御仁ごじん)” の例文
はなは唐突とうとつでありまするが、昨年夏も、お一人な、やはりかような事から、貴下あなたがたのような御仁ごじん御宿おやどをいたしたことがありまする。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お見うけするような御仁ごじんでございましたので、私たちにいたしますれば、まさしく、一つの事件には相違なかったのでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
「しかも、同じくこの上野原の宿屋へ今日泊り合せた客人に、同じく駒井能登守殿の家中にて、和田静馬と名乗る御仁ごじんがござる」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かの御仁ごじんも天文人相に詳しいので、とかくに彼女かれを疑うて、さきの日わしに行き逢うた折りにもひそかに囁かれたことがある。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「待った! 待った! とんだ気ばやの御仁ごじんじゃ。わしは、ただ、殿の言いつけでまいっただけで、近ごろもって迷惑至極!」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「さっそく、今朝は自分たちも、お暇をつげたく存じますが、ここの毛利時親どのとは、そも、いかなる御仁ごじんか、お聞かせおき下さるまいか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イカは白い、などという御仁ごじんは、イカを知らぬ人だ。イカは決して白くはない。あれは、腐りかけているイカの死がいだ。イカは透きとおっている。
海の青と空の青 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
人によって言葉を選まないから、或る人は威厳のある先生様だと思い、或るものは、分らない事を云う御仁ごじんだと思う。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もっとも、なかには、わたくしという人間を誇張したがっておる御仁ごじんもありますがな。これはミウーソフさん、あんたに当てて言ってることですよ。
徳川殿の御感ぎょかんにあずかった御仁ごじんこそ、別人ならぬその田中兵部大輔殿でござることを、よもお忘れはなさりますまい。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
へえ、わたくしは正武隊付きで、兵糧方ひょうろうかたでございましたから、よくも存じませんが、重立った御仁ごじんで助けられたものは一人もございませんようです。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御前へめされ汝必ず輕擧はやまる事なかいまだ其者刑罰けいばつに行はざれば再應さいおう取調とりしらべ此後とて出精しゆつせい相勤あひつとむべしと上意有しかば大岡殿御仁ごじん惠の御沙汰さたかしこまりたてまつると感涙かんるゐを流され御前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いやはや、息子殿も変った方じゃったが、その父御もいずれ劣らぬほど変った御仁ごじんにござる。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
閣下のような登りつめて上のない御仁ごじんは平気で頭を光らせていられましょうが、腕一本で妻子を養って行く会社員は然う参りませんと言ってやったんです。憤りましたよ
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まったく、どこの税関でもおかまいなしに通れる、結構なご身分というもんさ。こっちも、そういう御仁ごじん相手でなけりゃ話しても無駄だし、また、大将なら乗ってくれるだろう。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自国宰相じこくさいしょう面影おもかげに生きうつしで、影武者に最適なりとの評判高き御仁ごじんで、そのままの御面相でうろつかれては、宰相と間違えられていつなんどき面倒めんどうなことが発生するやも知れず
ところで、読者の中には定めし、手箱の構造から内部の仕組しくみまで知りたいと思うほど、実に物好きな御仁ごじんがおられることと思う。よろしい、その望みを叶えて進ぜて悪かろう筈はない。
この御仁ごじんは、如何なるお人であるのだろう? 如何にもあの時の、わたしの構えは、あの刀が振り下ろされたら、かわしたと見せて、咽喉元を、銀扇のかなめで、突き破ってやるつもりだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さる程に、かゝる折柄、此の唐津藩の御家老職、雲井なにがしと申す人、此事を聞き及ばれ候ひて、御三男の喜三郎となん云へる御仁ごじんをば、妾が婿がねに賜はり、名跡をがせらる可き御沙汰あり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっと彼処あすこへは、去年の秋、細君だけが引越ひきこして参ったので。ちょうわたくしがお宿を致したその御仁ごじんが……お名は申しますまい。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしがところにおる吉田竜太郎と申される御仁ごじんが、これも近いうち関東へ立つ、次第によりて同行を願うてみたら——」
かつての歴代の町奉行にはなしあたわぬ市政や旧弊改革も、あの御仁ごじんは、やると信念しておられる。……だから、惜しいのだ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入れて、グンと押すと、しゃっきり立てなおるってえじゃアげえせんか。いや、なんにしても、えらい御仁ごじんがあったものだ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「たとい御内の御仁ごじんであろうとも、わしは女子に逢わぬことに決めている。対面はならぬと伝えてくりゃれ。それは関白殿にもよう御存じの筈じゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とんと物が美味しく食べられないという変った御仁ごじんがざらにあるもので。
