形跡けいせき)” の例文
それはそれとして、このお藤は、先年来十里四方お構いに相成りおるはずなのが、目下江戸府内ふないに潜入しておる形跡けいせきがあると申すではないか
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ばかをもうせ。それより拙者せっしゃのほうがきくが、いましがた、大津おおつの町の上をとんでいたわしが、ここらあたりでおりた形跡けいせきはないか、どうじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イスやテーブルも、いつものとおりにならんでいますし、じゅうたんをめくったあともなければ、だいいち、窓を開いたらしい形跡けいせきさえないのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はるになつてゆき次第しだいけた或日あるひ墓場はかばそばがけあたりに、腐爛ふらんした二つの死骸しがい見付みつかつた。れは老婆らうばと、をとことで、故殺こさつ形跡けいせきさへるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たゞ、一箇所かしよ丈餘じやうよ貝層かひそう下部かぶから一二しやくところに、小石こいしごとかこつたなかで、焚火たきびをしたらしい形跡けいせき個所かしよが、半分はんぶんきりくづされて露出ろしゆつしてるのを見出みいだした。
その他も皆そんなもので一向不思議ふしぎな事はないが、この辺の山の一体の形を見ますと古昔むかしは噴火山があったのじゃああるまいかと思われるような形跡けいせきもあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そとから犯人の侵入しんにゅうした形跡けいせきがないのです。ふしぎですなあ。まさかこれは自殺じゃないでしょう
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまはそれ/″\適當てきたう位置いち配置はいちされて、すでに幾度いくたび作用さようをなした形跡けいせき歴然れきぜんえる。
見廻したけれども何も取り散らした形跡けいせきはなかったただ春琴の枕元まくらもとに鉄瓶が捨ててあり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
屋内おくないはべつに取乱とりみだされず、犯人はんにんなにかを物色ぶっしょくしたという形跡けいせきもないから、盗賊とうぞく所為しょいではないらしく、したがつて殺人さつじん動機どうきは、怨恨えんこん痴情ちじょうなどだろうという推定すいていがついたが、さて現場げんばでは
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「なんとも、せぬことになりました。八荒坊が討たれたらしい形跡けいせきもなく、頼春と菊王の安否の程もわかりません」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるになってゆき次第しだいけた或日あるひ墓場はかばそばがけあたりに、腐爛ふらんした二つの死骸しがい見付みつかった。それは老婆ろうばと、おとことで、故殺こさつ形跡けいせきさえあるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
遺骨ゐこつは三四たい合葬がつそうした形跡けいせきがある。其所そこにも此所こゝにも人骨じんこつよこたはつてるが、多年たねん泥水どろみづしたされてたので、れると宛然まるでどろごどく、かたちまつた取上とりあげること出來できぬ。
その工場の内部を隅々まで調べてみたが、そんな青年達の忍びこんでいたような形跡けいせき一向いっこう見当らなかった。ビール瓶に藁筒わらづつかぶして自動的に箱につめる大きな器械がある。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多宝塔たほうとうのいただきから、たくみにわしをつかって逃げうせました呂宋兵衛るそんべえは、どうやら、越前えちぜんきたしょうを経て、京都へ入りこみましたような形跡けいせきにござります」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでポントスの寝室しんしつを調べてみると、ベッドはたしかに人の寝ていた形跡けいせきがあるが、ポントスは見えない。なおもよく調べると、ゆかの上に人血じんけつこぼれたのを拭いた跡が二三ヶ所ある。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「元祐の家老、竹井惣左衛門があやしい。先頃から薬売りの小西屋弥九郎と幾度か密会し、彼をもって、寄手の羽柴勢となにか聯絡れんらくをとったような形跡けいせきもみえる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、機械にも何も異状いじょうはありませんし、見張りの機械人間も、だれの姿も見うけなかったと申しております。窓も戸口も内がわから鍵がかかっていて、逃げだした形跡けいせきはどこにも残っておりません」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「——御着ごちゃく小寺政職おでらまさもとも、摂津の荒木村重に誘われて、ともに寝返りを約し、毛利方へ向って、援軍を要請ようせいした形跡けいせきがあります。十中の八、九まで、この儀は確実と思われます」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「邸内に悪漢が忍び入ったような形跡けいせきはなかったですか」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人穴城ひとあなじょうという外廓がいかくは焼けおちたが、中身なかみ魔人まじんどもはのこらず逃亡してしまった。丹羽昌仙にわしょうせん吹針ふきばり蚕婆かいこばばあ穴山残党あなやまざんとう佐分利さぶり足助あすけともがらにいたるまで、みな間道かんどうから抜けだした形跡けいせき
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどただ一つ皆目かいもく知れないことがあった。それは新七の義妹の於菊おきくの消息である。村重や室殿に従って、尼ヶ崎城へ移った形跡けいせきもないし、城内にもすがたが見えないというのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも急速にその実現をはかり、猛烈な暗躍を行っている形跡けいせきがあるのだ。——それにたいして、いったい、われわれご隠居附の閑役かんやくに置かれている微臣が、何で対抗する力があるか。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)