トップ
>
弛
>
たる
ふりがな文庫
“
弛
(
たる
)” の例文
石橋を渡る駄馬の蹄の音もした。そして、満腹の雀は
弛
(
たる
)
んだ電線の上で、無用な
囀
(
さえず
)
りを続けながらも尚おいよいよ
脹
(
ふく
)
れて落ちついた。
南北
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
その苦労をおとらは能くお島に言聞せたが、
身上
(
しんしょう
)
ができてからのこの二三年のおとらの心持には、いくらか
弛
(
たる
)
みができて来ていた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
それが色の着いた
蝋
(
ろう
)
を薄く手の甲に流したと見えるほど、肉と革がしっくりくっついたなり、一筋の
皺
(
しわ
)
も
一分
(
いちぶ
)
の
弛
(
たる
)
みも余していなかった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
朝の光が涼しい風と共に流れ込んで、髪乱れ、眼
凹
(
くぼ
)
み、
皮膚
(
はだ
)
の
沢
(
つや
)
なく
弛
(
たる
)
んだ智恵子の顔が、モウ一週間も其余も病んでゐたものの様に見えた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
真淵訓の「紀の国の山越えてゆけ」は、調子の弱いのは残念である。この訓は何処か
弛
(
たる
)
んでいるから、調子の上からは古義の訓の方が緊張している。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
▼ もっと見る
打ち克ちがたい睡魔がやがて彼の瞳をとざしはじめ、疲れきつた手足は、今にも知覚を失つて、ぐんなり
弛
(
たる
)
みさうになり、頭が前へこくりと落ちる……。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:05 五月の夜(または水死女)
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
と、その乾いた唇が
弛
(
たる
)
んで、再び
露
(
あら
)
われた歯を見ると、濃厚なぬらぬらした鳶色の粘液が一杯に
蔽
(
かぶ
)
さっていた。
青蠅
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
それから、片方引くと解ける方のを鍵穴から
潜
(
くぐ
)
らせて、それには幾分
弛
(
たる
)
みを持たせておくんだ。無論鍵の押金が上へ向いていればこそ、可能な話なんだよ。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
なるほど、前にもいった通り、第三篇は油の十分乗った第二篇に比べると全部に
弛
(
たる
)
みがあって気が抜けておる。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
よく
覺
(
おぼ
)
えては
居
(
ゐ
)
ないが、
玄關
(
げんくわん
)
へ
掛
(
かゝ
)
ると、
出迎
(
でむか
)
へた……お
太鼓
(
たいこ
)
に
結
(
むす
)
んだ
女中
(
ぢよちう
)
が
跪
(
ひざまづ
)
いて——ヌイと
突出
(
つきだ
)
した
大學生
(
だいがくせい
)
の
靴
(
くつ
)
を
脱
(
ぬ
)
がしたが、べこぼこんと
弛
(
たる
)
んで、
其癖
(
そのくせ
)
麻を刈る
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
加之
(
それに
)
顏にも
弛
(
たる
)
むだ點がある、何うしても平民の娘だ。これが周三に取ツて何となく
物足
(
ものた
)
りぬやうに思はれて、何だか
紅
(
あか
)
い
匂
(
にほひ
)
の無い花を見るやうな心地がするのであツた。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
いつも
鎧戸
(
よろひど
)
を
下
(
おろ
)
したまゝの、二つの大きな窓には、同じ色の
帷帳
(
カアテン
)
の
花綵飾
(
はなづなかざ
)
りが
弛
(
たる
)
んで、半分覆うてゐた。
床
(
ゆか
)
の
絨毯
(
じゆうたん
)
も紅く、寢臺の足許の
卓子
(
テエブル
)
にも、
眞紅
(
まつか
)
な
布
(
きれ
)
が掛かつてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
見ればいつのまにか、かれと日本左衛門の腕首の間には、タランと一本の
取繩
(
とりなわ
)
がつながれていて、釘勘は右の片腕を糸巻にしながら
徐々
(
じょじょ
)
とその
弛
(
たる
)
みを張りつめて行く気構え。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
単調な唄が続いてゐる間は、全ての綱は物憂げに
弛
(
たる
)
んで、蒼空の中で遊ぶやうに思はれた。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
と、彼女は
前折
(
まえかがみ
)
になった。腹が
弛
(
たる
)
んで皺が出来た。
芋虫
(
いもむし
)
のようにウネウネした、二筋の太い皺であった。両腕の先に
水槽
(
みずぶろ
)
があった。その側に小桶があった。両手を小桶の縁へかけた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ある
地方
(
ちはう
)
