新造しんぞ)” の例文
ここいらは廓外くるわそとで、お物見下のような処だから、いや遣手やりてだわ、新造しんぞだわ、その妹だわ、破落戸ごろつきの兄貴だわ、口入宿くちいれやどだわ、慶庵だわ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
灯のつくころ、中田に来て、いつもの通り階段はしごを上がったが、なじみでない新造しんぞが来て、まじめな顔をして、二階の別のへやに通した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「おお、お亀さんか。久しく見えなかったね。お蝶坊も好い新造しんぞになったろう。あの子もおとなしく稼ぐようだから阿母おっかあもまあ、安心だ」
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それが解りませんよ、——何しろ中庭は真っ暗だ、——女には違いないが、新造しんぞか、年増か、綺麗か醜いかの見当も付かねえ」
火鉢の縁にひじをもたせて、両手で頭を押えてうつむいている吉里の前に、新造しんぞのお熊が煙管きせるつえにしてじろじろと見ている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
晩春の頃で、独活うどと半ぺんの甘煮うまになども、新造しんぞは二人のために見つくろつて、酒を白銚はくてうから少しばかり銚子に移して、銅壺どうこでおかんをしたりした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
大きい花魁が万事突出し女郎の支度をして遣るんだそうで、夜具布団からしかけから頭飾あたまのものから、新造しんぞ禿かむろの支度まで皆その大きい花魁が致します。
はさみの音、水の音、新聞紙を拡げる音、——その音の中にじるのは、籠一ぱいに飛びまはる、お前たちのさへづり声、——誰だい、今親方おやかたに挨拶した新造しんぞは?
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、万年新造しんぞ」と云うと、「でも新造だけは難有ありがたいわねえ」と云って、しんから嬉しいのを隠し切れなかったようである。とにかく三十はたしかに越していた。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こういう姉が、肉親として、現われてみると、お次は、どう考えても、与力の御新造しんぞ様になる資格は、もう自分にはないものと、心に、ひとりきめてしまった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冗談じょうだんじゃございませんよ、犬に嫌われたからって、人徳がどうのこうのと言われちゃあまらねえ、がんちゃん儀は犬には嫌われますが、年増としま新造しんぞには、ぜっぴ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その席には遊女が二人、新造しんぞが三人おり、三人の新造が、七十郎と十左に給仕をしていた。
姉なる人が全盛の余波なごりいては遣手やりて新造しんぞが姉への世辞にも、美いちやん人形をお買ひなされ、これはほんの手鞠代てまりだいと、くれるに恩を着せねば貰ふ身の有がたくも覚えず、まくはまくは
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お嬉しかろと調戯からかってらして底悦喜そこえっきさする冗談なれど、源太はかえってしんからおかしく思うとも知らずにお伝はすいと明くれば、のろりと入り来る客は色ある新造しんぞどころか香も艶もなき無骨男
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「やい、椋、ワルソウの新造しんぞ如何どうだ?……気に入つたか?」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
昨夜ゆうべまたやったよ、聞いたかねもう。今度は三十ばかしの野郎よ、野郎じゃアねッからお話になんねエ、十七、八の新造しんぞなきゃア、そうよそろそろ暑くなるから逆上のぼせるかもしんねエ。』と大きな声で言うのは『踏切の八百屋やおや』である。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
……わたし身邊しんぺんには、あいにくそんな新造しんぞないが、とにかく、ふくろにして不氣味ぶきみがる。がふくろのこゑは、そんな生優なまやさしいものではない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつも——客がいる時でも、行くとすぐ顔を見せた女がやって来ない。不思議にしていると、やがてなじみの新造しんぞが上って来て
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
御屋敷の新造しんぞが解った方で、——三好屋の知合いで、風流気のある方があったら、ぜひ御一緒に——とこう言うのじゃ、どうだな、八五郎兄哥あにい
新造しんぞの注意か、枕もとには箱火鉢に湯沸しが掛かッて、その傍には一本の徳利と下物さかなの尽きた小皿とを載せた盆がある。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
と是から番頭新造しんぞへ話をいたし番頭新造から此の事をいなぎに話すと、いなぎも承知し、二人共に仲の町の山口巴屋やまぐちともえやに並んで腰を掛けて居る処を
或日の午後、彼女はそつ新造しんぞに其事を話して、くるわを脱け出ると土産物を少し調とゝのへて、両国から汽車に乗つた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ここに仲平の姉で、長倉ながくらのご新造しんぞと言われている人がある。翁はこれに意中を打ち明けた。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十徳じっとくを着た、坊主頭の、かなりの年配な、品のよい人が不意に姿を現わし、障子をあける音もなしに入って来たから、眼の見えない按摩のほかは、新造しんぞ禿かむろも一度に狼狽して
