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こら
ふりがな文庫
“
怺
(
こら
)” の例文
怺
(
こら
)
へると足が折れると直覚したので、出来るだけ静かにぢり/\と後へ倒れた。足は素足であつた。石は膝の骨まで食ひこんでゐた。
戦争と一人の女
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
刻一刻に
怺
(
こら
)
へ性がなくなつて、なん度となく
戸外
(
おもて
)
へ出ては木立の影が少しでも長くならないかと、そればかり眺め眺めしたものぢや。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:04 イワン・クパーラの前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
大刀
(
どす
)
と、棒と、
匕首
(
あいくち
)
とが、
挟撃
(
きょうげき
)
して
喚
(
わめ
)
き立った。庄次郎は眼の中へ流れこむ汗を
怺
(
こら
)
えて善戦したが、相手の数は少しも減らなかった。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今夜は、どのような仕儀に臨んでも、
怺
(
こら
)
えに怺え、ただ敵方の
懐
(
ふところ
)
に喰い入り、のちのちの準備に備えようというのが、覚悟なのだ——
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
「お前、……知ってるねんやろ?……どうぞ堪忍してくれ、運命や思て
怺
(
こら
)
えてくれ。」「ああ、そんなら夢やなかってんなあ。……」
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
けれども、この悲しさも、私の宿命の中に規定されて在ったのだと、もっともらしく自分に言い聞かせ、
怺
(
こら
)
えてここで仕事をはじめた。
東京八景:(苦難の或人に贈る)
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
そして終ひの五日間は、毎晩裾から
吹上
(
ふきあげ
)
る夜寒を
怺
(
こら
)
へて、二時間も三時間も教壇に立つた為に風邪を引いて寝たのだといふ事であつた。
足跡
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「どうして警察のくせに、この大事件を信じて手配をして
呉
(
く
)
れないんです」わたしはもう
怺
(
こら
)
えきれなくなって、大声で叫びました。
崩れる鬼影
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そして我々を導き入れると同時に、三人は
怺
(
こら
)
え泳えていた悲しみが一時に
堰
(
せき
)
を切ったように、
俄破
(
がば
)
とそこに
平
(
ひれ
)
伏してしまいました。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
我強
(
がづよ
)
くも貫一のなほ
言
(
ものい
)
はんとはせざるに、
漸
(
やうや
)
く
怺
(
こら
)
へかねたる鴫沢の翁はやにはに椅子を起ちて、
強
(
し
)
ひてもその顔見んと歩み寄れり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
なんとも
羞
(
はづか
)
しく、玄関に立つて可笑しさを
怺
(
こら
)
へてゐた奥さんの顔は、自動車が田圃の中の道路を走つてゐる間中、眼に浮かぶのであつた。
亡弟
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
だが黒吉は、その嘲笑を
怺
(
こら
)
えて、執拗な押問答の揚句、ともかくも、所長まで取次いで貰うまでに、幾度泪を流したことか……。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
それでも僕は何か目さきにちらつくおかしさを
怺
(
こら
)
えることができなかった。そのうちに、父も眼に指をあてて、涙を拭いだす。
雲の裂け目
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
陣痛のひどい頂上で、眼の中が白くなりかけ、産婆さんが、これは、と首を
傾
(
かし
)
げたような瞬間もあったが、頑張って、とうとう
怺
(
こら
)
え通した。
キャラコさん:11 新しき出発
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼は何かいおうとしたが、こみ上げて来る啜り泣きを
怺
(
こら
)
えることが出来ず、言葉を止めてしまった。やがて勇気を鼓して、また語りつづけた。
クロイツェル・ソナタ:01 クロイツェル・ソナタ
(新字新仮名)
/
レオ・トルストイ
(著)
そこで私は手術の苦痛を
怺
(
こら
)
えつつ、長い月日を送らねばならなかった。私はその頃の私の生活を、めで慈しみつつ思い返さずにはいられない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
