた。
獅子がりと、獅子狩の浮彫うきぼりとを混同しているような所がこの問の中にある。博士はそれを感じたが、はっきり口で言えないので、次のように答えた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そしてその上には、うすく浮彫うきぼりになって、横を向いた人の顔がりつけてあり、そのまわりには、くさりいかりがついていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
体操の選手は選手で、贅肉ぜいにくのない浮彫うきぼりのような体を、平行棒に、海老えび上がりさせては、くるくる廻っています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まっ白な、あのさっきの北の十字架じゅうじかのように光る鷺のからだが、十ばかり、少しひらべったくなって、黒い脚をちぢめて、浮彫うきぼりのようにならんでいたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
またそれ等の樹木に取り囲まれた中央の葬龕カタファルコは、ウムブリヤの泣儒なきおとこ浮彫うきぼりにした薬研石やげんいしの台座まではともかくとして、その上に載せられた白大理石の棺蓋かんおおいになると
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
侯爵は座板に腰掛けずにそのまま入口の柱にもたれた。背中が羅紗ラシャ地をへだててニンフの浮彫うきぼりにさはる。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そう言う平次の胸には、恋女房お静の純情なきよらかさが、活き活きと浮彫うきぼりされているのでした。
かたちあらはされたもので、もつとふるいとおもはれるものは山東省さんとうしやう武氏祠ぶしし浮彫うきぼり毛彫けぼりのやうなで、これ後漢時代ごかんじだいのものであるが、その化物ばけものいづれも奇々怪々きゝくわい/\きはめたものである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
北へ折れると生国魂いくたま神社、神社と仏閣を結ぶこの往来にはさすがに伝統の匂ひがかびのやうに漂うて仏師の店の「作家」とのみ書いた浮彫うきぼりの看板も依怙地いこぢなまでにここでは似合ひ
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
旋条がかなり磨滅し、撃鉄や安全環はニッケルが剥落して黒い生地きじあらわし、握りの処のエボナイトの浮彫うきぼりも、手擦れで磨滅してしまっている。少くとも十年以上使用したものである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かゝる骨には褐色の尖帽をせて、腹に繩を結び、手には一卷の經文若くは枯れたる花束を持たせたり。贄卓にへづくゑ花形はながたの燭臺、そのほかの飾をば肩胛かひがらぼね脊椎せのつちぼねなどにて細工したり。人骨の浮彫うきぼりあり。
眼はぱっちりしてまゆも濃く生際はえぎわもよいので顔立は浮彫うきぼりしたようにはっきりしている代り口のやや大きく下腭したあごの少し張出している欠点も共に著しく目に立って愛嬌あいきょうには至って乏しくうれいもまずきかぬ顔立であった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼らの断片語によって次第に浮彫うきぼりにされて来た。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
飛騨の名匠たくみ浮彫うきぼり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なみ珠玉しゆぎよくちりばめ、白銀しろがねくも浮彫うきぼりよそほひ、緑金りよくきん象嵌ぞうがん好木奇樹かうぼくきじゆ姿すがたらして、粧壁彩巌しやうへきさいがんきざんだのが、一である。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
閃光が半ば沈みかけた帆檣ほばしら浮彫うきぼりにし、その上には黒い大きな鵜が翼に飛沫を浴びつゝとまつてゐる。そのくちばしには寶石をちりばめた腕環を啣へてゐる。
白木しらきのものを別として塗は拭漆のもの多く稀には墨漆すみうるし朱漆しゅうるし。しばしば特殊な衣裳いしょうをこらしてある。透彫すかしぼり浮彫うきぼりや、また線彫せんぼりや、模様もまた多種である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さう言ふ平次の胸には、戀女房お靜の純情な淨らかさが、活々いき/\浮彫うきぼりされてゐるのでした。
ひよどりも飛んで行つて仕舞しまつた。日のあたたかみで淡雪あわゆきうわつらがつぶやく音を立てながら溶け始めた。侯爵の背中にニンフの浮彫うきぼりが喰ひ込み過ぎた。彼はそこではじめて腰板に腰を下す。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
眼が暗さに慣れるにつれ、中に散乱した彫像ちょうぞう、器具の類や、周囲の浮彫うきぼり壁画へきがなどが、ぼうっと眼前に浮上うきあがって来た。かんふたを取られたまま投出され、埴輪人形ウシャブチの首が二つ三つ、傍にころがっている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
飛騨ひだ名匠たくみ浮彫うきぼり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きざはしの前の花片はなびらが、折からの冷い風に、はらはらとさそわれて、さっと散って、この光堂の中を、そらざまに、ひらりと紫に舞うかと思うと——羽目はめ浮彫うきぼりした、孔雀くじゃくの尾に玉を刻んで
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石(浮彫うきぼり)にはなかなかいいのがあるな。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二輪にりんそら蒔絵まきゑしたほしごとく、浮彫うきぼりしたやうならべられた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)