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
李師々りしし大夫は言ったが、折ふし、わらわらと禿かむろ新造しんぞが小走りにそとまで来て。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいえ、それが新造しんぞ衆や女中達じゃありません。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けだし昼のうちるだけに一間のなかばを借り受けて、情事いろごとで工面の悪い、荷物なしの新造しんぞが、京町あたりから路地づたいに今頃戻って来るとのこと。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「親分、こいつは変っているでしょう。とって十九の滅法めっぽう綺麗な新造しんぞが仏様と心中したんだから、江戸開府けえふ以来の騒ぎだ」
わっちが上野の三橋側の夜明よあかしの茶飯屋のところで、立派な身形みなり新造しんぞが谷中長安寺への道を聞いてるんで、てっきり駈落ものとにらんで横合から飛び出し、私もね
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
廊下で喧嘩けんかをしている、とんがった新造しんぞの声かと思って、目がさめると、それが隣りの婆さんであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
帰期かえりらせに来た新造しんぞのお梅は、次の間の長火鉢に手をかざし頬をあぶり、上の間へ耳をそばだてている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「ナニ、徳間峠の? まさかあの切髪の新造しんぞじゃあるめえな」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「イヤな野郎だな。可笑しくて笑う分には年貢は要らねえが、顔の造作は台なしだぜ。そんな羽目をはずした相好を、新造しんぞに見せねえようにしろ」
扱帯しごきの下を氷で冷すばかりの容体を、新造しんぞ枕頭まくらもとに取詰めて、このくらいなことで半日でも客を断るということがありますか、死んだ浮舟なんざ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正「いけねえよ若衆わかいしゅさん、それは御免を蒙ろう、わっしたちはみんな足が達者で、あとから来る婆さんの新造しんぞなんざア足が達者で、馬と一緒に駆けて歩くくらいのものだ」
一時新造しんぞに住み込んでまで、くっついていた母親が、お雪に自分のことばかりを考えさせておかなかったのではあったが、黒田の世話になっていた時分からの、お雪自身の体にも
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
新造しんぞを先に立てて、白妙の部屋へ駈けつけて
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それも當にはなりません。盜んだ品を返しに來るのは、目の醒めるやうな美しい新造しんぞだつて言ひますが、それが盜むにしちや、手際が良過ぎます」
江崎のお縫は芳原の新造しんぞむすめであるが、心懸こころがけがよくッて望んで看護婦になったくらいだけれども、橘之助に附添って嬉しくないことも無いのであった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いま花魁の出ているは矢ッ張り軍艦ふねのお客で、今夜は二回うらをかえしにお出でなされたんでげすから、疎末そまつにはしない、しきりに一昨夜おとついのばん不勤ふづとめを詫していると、新造しんぞが廊下から
成金の令嬢か新造しんぞの着る様な金目のものを取寄せて、思いきったけばけばしい身装なりをして、劈頭のっけに姉を訪ねたとき、彼女は一調子かわったお島が、何を仕出来しでかすかと恐れの目をみはった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それも当にはなりません。盗んだ品を返しに来るのは、目のめるような美しい新造しんぞだって言いますが、それが盗むにしちゃ、手際が良すぎます」
いきなり、手をのばすと、その新造しんぞの胸倉を打掴ぶッつかめえて、ぐいと引摺ひきずり込みながら硝子戸がらすどを片手でぴッしゃり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分から近所の人に、萩原様の所へ幽霊の来るのを己がたしかに見たが、幽霊が二人でボン/\をして通り、一人は島田髷しまだまげ新造しんぞで、一人は年増で牡丹の花の付いた灯籠をげていた
そこで新造しんぞたちを相手に酒を飲んでゐたが、彼女自身はちよつとうちかけを着て姿を見せただけで……勿論どんな客だかといふことは、長いあひだ場数を踏んで来た彼女にも、淡い不安な興味で
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「つまらねエ見得を張りやがるな、そばに美しい新造しんぞでも居る時は、八さんとか、八兄哥あにいとか言ってやるよ、平常ふだん使いはガラッ八で沢山だ。贅沢ぜいたくを言うな」
つい今年の三月、熱海へ奉公に出ておった、お前ぐれえな新造しんぞがの、親里の吉浜へ、雛の節句に帰るッて、晩方通りかかっての、絞殺しめころされた処だぜ、なあ、おじい。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今小兼は出て来てうちに居るのだがね、妙なもんで六年あと彼奴あいつい女だったが、此の頃はこう小皺が寄ってきて、年をった新造しんぞの顔はおっかねえもので、何だか見るのも厭になったが
ブランコの足を引っ張られるか、川へ突き落されるのが関の山だが、——若くて綺麗な新造しんぞはトクだね、親分。
ぬしになって隠れていそうな気がする処へ、蛇瓶の話を昨日きのう聞いて、まざまざと爪立足つまだちあしで、黒焼屋の前を通ってからというものは、うっかりすると、新造しんぞも年増も、何か下掻したがいつまあたりに
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)