希臘ギリシヤ)” の例文
新村氏は希臘ギリシヤ語や、羅甸ラテン語や、和蘭オランダ語や、そしてやくざな日本語が福神漬のやうに一杯詰つてゐる頭へ手を当てがつてじつと考へた。
鼻の外見的な恰好は純然たる希臘ギリシヤ型で、頬からあごへかけての抛物線パラボラと、小さな薄い唇が、ハッキリと波打っている恰好を見ますると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
圓滿で美しい希臘ギリシヤ美術にも比較さるゝ奈良朝時代のそれとの關係を考へて見ることは、やがて萬葉集の文學の讀みを深めることになる。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我我の行為を決するものは昔の希臘ギリシヤ人の云つた通り、好悪の外にないのである。我我は人生の泉から、最大の味を汲み取らねばならぬ。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
基督キリストなどの考え出したような宗教も哲学もなく、また同じ暖い海はありながらどういう訳か希臘ギリシヤのような芸術も作らずにしまった。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
希臘ギリシヤ羅馬ローマあたりの古哲の遺書を誦むような気がする。深玄な哲理が極めて平易な文字を以てスラ/\と自在に書き流してある。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
懐疑の空気充満せし文明なる希臘ギリシヤが比較的に野蛮なる偶像信者の羅馬ローマ人に亡ぼされたる者は何ぞや。一は信条を有し一は信条を有せざれば也。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
スルと其時、カ翁は「多くの友人から其批評を聞きます」と言ひながら、書架より希臘ギリシヤ語辞典を引き出して其「デモス」の語を説明して呉れた。
土民生活 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
支那では人神牛首じんしんぎうしゆ神農氏しんのうし赭鞭かはむちを以て草木をむちうち、初めて百草をめて、医薬を知つたといひ、希臘ギリシヤではアポローの子、エスキユレピアスが
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
古代の船の模型などにも益を受けたが、門前にある希臘ギリシヤから持つて来た四つの大獅子おほじしの古い彫刻の方が僕には面白かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
希臘ギリシヤ人は世界をコスモス(Κοσμοσ)と呼んだが、これは同國語で格好、秩序、又は美といふ意味から來て居る。
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それだけは秘かに目覚めてわらっているような・醜い執拗な寄生者の姿が、何かしら三造に、希臘ギリシヤ悲劇に出て来る意地の悪い神々のことを考えさせた。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小屋の真中の勇ましい希臘ギリシヤの彫刻に手鞄を預けて歯朶子と男のき——いきなり歯朶子は男の頬をびしゃりと叩いた。そして黙ってすまして居た。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
運命とは神意にいづるものにもあらず、天命にもあらず、怪異にもあらず。古昔希臘ギリシヤ人は以為おもへらく、人智の得て思議すべからざる者是れすなはち運命なりと。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
トラゼヂイに至りては必らず鬼神なきの国に興るべからず、シユレーゲルも論じて古神学は希臘ギリシヤ悲劇の要素なりとは言へり、げにやソホクルス以下の名什めいじふ
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
勞資協調派、無抵抗主義者、人道主義者、等が一刀のもとに退治した唯物史觀の白髮首しらがくびとは何であるか? それは古代希臘ギリシヤにさかえた唯物的形而上學である。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
古代希臘ギリシヤの尊厳なる光輝を我が国土に復活せしめ、吾人の思想、文学、美術、学芸、制度、風気のすべてをして其存在の意義を世界文化史上に求めむが為めに
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もう半立突リツトルの麦酒を取寄せて新聞を読むに、伊太利イタリー希臘ギリシヤとが緊張した状態にあることを報じたその次に
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ず空想に浮んだのはこの人が希臘ギリシヤに生れ、西印度にしインド諸島や、その他諸方を流浪して来たと云うことである。
而もそれは金で象眼された小さい短剣の柄に当つてゐた。それは希臘ギリシヤ風の短剣の形だつた。復讐の女神ネメシスが、逆手に掴んでゐるやうな、短剣の形だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それから一ト月余になるが羅甸ラテン語と希臘ギリシヤ語とをならべた難かしい手紙が来たゞけで顔を見せないから、嬢様やつと安心して先ず是で十九の厄を免れてノウ/\した。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
読者の眼頭に彷彿ほうふつとして展開するものは、豪壮悲惨なる北欧思想、明暢めいちよう清朗なる希臘ギリシヤ田野の夢、または銀光の朧々ろうろうたること、その聖十字架を思はしむる基督キリスト教法の冥想
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
これは、二千年も、もっとまえに、希臘ギリシヤが地中海ですっかりはばかせていた時代のお話です。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それはどこかに古代希臘ギリシヤの彫刻にあるとはれてゐる沈静な、しかも活き活きとした美をゆつたりと湛へて居た。それは気高い愛嬌あいけうのある微笑をもつた女の口の端にも似て居た。
西洋の男はおのれの恋する女人の姿に希臘ギリシヤ神話の女神を見、聖母の像を空想する。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いましばらく自分の歐洲に於ける淺はかな智識で推し量ると、佛蘭西の女の姿の意氣で美しいのは、希臘ギリシヤ伊太利イタリイから普及した美術の品のよい瀟洒せうしやな所が久しい間に外から影響したのでは無いか。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
貴方あなた那樣哲學そんなてつがくは、あたゝかあんずはなにほひのする希臘ギリシヤつておつたへなさい、此處こゝでは那樣哲學そんなてつがく氣候きこうひません。いやさうと、わたくしたれかとヂオゲンのはなしましたつけ、貴方あなたとでしたらうか?
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(後にはこゝに瓦を敷きて中庭とせり。)高き蘆薈ろくわい霸王樹はわうじゆなんど、廊の柱にぢんとす。檸檬樹リモネはまだ日の光に黄金色に染められざる、緑の實を垂れたり。希臘ギリシヤの舞女の形したる像二つあり。
そしてこの二岐路ふたまたみちのひとつを選んで古代希臘ギリシヤ青年のやうに驅けださう。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
所謂道徳的理想の不断の発達は之れを希臘ギリシヤの四大徳の例に徴するも明かなるにあらずや。さすれば吾人の今日の作家に要求する国民的特質なるものはくだんの発達し化醇せられたる特質にはあらざるか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
グラウンドに出ているときの彼は、その頃私たちの間に流行していた希臘ギリシヤ彫刻の独逸製の絵はがきの一つの、「円盤投手ディスカスