明瞭めいれう)” の例文
此處こゝたよ、そんなにばらなくつたつてえゝから、なんだかおとつゝあは」おつぎの勘次かんじしかこゑやはらかでさうして明瞭めいれう勘次かんじみゝひびいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けれどもかれ斯道このみちにかけてはまつたくの門外漢もんぐわいかんであつた。したがつて、これより以上いじやう明瞭めいれうかんがへうかばなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし太古たいこにおける日本にほん世態せたいけつしてこれがためだいなる慘害さんがいかうむらなかつたことは明瞭めいれうである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
その頃はもう月の出が遲く、誰が何處に居るやら、顏の見分けも覺束ないくらゐ、その中を平次の聲だけが、不氣味に明瞭めいれうに、さながら冥府めいふの判官のやうに響き渡るのです。
部屋は小さいが我慢が出来る、ただ毎日四階まで昇降することは如何いかにも大儀だから、第一の部屋が借りられるならばその方にしようと思ひ、明瞭めいれう返詞へんじを与へずに帰つて来た。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かういふ関係の正体を、和作自身よりも簡単明瞭めいれうに察したのは、怜悧りこうな若夫人の常子だつた。突然鶴子は二階に登つて来ないやうになつた。その代りに青桐は意味ありげに繁茂した。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
とらへて引立ひきたつるにらばまゐるべしおはなしなされ大方おほかた人違ひとちがひとおもへどおにかゝりしうへならではおうたががたからん御案内ごあんないたのまをすと明瞭めいれうこたへながらこゝろうち依然いぜん濛々漠々まう/\ばく/\
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まづ責任せきにん閑過かんくわする一れいまをしませう。それはおも外出ぐわいしゆつなどについおこ事柄ことがらで、塾生じゆくせい無論むろんわたくしおやから責任せきにんもつあづかつてゐるのですから出入ではいりつきては行先ゆくさき明瞭めいれうにしてきます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
それの一つは極く微細な、併し極く明瞭めいれうな市街である。それの一部分である。
見物人が笑つた。舞台の人物はおとしたものをさがていなにかを取り上げると、突然とつぜんまへとはまつたく違つた態度になつて、きはめて明瞭めいれう浄瑠璃外題梅柳中宵月じやうるりげだいうめやなぎなかもよひづきつとめまする役人………と読みはじめる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その結果は簡單明瞭めいれうであつた。八重ちやんと、主人名義のお銀ちやんとは、翌日午前九時迄に、T署へ出頭を命じられた。即ち、三日の拘留と二十六圓の金刑とを二人は言ひ渡されたのである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
以上いじやう……滋養じやう灌腸くわんちやうなぞは、絶対ぜつたいきらひますから、湯水ゆみづとほらないくらゐですのに、意識いしき明瞭めいれうで、今朝こんてう午前ごぜんいき引取ひきとりました一寸前ちよつとぜんにも、種々しゆ/″\細々こま/″\と、わたしひざかほをのせてはなしをしまして。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれさむさがほねてつするのことを明瞭めいれうあたまうかべて判斷はんだんするのには氣候きこう變化へんくわあまりに急激きふげきであつた。かれあひだ人事不省じんじふせい幾時間いくじかん經過けいくわした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その声は如何にも清澄で高野山上で聴いたのよりももつともつと美しかつた。それから三峰では直ぐ頭の上で啼くので、しぼる様な肉声も明瞭めいれうであり、人工説などの成立つ余裕も何もなかつた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「さうだらう、お前の言ふことはあんまり明瞭めいれう過ぎたよ。いくら眼がよくつたつて、火の見の上から鏡の中の賀奈女の顏がニツコリ笑つたのが見える筈もないし、頬冠りの男の顏の色まで判る筈はない」
かれなにかゞあしまつはつたのをつた。つてたらそれは荒繩あらなはであつた。かれはそれからどうしたのか明瞭めいれうゑがいてようとするには頭腦づなうあまりにぼんやりとつかれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)