たお)” の例文
そして、小石川の邸へ帰った芳郎は、その翌朝よくちょう散歩すると云って家を出たが、間もなく死体となって坂路の登り口の処にたおれていた。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから妾はキヨにいろいろ命じたりして、約五分か十分経って、妾が離座敷に行ったときには、もう真一がたおれていたのであった。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし天下の事は成敗利鈍りどんをもって相判あいはんそうろうわけにはこれなく、小生は正をもって起こり、正をもってたおるること始めよりの目的にそうろう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし疫病えやみは日一日と益〻猛威をたくましゅうし、たおれる人間の数を知らず、それこそ本統ほんとう死人しびとの丘が町の真ん中に出来そうであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春に誇るものはことごとくほろぶ。の女は虚栄の毒を仰いでたおれた。花に相手を失った風は、いたずらにき人の部屋にかおめる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一兵でも惜しむように、溺れる者や、矢にたおれ去る者を、眼にいたみながら、なお声をふりしぼって、水馬に馴れない兵たちに教えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち肋膜炎で総人口の四分の一、高熱病で三分の一、結核で六分の一がたおれる。三者を合計すると死亡総数の七分の五となる。
そのはずみに、機関室からは有毒のクローリン瓦斯ガスが発生して、艇長を除く以外の乗組員は、ことごとくその場でたおれてしまいました。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
原来彼の黄金丸は、われのみならずかしこくも、大王までを仇敵かたきねらふて、かれ足痍あしのきずいえなば、この山に討入うちいりて、大王をたおさんと計る由。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
すべての膂力りょりょくと意力を傾けてたたかうことが出来る、征服するか、それともこちらがたおれるか、ぎりぎりで挑むことが出来るであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ふぐでなくても、無知な人間は無知のために、なにかでたおれる失態は、たくさんの例がある。無知と半可通はんかつうに与えられた宿命だ。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その毒にあたってたおれるところを、前に申す通り、眼玉をくり抜いたり、腹を裂いたり、さんざんに斬り刻んで川へ投げ込んだ。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弓馬きゅうばの家に生れながら、そんな卑怯なことは出来ない。飽くまで自分の力を以て敵をたおすのだ。そうして其奴の首をね、鼻を斬るのだ。
しかしすぐにまた弓をかわぶくろに収めてしまった。再びうながされてまた弓を取出し、あと二人をたおしたが、一人を射るごとに目をおおうた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
クレオパトラとアントニーは、おのおの自分の鼻の表現に依って支配された運命に従って、スフィンクスの膝下にたおれたと伝えられております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三十六年には主務なる又一またいちは一年志願兵となり、其不在中大雪に馬匹ばひつの半数をたおしたり。三十七年には相与あいともに困苦に当るの老妻は死去せり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
賭博場を飛び出した僕はやがて餓えにたおれるだろう。もう一度あの門をくぐろうか。それとも、まじめな仕事がどこかにあるとでもいうのか。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
被害者は血を流してたおれた。従って、加害者の衣服などに、血痕が附着したかも知れないと考えるのは極めて自然なことですね
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古人これをった唯一の法は、毎人鏡を持ちて立ち向うに、バシリスクの眼毒が鏡のためにその身に返り、自業自得でやにわにたおれたのだ。
この一方が斬られてここへ来てたおれ、一方はその先途を見届けんとして、あと追いかけて来たものと、見れば見られないことはありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
安藤対馬の災難は不思議にもその傷が軽くて済んだが、多くの人の同情は生命拾いのちびろいをした老中よりも、現場にたおれた青年たちの上に集まる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの時、元気で私達の側に姿を見せていた人達も、その後敗血症でたおれてゆくし、何かまだ、惨として割りきれない不安が附纏つきまとうのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
父が卒中でたおれたほどの大酒家であったので、自然に病的な素質を持っていて、或時期に往往はげしいヒステリイに襲われることがあるから
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一人をたおしたうえ一人の高腿たかももを斬りはなした、そこへ小者や庄屋の家僕たちが駆けつけて来て、傷ついた賊を生捕りにした。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(3)一六六五年よりその翌年にかけて、ロンドンに疫病が流行し、当時のロンドンの住民の約三分の一、七万人がたおれた。