の
郡立病院
(
ぐんりつびやうゐん
)
に、
長年
(
ながねん
)
看護婦長
(
かんごふちやう
)
をつとめて
居
(
を
)
るもとめは、
今日
(
けふ
)
一
日
(
にち
)
の
時間
(
じかん
)
からはなたれると、
急
(
きふ
)
に
心
(
こゝろ
)
も
體
(
からだ
)
も
弛
(
たる
)
んでしまつたやうな
氣持
(
きも
)
ちで、
暮
(
く
)
れて
行
(
ゆ
)
く
廊下
(
らうか
)
を
靜
(
しづ
)
かに
歩
(
ある
)
いてゐた。
悔
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
その黒く
滑
(
なめら
)
かに拭き込んだ板の面を夏の夜の雨あがりの涙ぐんだ様な月がほのかな光を、水の様に流し湛えて居るのであった。太い
弛
(
たる
)
んだ婆やの足は、ぺたりぺたり、とその上を歩いた。
かやの生立
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ルーズベルトはもう一度握り拳の背で
弛
(
たる
)
んだ瞼をこすった。そして、心中の不安を払い除けでもするように、大きな手の平で、椅子の肘掛けをトントンと叩きながら、部屋の中を見廻した。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
古
(
ふるく
)
からあった一
挺
(
ちょう
)
の三味線は、娘の子供の時分までは、よく母親の弾いた音を聞いたが、或年の梅雨の頃、その三味線の胴皮が、ぼこぼこに
弛
(
たる
)
んで音が出なくなってから何処へか隠されてしまった。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
長嘴
(
ながはし
)
の
下の
(
黄なる
)
弛
(
たる
)
みも
凋
(
しぼ
)
みたりふくらむものと我は待ちしに
河馬
(旧字旧仮名)
/
中島敦
(著)
水玉
(
みづたま
)
の
重
(
おも
)
みに
弛
(
たる
)
んで
毀
(
こは
)
れて
了
(
しま
)
つた。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
また、
蔭
(
かげ
)
に
蜘網
(
すかき
)
弛
(
たる
)
みて
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
お庄は長いその顔がいつも
弛
(
たる
)
んだようで、口の利き方にも締りのないこの男が傍にいると、肉がむず痒くなるほど厭であった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
第三句の、「羨しかも」は小休止があるので、前の歌の「潟を無み」などと同様、幾らか此処で
弛
(
たる
)
むが、これは赤人的手法の一つの傾向かも知れない。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
授業が始まって、一カ月ばかりすると私の心に、また一種の
弛
(
たる
)
みができてきた。私は何だか不足な顔をして往来を歩き始めた。物欲しそうに自分の
室
(
へや
)
の中を
見廻
(
みまわ
)
した。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
気病
(
きやみ
)
の後の様な
弛
(
たる
)
んだ顔に
眩
(
まぶし
)
い午後の日を受けて、物珍らし相にこの村を
瞰下
(
みおろ
)
してゐると、不図、
生村
(
うまれむら
)
の
父親
(
おやぢ
)
の建てた会堂の丘から、その村を見渡した時の心地が胸に浮んだ。
赤痢
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
後世の歌なら、助詞などが多くて
弛
(
たる
)
むところであろうが、そこを緊張せしめつつ、句と句とのあいだに、間隔を置いたりして、端正で且つ感の深い歌調を
全
(
まっと
)
うしている。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
もう
鼻
(
はな
)
から
烟
(
けむ
)
を出すのが
厭
(
いや
)
になつたので、
腕組
(
うでぐみ
)
をして
親爺
(
おやぢ
)
の
顔
(
かほ
)
を
眺
(
なが
)
めてゐる。其
顔
(
かほ
)
には
年
(
とし
)
の割に
肉
(
にく
)
が多い。それでゐて
頬
(
ほゝ
)
は
痩
(
こ
)
けてゐる。
濃
(
こ
)
い
眉
(
まゆ
)
の
下
(
した
)
に
眼
(
め
)
の
皮
(
かは
)
が
弛
(
たる
)
んで見える。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
もう鼻から
烟
(
けむ
)
を出すのが厭になったので、腕組をして親爺の顔を眺めている。その顔には年の割に肉が多い。それでいて頬は
痩
(
こ
)
けている。濃い
眉
(
まゆ
)
の下に眼の皮が
弛
(
たる
)
んで見える。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
妻はそれを
今日
(
こんにち
)
に困らないから心に
弛
(
たる
)
みが出るのだと観察していたようでした。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
弛
漢検準1級
部首:⼸
6画
“弛”を含む語句
弛緩
弛張
弛廃
間弛
中弛
弛担
身弛
脾弛
目弛
張弛
弛鈍
弛緩状態
弛気
一弛一張
弛手綱
弛怠
弛廢
垂弛
冗漫弛緩
一張一弛