「チッ! しようがないね。貴様ら、呉と郭と二人で、それじゃ夜明に出かけろ、今度はうまくやらないと荷物を没収されちゃ、
怺
(
こら
)
えせんぞ!」
国境
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
かれらまたその
表衣
(
うはぎ
)
にて
乘馬
(
じようめ
)
を
蔽
(
おほ
)
ふ、これ一枚の皮の下にて二匹の獸の出るなり、あゝ何の忍耐ぞ、
怺
(
こら
)
へてこゝにいたるとは。 一三三—一三五
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
私はそれを我慢していた。烈しい刃のようなものが、からだの中で交錯し、私を切り裂き、私を責めさいなむのを
怺
(
こら
)
えていた。声に出していった。
演技の果て
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
水野が
堪
(
こら
)
え堪えし涙ここに至りて玉のごとく手紙の上に落ちたのを見て、
聴
(
き
)
く方でもじっと
怺
(
こら
)
えていたのが、あだかも電気に打たれたかのように
遺言
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
聞いて我ら
安堵
(
あんど
)
のおもいがした。それにしてもそなたは永い間
怺
(
こら
)
えていられた。その永い間怺えていられたことだけでも、その人はそなたの
倖
(
しあわ
)
せを
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
しかしながら、ここまで込み上げたのをグッと
怺
(
こら
)
えて、ただ金助の面を睨めただけで、その握った拳を、突き放しもしなければ打ち返しもしない。
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
お
玉杓子
(
たまじやくし
)
が
水
(
みづ
)
の
勢
(
いきほ
)
ひに
怺
(
こら
)
へられぬやうにしては、
俄
(
にはか
)
に
水
(
みづ
)
に
浸
(
ひた
)
されて
銀
(
ぎん
)
のやうに
光
(
ひか
)
つて
居
(
ゐ
)
る
岸
(
きし
)
の
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
隱
(
かく
)
れやうとする。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
押し
潰
(
つぶ
)
されそうな窮屈を我慢するよりも、少し時間の浪費を
怺
(
こら
)
えた方が差引
得
(
とく
)
になるという主義の人かとも考えて見たが、満員という札もかけず
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
怺
(
こら
)
え兼ねて大きな腰を顫わせている細川君を上陸させ、同舟の人々は危く舟の顛覆を免れた、という奇談があった。
葵原夫人の鯛釣
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
あとに残された葉子は橋の欄干にもたれて、じっと唇をかんで
怺
(
こら
)
えたが、あつい涙がはらはらと水のうえに落ちた。
先生の顔
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
その強烈な香りが梯子段とつつきの三疊の圭一郎の室へ、次の間の編輯室から風に送られて漂うて來ると、彼は
怺
(
こら
)
へ難い
陋
(
さも
)
しい嗜慾に
煽
(
あふ
)
り立てられた。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
どうかすると、兄は
悶
(
もだ
)
えながら起きあがって、痩せた膝に両手を突きながら、体をゆすりゆすり苦痛を
怺
(
こら
)
えていた。
挿話
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
怺
(
こら
)
えに、怺えに、怺えて見たが、とうどう怺え切れなくなッて、「して見ると、同じように苦しんでいるかしらん」
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
蝸牛
(
かたつむり
)
が背中に自分の
殻
(
から
)
を背負つてゐるやうに、自分の心一つに、自分の寂しさを背負つて、その寂しさを
怺
(
こら
)
へていくことが、きつと立派な修行なんだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
益々好色的な気分に成って未だ
当
(
あて
)
の定らない裡に最早や其の牛屋に坐って居る事に
怺
(
こら
)
えられなく成り、歩き乍ら定めようと元の活動街の方へ引返して参りました。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
なるほど、弁士鬼頭海軍少佐の鼻の頭には
膏汗
(
あぶらあせ
)
が溜り、聴衆の唇はそれぞれ、笑ひたさを
怺
(
こら
)
へてゐた。
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
