慈愛じあい)” の例文
教授は、したゝるような父親の慈愛じあいの眼で娘の方を見やったが再び芸術家によくある美の讃美に熱中しているときの決闘眼はたしめで新吉に迫った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
間もなく、侍僧にともなわれて、一人のつつましやかな小僧がはいって来た。和尚は慈愛じあいにみちた眼で、小僧を見ながらたずねた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうわれるおじいさんのおかおには、多年たねんがけたおしかたのついたのをこころからよろこぶとった、慈愛じあい安心あんしんいろただよってりました。
されば全校の気風は勇気にとみ、また慈愛じあいと友情にあつく、年長者は年少者を、弟のごとく保護ほごし、年少者はまた、年長者を兄のごとく尊敬そんけいする。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そこであの赤眼あかめのさそりが、せわしくまたたいて東から出て来、そしてサンタマリヤのお月さまが慈愛じあいにみちたとうと黄金きんのまなざしに、じっと二人を見ながら
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
真心から熱い慈愛じあいをそそぎこめば、まがれる竹もまっすぐになり、ねじけた心もめなおせると信じているかれだったが、竹童はとにかく、蛾次郎の横着おうちゃく奸智かんち強情ごうじょうには
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新しい洋服ようふくにからだをつつんで、全校の視線しせんをあびながら、はれの壇上だんじょうに立った光吉こうきちは、まどのそとの冬がれのおかから、母の慈愛じあいのまなこが自分を見まもっていてくれることを
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
ほとんの目も離さぬほど自分のおこなひを目戍みまもつてるらしい母親の慈愛じあい窮屈きゆうくつたまらないだけ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御内端おうちばすぎてのお物思ものおもひくよ/\ばかあそばせばこそ昨日今日きのふけふ御顏色おいろもわるし御病おわづらひでもあそばしたら御兩親をふたかたさまはさらなることなりまをすも慮外りよぐわいながらいもとおもふぞとての御慈愛じあい姉上あねうへ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼女は、母の慈愛じあいをもって、幼時から信仰を捧げている浅草の観世音かんぜおんの前に、毎朝毎夕ひそかにぬかずき、おのれの寿命を縮めても、愛児の武運を守らせ給えと、念じているのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
慈愛じあいだとか、人權を重んずるとかいふ考があツて耐るものじやない、とすりや、俺が此の家の嗣子となツたといふのも、俺自身に子爵家のちやく子となツてのさばる資格があるのじやなくツて
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その子の富士男はことし十五歳、学校はいつも優等ゆうとうであるうえに、活発かっぱつで明るく、年少者に対してはとくに慈愛じあいが深いところから、全校生徒が心服しんぷくしている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
慈愛じあいふかい父親の心にふれると、隆夫のたましいは、悲しさの底にしずんで
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
笑顏ゑがほみたしとてもおよことにあらず、父君ちヽぎみとてもなりかし、とほはなれて面影おもかげをしのばヽ、ちかきには十ばいまして、ふかかりし慈愛じあいこゑこのみヽはなれざるべし、れによりてこそ此處こヽをも
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にしろとてもわれないものとおもんでいた肉親にくしん祖父じじが、もととおりの慈愛じあいあふれた温容おんようで、もだえているわたくし枕辺まくらべにひょっくりとその姿すがたあらわしたのですから、そのときわたくしのうれしさ
「このバットには先生がぼくらを愛する慈愛じあいの魂がこもってる、ぼくはかならずこれでホームランを打ってみせるよ、ぼくが打つんじゃない先生が打つんだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
六三ろくさいとまつたくより、こヽろむすぼほれてくることく、さて慈愛じあいふかき兄君あにぎみつみともはでさし置給おきたま勿体もつたいなさ、七万石ひちまんごくすゑうまれておやたまとも愛給めでたまひしに、かはらにおとる淫奔いたづらはづかしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
加瀬谷少佐のことばには、無限の慈愛じあい言外げんがいにあふれていた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その目には不安の色が浮かび、口元には慈愛じあいが満ちている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)