沢山たんと)” の例文
旧字:澤山
弟は十六七でございますが、色の白いい男で、女の様でございます、それで姉弟でってるのだがの位のは沢山たんとはありませんな
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「身に染む話に聞惚ききとれて、人通りがもう影法師じゃ。世の中には種々いろいろな事がある。お婆さん、おかげ沢山たんと学問をした、難有ありがとう、どれ……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沢山たんと仰有いよ。棺を埋めますと土が丁度一杯々々でございます。し土が減らないなら棺桶丈けの分が余りそうなもんじゃございませんか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ええ、まあ、御蔭様で好いお嫁さんを見つけました。あれ位のお嫁さんは探したってそう沢山たんと無い積りだ。大旦那始め皆な大悦びよなし……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうさね、煮え切ってぴんぴんしているものは沢山たんとないようだ。御互も、こうやって三十年近くも、しくしくして……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「笑いたきゃア沢山たんとお笑いなさい……失敬な。人の叱られるのが何処どこ可笑おかしいンだろう? げたげたげたげた」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あんぽんたん! 南十字星が内地で見えてたまるかい。言うちゃなんやけど、あの星を見た者は、広い大阪にこのわいのほかには沢山たんと居れへんねやぞ。」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
久し振でお目にかかつて何か申たい事は沢山たんとあるやうなれど口へ出ませぬは察して下され、では私は御別れに致します、随分からだをいとふてわづらはぬ様に
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なに売れ! だが、ちゃんとおれは知ってるぞ、君は酷い野郎だから、どうせ沢山たんとは出しやすまいが?」
其麽そんな沢山たんとでも無えす。俺等おらも明日盛岡さ行ぐども、手さ持つてげば邪魔だです。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたし沢山たんとは云いますまい。さあいさぎよくこの鎌で、死、死んでくださりませ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この暑いに——、沢山たんともうけがねえだ」
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
何時いつでも母親おふくろが旨いものを拵えてくれて、肴は沢山たんとはないが、此方こちらはこちらで勝手に遣ります、其方そちらはそちらで勝手におあがりなさい
近間におおき建築たてものの並んだ道は、崖の下行く山道である。峰を仰ぐものは多いけれど、谷をのぞくものは沢山たんとない。夜はことさら往来ゆききが少い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今のうち沢山たんと勉強して貰って置いて、今に此方こっちが貧乏したら、救って貰う方が好いじゃないか」と云った。梅子は
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「よう御座んす。沢山たんと仰い」と奥様はすこし甘えて、「ですがねえ、桜井さん、私は何程どんなに酔いたいと思っても、苦しいばかりで酔いませんのですもの」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見た者は、広い大阪に、このわいのほかには沢山たんとは居れへんネやぞ、見たかったら、南へ行け、南へ!
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
師走の空に芝居みる人も有るをとお峯はまづ涙ぐまれて、まづまづ風の寒きに寝ておいでなされませ、と堅焼かたやきに似し薄蒲団うすぶとんを伯父の肩に着せて、さぞさぞ沢山たんとの御苦労なさりましたろ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その流しにやつて来た者に対して、各々の家の主婦なり主人なり、そのほか、誰でも家に居残つた者が、腸詰とか、麺麭とか、銅貨といつた、うちに沢山たんとあるものを、袋の中へ投りこんでやる。
尤も蝙蝠傘の骨を拵える会社なんてものは沢山たんともあるまいけれど
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
寝たの寝の字もおっしゃらないなぞてえのは、実に貴方あなたのような苦労をなすったお方は沢山たんとえって、蔭でのろけて居りますんで
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ああ、そう、早瀬さん、沢山たんとあがって頂戴、お煙草。露西亜ロシヤ巻だって、貰ったんだけれど、島山(夫を云う)はちっともみませんから……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今のうち沢山たんと勉強してもらつて置いて、いま此方こつちが貧乏したら、すくつてもらふ方がいぢやないか」と云つた。梅子は
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どなたッ?」わざと言うと、「わいや」「わいでは分りまへんぜ」重ねてとぼけてみせると、「ここ維康や」と外の声はふるえていた。「維康いう人は沢山たんといたはります」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「源、お隅はお前の命を助けてくれたぞよ。さあ爰へ来て沢山たんと御礼を言いなされ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其のお米を買うたって一時いちじ沢山たんと買って知れては悪いと思いましたから、狐鼠こっそり少し買い、一朱もお金を出せば薪も買えれば炭も買える