「そなたはその御仁ごじんが生きていられるとお思いか。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ハハハハ、あの御仁ごじんは哲学者じゃよ
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なにかな、御身おみ遠方ゑんぱうから、近頃ちかごろ双六すごろく温泉をんせんへ、夫婦ふうふづれで湯治たうぢて、不図ふと山道やまみち内儀ないぎ行衛ゆくゑうしなひ、半狂乱はんきやうらんさがしてござる御仁ごじんかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
答「いや、それも誤りではありません。悪と善、鬼と仏、相反あいはんする二つのものを一体のうちに交錯して持つふしぎな御仁ごじん
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「控えろッ大作! これなるは余の親友、名は言われんが大奥隠密おんみつの要役を承る大切な御仁ごじんじゃ! やにわに真槍をもって突きかけなんとする? 引けい!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
入道殿ほどの御仁ごじんがそのような讒口ざんこうに受けらるる筈はなし、かつは日頃から疑いの眼を向けている玉藻の訴えじゃで、まずよいほどに会釈して追い返されたそうなが
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「直心陰は至極しごくの流儀じゃ。して、御身の師とお頼みなされしは何と申される御仁ごじんか」
「あの水鳥を射止めた御仁ごじんに橘を進じ申そう。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
実は先刻おはなし申した、ふとした御縁で、御堂おどうのこの下の仮庵室かりあんじつへお宿をいたしました、その御仁ごじんなのでありますが。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「構うな、構うな。女の腐ったような御仁ごじんじゃわい」猪股小膳いのまたこぜんという色の黒い男が、そばから口を出した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
押司おうしっ。……覚悟しました。ほかならぬ御仁ごじんの手にかかれば本望だ。さ、お縄をいただきましょう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩倉三位ともいわれる御仁ごじんが、あんな献上物を持込まれなければならないのか、また何の由であの奴らが、こんな献上物を持込んだのか、何が何やら、けむに捲かれ通しで、居ていいか
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お身はいずこのいかなる御仁ごじんで、またいかなる子細でかの四国遍路をかたきと怨まれるか、それを承った上でなければ何とも御挨拶は出来ないと答えたが、相手はそれを詳しく説明しないで
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まことの挑戦状なら、何であのようにつやめかして書こうぞ。それとおはんじがつかなんだとは、さても婆娑羅を知らぬ一徹な御仁ごじんかな——と、また腹を抱えて笑いおった
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作阿弥という御仁ごじんがあったが、いつからともなく遁世とんせいなされて、そのもっとも得意とする馬の木彫りも、もはや見られずなったとは、ま、誰でも知っておるところで……
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……よくよくの名僧智識か、豪傑な御仁ごじんでないと、聞いてさえ下さりませぬ。——この老耄おいぼれが生れまして、六十九年、この願望がんもうを起しましてから、四十一年目の今月今日。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「仏頂寺弥助という御仁ごじんは知りませんが、仏生寺弥助殿なら承っております」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「初めて御意ぎょい申す。われらはあるじの兼好でござるよ。お身のような御仁ごじんがなんの用ばしござってたずねられた。はは、ここは双ヶ岡じゃ、嵯峨野ではござらぬ。横笛どのがかどちがいせられたのではござらぬかな。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時に、この邸には、当月はじめつかたから、別に逗留とうりゅうの客がある。同一おなじ境涯にある御仁ごじんじゃ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ、宋江はこちらの御仁ごじんです。てまえは、おなじく梁山泊の一員、呉学究ごがっきゅうなので」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほんに、そういった御仁ごじんなら、たった今、西東の方へおいでなったのっし」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通い廊下に藤の花をさかしょうと、西洋窓に鸚鵡おうむを飼おうと、見本はき近い処にござりまして、思召おぼしめし通りじゃけれど、昔気質かたぎの堅い御仁ごじん、我等式百姓に、別荘づくりは相応ふさわしからぬ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いつに変らず、世辞のよい御仁ごじん。帰路には会いたい、父上へよろしくなどと」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このあたりにて、宝蔵院流の槍をよくする御仁ごじんは誰々でござろうな」
「田辺の別当べっとうをめぐる一群の熊野衆には、尊氏方あり、日和ひより見もありですが、われらがお会いした切目ノ法橋ほっきょうどのは、われら楠木党へきつい肩入れの御仁ごじんでございましたな。なあ助家どの」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)