建立こんりゅう)” の例文
その普請中ふしんちゅう不念入ふねんいりというかどで、最初の奉行、棟梁とうりょう小普請こぶしん方など、幾人もの者が、遠島に罪せられたほどやかましい建立こんりゅうであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
省線電車渋谷駅の人気者であった「忠犬」の八公はちこうが死んだ。生前から駅前に建立こんりゅうされていたこの犬の銅像は手向たむけの花環に埋もれていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
尼は言い知れない随喜渇仰ずいきかっこうの念に打たれて、ここにしばらく足を停めることに決心して、村はずれに茅ぶきの小さい堂を建立こんりゅうした。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
即ち彼は東大寺や国分寺の建立こんりゅうのために、全ての犠牲と苦しみが人民たちにかかっているのに堪えがたい不満をいだいていたのであった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
谷を耕地にてたこと、山の傾斜を村落に択んだこと、村民の為に寺や薬師堂を建立こんりゅうしたこと、すべて先祖の設計に成ったものであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自ら縄墨じょうぼくつかさどつて一宇の大伽藍がらん建立こんりゅうし、負ひ来りたる弥勒菩薩の座像を本尊として、末代迄の菩提寺、永世の祈願所たらしめむと欲す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
運動場は代々木の練兵場ほど広くて、一方は県社○○○神社に続いており、一方は聖徳しょうとく太子の建立こんりゅうにかかるといわれる国分寺こくぶんじに続いていた。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
中にもカントとかヘーゲルとかいう哲学者になるととうてい普通の人には解し得ない世界を建立こんりゅうされたかのごとく思われます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その御心を継いで推古天皇と太子の建立こんりゅうされたところであることが明白となるとともに、太子薨去前後の事情も正確に知らるるわけである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
即ち、被告は、神の名により、不当の価格にて医薬を売ろうとしたものであり、人命救助の目的を以って竹駒稲荷のほこら建立こんりゅうしたものではない。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして或る世界が——時間と空間をさえ撥無はつむするほどの拡がりを持った或る世界が——個性の中にしっかりと建立こんりゅうされる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いまから五年前(一九三五年)に、チェッコスロヴァキアの建築家アントニン・レイモンド氏が設計して建立こんりゅうしたもの。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのうちで雷峯塔は呉越王妃ごえつおうひ黄氏こうし建立こんりゅうしたものであるが、西湖の伝説を集めた『西湖佳話』では奇怪な因縁から出来あがったものとなっている。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
法隆寺の塔を築いた大工はかこいをとり払う日まで建立こんりゅうの可能性を確信できなかったそうです。それでいてこれはおよそ自信とは無関係と考えます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
羅漢寺建立こんりゅう当時から、多くの信仰者が、親の冥福めいふくを祈るためとか、愛児の死の追善ついぜんのためとか、いろいろ仏匠をもっての関係から寄進したものであって
両親に別れたんですから現世このよ味気あじきなくぞんじ、また両親やあにあねの冥福をとむらわんために因果塚を建立こんりゅうしたいから、仏門に入れてくれと晋齋にせまります。
同時どうじ現世げんせほうではすでにわたくしめにひとつの神社じんじゃ建立こんりゅうされてり、わたくしもなくこの修行場しゅぎょうばからその神社じんじゃほうへと引移ひきうつることになったのでございます。
いつぞやイタリヤの歌劇団が旅のついでにS市に立ち寄ったことがあるが、その歌姫の一人がみまかってここに葬られ、この記念碑が建立こんりゅうされたのであった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
震災後街衢がいくが段々立派になり、電車線路を隔てた栄久町の側には近代茶房ミナトなどという看板も見えているし、浄土宗浄念寺も立派に建立こんりゅうせられているし
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
僧正天海が将軍家お声がかりによって建立こんりゅうしたその天海寺の中に、十手を必要とすべき下手人がいるとするなら、これはじつにゆゆしき一大事だったからです。
とすればこの彫刻家は当然西金堂の本尊を造った人である。光明后は亡き母に対する情熱のために西金堂の建立こんりゅうについて特に熱心な注意を払われたに相違ない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
犬二疋死後領家の計らいとしてかの田畠を以て一院を建立こんりゅうし、秀府並びに二疋の犬の菩提を訪う。
それはかつて欧洲大戦のみぎり遥々はるばる欧洲の戦場に参戦して不幸にも陣歿したわが義勇兵たちのため建立こんりゅうしてあった忠魂塔と、同じ形同じ大きさの記念塔をもう一つ作って
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この霊屋みたまやの下に、翌年の冬になって、護国山ごこくざん妙解寺みょうげじ建立こんりゅうせられて、江戸品川東海寺から沢庵和尚たくあんおしょうの同門の啓室和尚が来て住持になり、それが寺内の臨流庵りんりゅうあんに隠居してから
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほかに望みはございませんが、山門にある戒壇かいだんを三井寺にも建立こんりゅうする事をお許し頂ければ」
これなるは小香魚こあゆのせごし、香魚のあめだき、いさざの豆煮と見たはひがめか、かく取揃えし山海の珍味、百味の飲食おんじき、これをたらふく鼻の下、くうでんの建立こんりゅうに納め奉れば
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東清寺本堂建立こんりゅうの資金寄附者の姓名が空地の一隅に板塀の如くかけ並べてあるのを見ると、この寺は焼けたのでなければ、玉の井稲荷と同じく他所よそから移されたものかも知れない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
桂昌院の帰依きえを得た僧隆光の為に、元禄元年三月、神田橋外の地を相して建てた七堂伽藍で、その結構は眼を驚かすばかり、徳川最盛時の財力を傾けて建立こんりゅうしただけに、本堂の如きは
しかるにイエスの死なれる前後からローマの統治はようやく直接かつ強力となり、ついに紀元四十年ごろに至り、カリグラ皇帝は自己の像をばエルサレムの神殿内に建立こんりゅうしようとした。
さんぬる天保てんぽう庚申年に、山を開いて、共同墓地にした時に、居まわりに寺がないから、この御堂みどう建立こんりゅうして、家々の位牌いはいを預ける事にした、そこで回向堂ともとなうるので、この堂守ばかり
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちなみに、右位牌の法名は三成が帰依きえしていた大徳寺の圓鑑国師が選んだもので、国師は石田氏滅亡の後、深く生前の交誼をおもい、或は一門の影塔を作り或は三成の遺骸を収めて墓碑を建立こんりゅう
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
護国寺は元禄年間の建立こんりゅうで、幕府から千三百石の寺領を付けられている。
大牢ろうのあった方のみぞを埋めて、その側の表に面した方へ、新高野山大安楽寺こうぼうさま身延山久遠寺にちれんさまと、村雲別院むらくもさまと、円光大師寺えんこうだいしさまの四ツの寺院おてら建立こんりゅうし、以前もとの表門の口が憲兵屯所とんしょで、ぐるりをとりまいたが
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それはわたくし共に取りましては、命にも換えがたい大切の絵像えぞうでござります。この弁天堂もわたくしの一力で建立こんりゅうしたのでござります。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆえに怨霊しずめの寺院の建立こんりゅうなら、怨霊信仰を大事にしおる天台や真言の祈祷宗教家のもとへ行っておたのみあるがよろしい
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また今日からは想像も及ばぬような規模雄大の大仏殿建立こんりゅうに生命を傾けられた聖武天皇と光明皇后を偲びまつるのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
村を横に切れて、田畠の間の細い道を小山の方へ登ると、小泉の先祖が建立こんりゅうしたという古い寺がある。復た三吉は独りで山腹の墓地へ廻って見た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学問の堂を作るは一朝の事にあらず、また一人の事にあらず、われはただ自己がその建立こんりゅうに幾分の労力を寄附したるを、義務を果たしたる如くに思ふのみ。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其の上に一ほこらを建てて一木神社として祭ったが、昭和四年になって、うしろの山を開いて社を改築し、墓石も掘り出すとともに、かたわらに記念碑まで建立こんりゅうした。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
五月までは決して一人いちにん外出そとでを致しませんでしたが、安永九年に本所五目いつゝめ羅漢堂らかんどう建立こんりゅう栄螺堂さざえどうが出来ました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、とうとうわたくし祭神さいしんとした小桜神社こざくらじんじゃ村人全体むらびとぜんたい相談そうだん結果けっかとして、建立こんりゅうされる段取だんどりになってしまいました。
これは西仏といえる人、妻と、男女二子の供養のために建立こんりゅうしたものということだけは書きつけてあった。
その幽光院というのは元和げんな元年の建立こんりゅうにかかるもので、慶安四年の由比ゆい正雪騒動のときまで前後三十年間ほど関八州一円に名をうたわれていた虚無僧寺でしたから
この堂は光明皇后こうみょうこうごう建立こんりゅうにかかるもので、幾度かの補修を受けたではあろうが、今なお朗らかな優美な調和を保っている。天平建築の根強いすこやかさも持っていないわけではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そんな事をしてるうちに、お前は段々私から離れて行って、実質のない幻影に捕えられ、そこに、奇怪な空中楼閣を描き出すようになる。そして、お前のうちには苦しい二元が建立こんりゅうされる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「これは例の妙応寺でござろう、青坂山、曹洞宗、西美濃の惣録そうろく——開山は道元禅師の二世莪山和尚。今須の城主長江八郎左衛門重景の母、菩提ぼだいのために建立こんりゅう——今、伏見の宮の御祈願所」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幸子の父が全盛時代に高尾の寺の境内に建立こんりゅうした不動院という尼寺があるのを訪ね、院主の老尼と父の思い出話などをして閑静な半日を暮したが、ここは紅葉の名所なので、今は新緑にも早く
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
前掛で顔を被って、崖の中腹に建立こんりゅうしてあった、地蔵様を抱いて、——
そうして見ると、人間の智識、学問はさて置き、宗教でもなんでも、その根本を調べて見ると、事実として証拠立てられない或る物を建立こんりゅうしている。即ちかのようにが土台によこたわっているのだね。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明治五年向島三囲みめぐり稲荷の境内にその門人らの建立こんりゅうせし国芳の碑あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)