けれども巨人の方では奥に二人が入るにつれて、こそばゆくなつて、
嚏
(
くさみ
)
をしさうになりますのを
怺
(
こら
)
へ/\致しますので、中の二人は時々その強い息に吹き
仆
(
たふ
)
されました。
漁師の冒険
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
私は何んでもないと云った目くばせをしながら、そのまま徐かに彼女の上に身を屈めて、いかにも
怺
(
こら
)
え
切
(
き
)
れなくなったようにその顔へぴったりと自分の顔を押しつけた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
雖然其苦痛を
償
(
つぐな
)
ふだけの滿足もあツたのだから、何うにか此うにかおツ
怺
(
こら
)
へては經てゝ來た。滿足とはガラスを
透
(
すか
)
して見てゐた花を手に取ツて頬ずりしたことであツた。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
悲しみを
怺
(
こら
)
えて爽快げな
見得
(
みえ
)
を切りながら古い自作の「新キャンタベリイ」と題する
Ballad
(
うまおいうた
)
を、六脚韻を踏んだアイオン調で朗吟しはじめたが一向
利目
(
ききめ
)
がなかった。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
アポロ怒ってミの耳を驢の耳にし、ミこれを
慚
(
は
)
じて常に高帽で隠しその一僕のみ主人の髪を
剪
(
はさ
)
む折その驢耳なるを知った。由ってその由人に洩らすまじと慎んでも
怺
(
こら
)
え切れず。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
慍
(
いきどお
)
りを
怺
(
こら
)
えて、氏を家に招いて懇談し、また同じ一高教師であった片山敏彦君からも説得してもらうように頼んだが何もかも無効で、ワ氏はそのままプイと帰国してしまった。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
と但馬君が
怺
(
こら
)
え切れずに買って出た。但馬君は広瀬君が威張り出すと責任を感じる。
妻の秘密筥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
ことにこんなジメジメした
夜中
(
やちゅう
)
には、
蝮
(
まむし
)
が多く
叢
(
くさむら
)
から途中に出ているので、それを踏み付けようものなら、
生命
(
いのち
)
にも係わる危険であるが、咽の渇きも
迚
(
とて
)
も
怺
(
こら
)
える事が出来ぬので、一同は評議の上
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
この時東屋氏が、
怺
(
こら
)
えかねたように傍らから口を入れた。
死の快走船
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
彼女はなにか
可笑
(
おか
)
しさを
怺
(
こら
)
えている表情を示したが
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
おなか (
怺
(
こら
)
え切れず)あれ、わたしは、あちらへ。
中山七里 二幕五場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
筋
(
すじ
)
の痛を
怺
(
こら
)
へて臥し居れば昼静かなる根岸の日の永さ
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
梅子は
袖
(
そで
)
を
噛
(
か
)
み締めて声立てじと
怺
(
こら
)
へぬ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
エミルが
怺
(
こら
)
へきれないで叫びました。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
「坊ちやん、もうお止しなさいましな。御覧なさいまし、叔父さんがあんなに泣いて入らつしやいますのに。あなたの方がお強いんですから、もう
怺
(
こら
)
へてお上げなさいましな。——ほゝゝゝどうしたつて仰るんでございませう。」
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
かれは
怺
(
こら
)
へず、娘と孫とを抱いて。
新浦島
(新字旧仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
怺
(
こら
)
えに怺えた涙が胸に
痞
(
つか
)
えて
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
が、やがてその日帰ってきた尼は、疲れた姿を、
義姉
(
あね
)
の前に薄くひれ伏すと、
怺
(
こら
)
えに怺えてきたものを、いちどに吐いて
咽
(
むせ
)
ぶように
私本太平記:01 あしかが帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
怺
漢検1級
部首:⼼
8画
“怺”を含む語句
不怺
推怺