または塩を買いに出て吹雪に遭ってたおれたとさえいって、この二十三日の晩に煮るかゆには、今でも塩を入れてはならぬという家が少なくない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
加世子はその一月の二日に脳溢血のういっけつたおれたのだったが、その前の年の秋に、一度、健康そうにふとった葉子が久しぶりにひょっこり姿を現わした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
走者ラナー二人ある時は先に進みたる走者をまずたおさんとすること防者が普通の手段なり。走者三人ある時はこれを満基フルベースという。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あんまり馬をはしらせしゅぎたもんだから、半分は、馬が途中でたおれてしゅまったんだそうだ。——今、やって来ましゅよ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
現代が自らの病気にたおれる日は近づいている。一切の社会主義的運動は今後強まるとも、決して弱まることはあり得ない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一人でも多く番士をたおしたほうがいいから、源助町の剣をひっぱずして、長駆ちょうく、番士の群へ殺到すると、その気魄きはくの強さにおそれを抱いたものか
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実際に力きてしかる後にたおるるはこれまた人情のしからしむるところにして、その趣をたとえていえば、父母の大病に回復の望なしとは知りながらも
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
われわれの最善な人たちが労苦にたおれるのを見ているのだ——しかもそのわれわれこそ、国民のうちの生きた力である。
勇猛な一人の騎士カバレロが槍を持って悍馬かんばまたがり、おなじく勇猛なる牡牛トウロスに単身抗争してこれをたおすのがその常道だった。
僕の知人は震災のために、何人もこの界隈にたおれている。僕の妻の親戚などは男女九人の家族中、やっと命を全うしたのは二十前後の息子だけだった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
討とうとする得物えものじゃ。凡そ、人を討つほどの者は、敵のみ討って、己を全うしようと考えてはいかん。己も死ぬ、その代りに、敵もたおす。この覚悟を
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そしてU氏は無資産の老母と幼児とを後に残してその為めにたおれてしまった。その人たちは私たちの隣りに住んでいたのだ。何んという運命の皮肉だ。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこにたおれている少年の心臓が、ピストルに射貫いぬかれ、打砕かれたのを摘出し、それにいる安南人の健全な心臓と取替えたのじゃ。すると、どうじゃ。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
非業ひごうたおれし美しき夫人の上に早くも一般の同情は集中して、野獣のごとき銀行家は事情の如何を問わず、厳刑に処せよとの憎悪の叫びが巷に挙っている
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
新選組は、伏見の奉行所の門前に戦っていたが、味方なりと思っていた背後より撃たれたので、一たまりもなく敗れて、勇の養子周平外十七人たおされた。
鳥羽伏見の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ことに脾脱疽病ひだっそびょうという家畜の病気のおかげでフランスでも羊や牝牛めうしたおれることが多かったので、その予防接種の方法をパストゥールが完成したことは
ルイ・パストゥール (新字新仮名) / 石原純(著)
何でもおれはその兇器を振りまわしているうちに、ふと引金をひいたと思うと、女が声も立てずにたおれてしまったのだ。おれの覚えているのはそれだけだ。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
瀝青チャンみてえに暑くって、仲間の奴らあ黄熱でばたばたたおれるとこにもいたことがあるし、地震で海みてえにぐらぐらしてる御結構な土地にもいたことがある。
不意に翼を折った飛行機のようにキリキリと二つ三つ筋斗もんどりうって、バサリと落ちて雪に撞き当ったまま、再び飛ぶ勢もなく其儘にたおれてしまうものらしい。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
福沢にとって暗殺の不安が一番大きかったのは明治三年で、村田蔵六がその前年凶刃にたおれたのも福沢の驚きまでにも反動非開明派の手でやられたのである。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
ということを、細々こまごまと教えていますが、わずか三十歳の若さで、国事にたおれた吉田松陰こそ、まことに生死を越えた人です。生死をあきらめた人であります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
これ則ち質実、義勇、たおれてむの真骨頭を以て、尊王攘夷の大本領を発揮したるものといわざるべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
父は定雄の二十五歳のときに京城けいじょう脳溢血のういっけつのためにたおれたので、定雄は父の死に目にも逢っていなかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お勝手の水甕みずがめ——早支度をするので飯炊きの権三郎が前の晩からくみ込んで置いた水の中には、馬を三十匹もたおせるほどの恐ろしい毒が仕込んであったのです。
私たちの学友区で出した「南風」が三男であった。斑気むらぎな次男がまず死んで、剛情な長男が次にたおれ、意気地のない三男は神経衰弱にかかって活動を中絶した。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)