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、お塩梅が沢山たんと悪いんじゃありませんか、何しろお上りなすって、お休みなさいましたら何うでしょう。貴方、御気分は如何です。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん。だから兄さんを大事にしなくっちゃあ行けないよ。こんな親切な兄さんは日本中に沢山たんとはないぜ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「源、おめえ握飯むすびはどうだい。たべろよ。沢山たんとあって残っても困るに」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんです、遠慮ゑんりよなくうおひなさい、わつしが買つてげませう、何様どんな物がべたいんです、うもなんだツて沢山たんとべられやしますまい。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
葛 千草八千草秋草が、それはそれは、今頃は、露を沢山たんと欲しがるのでございますよ。刻限も七つ時、まだ夕露も夜露もないのでございますもの。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもせっかく名ざしで申し込まれたお貞さんのために、沢山たんとない機会を逃すのはつまり両損になるという母の意見が実際上にもっともなので、理に明るい兄はすぐ折れてしまった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お島は甘いものが好きだに、沢山たんと食べろや——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兼「フム、おめえさんの方がなか/\うめもんだ、其の先にむずかしい字が沢山たんと書いてあるが、お前さん読んでごらんなせい」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いいえ、いますよ、丸顔のね、髪の沢山たんとある、そして中形の浴衣を着て、赤い襦袢じゅばんを着ていました、きっとですよ。」
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肉はほゝと云はずあごと云はずきちりとしまつてゐる。ほねの上に余つたものは沢山たんとない位である。それでゐて、顔全体がやわらかい。肉が柔らかいのではない、ほねそのものが柔らかい様に思はれる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
アノわつし大福餅だいふくもち今坂いまさかのやうなものをべて見たいのです。金「餅気もちツけのものを沢山たんとくつちやア悪くはありませぬか。源「いえ悪くつてもかまひませぬ。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
最愛いとしい、沢山たんとやつれ遊ばした。罪もむくいもない方が、こんなに艱難辛苦かんなんしんくして、命に懸けても唄が聞きたいとおっしゃるのも、おっかさんの恋しさゆえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はなるほどなるほどと聞いていた。次に御前は門司もじを見たかと聞いた。次にあすこの石炭はもう沢山たんとは出まいと聞いた。沢山は出まいと答えた。実は沢山出るか出ないか知らなかったのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多「すたるものだが、斯うして有れば売れやすが、あれで始めれば沢山たんとお借り申しても二十五両でやる積りでござりやす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
きまりが悪うございますわ。……(太郎は米搗き、次郎は夕な、夕な。)……薄暮合うすくれあいには、よけい沢山たんと飛びますの。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沢山たんと御冷おひやかしなさい。人がせっかく親切に言って上げるのに」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幾らカクラてえお強請ねだり申すのでげすから貰う方で限りはねえ、幾ら多くってもいが、お賤さんの方は沢山たんと遣りたくねえというのが当然あたりめえの話だが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けどな、多一さん、貴下あんたな、九太夫やったり、そのな、額のきずで、床下から出やはった処は仁木にっきどすせ。沢山たんと忠義な家来ではどちらやかてなさそうな。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
砲丸抛程腕の力のるものはなからう。力のる割に是程面白くないものも沢山たんとない。たゞ文字通り砲丸を抛げるのである。芸でも何でもない。野々宮さんは柵の所で、一寸ちよつと此様子を見て笑つてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
○「困るだろうねえ無尽むじんを取って来たから……取って来たって割返しだよ、当れば沢山たんと上げるがたった六十四文ほきゃアないが是をお前にわしが志しで」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「はいはい、あれ、まあ、御覧ごろうじまし、鳩の喜びますこと、沢山たんと奥様に頂いて、クウクウかいのう、おおおお、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客「何でもお前さんは沢山たんと遊んだ人に違いない、さん/″\親不孝をした揚句、斯ういう処へ這入ったんでしょう」
ういへば沢山たんと古い昔ではない、此の国の歴々れきれきが、此処ここ鷹狩たかがりをして帰りがけ、秋草あきぐさの中に立つて居たなまめかしい婦人おんなの、あまりの美しさに、かねての色好いろごの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
美代ちゃんの母親おふくろさんもんなにか悦びましょう、しかし彼のばゝあは何うも慾がふけえたッてなんて、んなのも沢山たんとはありません、慾の国から慾をひらきに来て
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)