軽くねじあげてふたりをなわにしたところへ、歯ぎしりかみながら悄然と現われた顔がうしろに見えました。あば敬とその一党です。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
下役人も今更ながら、わが身のおろかさに気づいたが、灰となった紅葉の前で悄然とうなだれていた。そこへ主上がお出でになったのである。
現代語訳 平家物語:06 第六巻 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
しかるにかかわらずいずれもたちまち一場の夢と化しおわって無念にも悄然たらざるを得ないのはなんとしたことであろう。
素人製陶本窯を築くべからず:――製陶上についてかつて前山久吉さんを激怒せしめた私のあやまち―― (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その時はひとり悄然として離れて、その炎の燃えて、燃えて、燃え尽きる時を待つの態度に出づるほかはありませんでした。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悄然として八丁堀から帰って来ると、これも真剣に心配しているには相違ありませんが、物に遠慮のないガラッ八が
銭形平次捕物控:025 兵糧丸秘聞 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼らはさながら嵐の後に、ただ二人荒涼たる岸へ打上げられた人のように、わびしげに悄然と並んで腰かけていた。彼はソーニャをじっとみつめていた。
罪と罰 (新字新仮名) / フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(著)
その時刻が一度過ぎ去ると、また悄然としてしまった。もう仕事もしなければ、散歩もしなかった。生存の唯一の目的は、次の郵便配達夫を待つことであった。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
その言葉に、黙り込んで悄然としていたジャン・ヴァルジャンは、あっけにとられた様子で頭をあげた。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
悄然とゆるんだ歩を、そこから折れて瓦町のとある露地へ運び入れた……市のにぎわいをうしろに。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死―― (新字新仮名) / 長与善郎(著)