あん)” の例文
こうして襷掛たすきがけで働いているところを見ると、どうしても一個の独立したあんの主人らしくはなかった。納所なっしょとも小坊主とも云えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんとか、ていとか、ろうとか風流な名をつけた豪商の寮や、料理屋が、こんもりした樹立ちのなかに、洒落しゃれた屋根を見せている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「私のあんは、山の中のおおかみきつねのおる処で、べつに眺望も何もない、いやな処だから、どうか来るのはよしてくだされ」
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
丸につたの葉でしょ。丸に蔦の葉の御紋は、このあんのうしろから登れる菩提山ぼだいさんのお城の古い屋根瓦にも見られます。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呉羽之介は此の絵姿が仕上げられた時、あの露月のあんで我を忘れて無宙に祈誓をしたことを想い出しました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それに念のためたきぎの酬恩あんにおこもりの一休様のところまでも探ねてみましたが、お行方はついに分らず、その年も暮れ、やがて応仁二年の春も過ぎてしまいました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
こゝに事実明らかになりしかば、建文帝を迎えて西内せいだいに入れたてまつる。程済ていせいこの事を聞きて、今日こんにち臣が事終りぬとて、雲南に帰りてあんき、同志の徒を散じぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これから行かうとしてゐるのは、建仁寺けんにんじの何とかあんで、庭がいいから是非行くやうにと云つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
銀子はこの商売に取り着きたての四五年というもの、いつもけいあんぎょくばかりされていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母屋おもやから大分離れた庭の中に建ってる「何とかあん」たらいう葛屋葺くずやぶきの家の方い二人追い立てるようにして、そこい這入はいったらもうちゃんと枕許まくらもとに薬やら水やら用意してあるのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
茶器は昔から古物を尊び、由緒ある品などは莫大ばくだいな価額のように聞きましたのに、氏は新品で低廉の器具ばかりをそろえて、あんの名もそれにちなんで半円とか附けられたとかいうことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あつまりしものども、それこそよき善行ぜんぎやうなれ、こよひもよほし玉へ、茶の子はこなたよりもちゆかん、御坊ごばうは茶の用意よういをし玉へ、数珠ずゝあんにはなかりき、これもおてらのをかりてもちゆかん
このあんの主じはひとり
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
かうして襷掛たすきがけはたらいてゐるところると、うしても一獨立どくりつしたあん主人しゆじんらしくはなかつた。納所なつしよとも小坊主こばうずともへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「寺にはいない、あんにおるそうだ、ついするとあすこかも判らない、往ってみようか、山番の小屋だったところで、いじゃないか、どうせ腹こなしだ」
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに念のためたきぎの酬恩あんにおこもりの一休様のところまでも探ねてみましたが、お行方はついに分らず、その年も暮れ、やがて応仁二年の春も過ぎてしまひました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
それは寺内の一あんで、静かにやまいをやしなっている自分の部下、——竹中半兵衛を見舞うことであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小督局こごうのつぼねの墓所を右に見て、あの遊覧船の発着所の前を過ぎ、天竜寺の南門の方へ曲ったところに「聴雨あん」と云う額の懸った門のあるのがそれであると教えられていたので、直ぐに分ったが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十四年、帝程済ていせいに命じて従亡伝じゅうぼうでんを録せしめ、みずからじょつくらる。十五年史彬しひん白龍庵に至る、あんを見ず、驚訝きょうがして帝をもとめ、つい大喜庵たいきあんい奉る。十一月帝衡山こうざんに至りたもう、避くるある也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
芭蕉に二千の門葉ありて、あんに十哲とよぶ門人あり。
このあんに人は住めども
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
しかないあんの中には、三十前後の小柄な男が書見しょけんしていたが、人の跫音あしおとを聞いて顔をあげた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このおほきなあんを、たつた一人ひとりあづかつてゐるさへ、相應さうおうほねれるのに、其上そのうへ厄介やくかいしたらさぞ迷惑めいわくだらうと、宗助そうすけすこどくいろほかうごかした。すると宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
芭蕉に二千の門葉ありて、あんに十哲とよぶ門人あり。
おぐらあん
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴殿あなたが見えられないし、退屈でたまらないから、若党をれて、眺望のい処へ参ろうと思い、この下の谷の処まで来るとこのあんが眼にき、貴殿きでんのことを思いだして
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このあんあづかるやうになつてから、もう二ねんになるが、まだ本式ほんしきとこべて、らくあしばしてことはないとつた。ふゆでも着物きものまゝかべもたれて坐睡ざすゐするだけだとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
太郎左衛門は鉄扇てっせんってさしずした。捕卒は競うてあんの中へおどり込んだ。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)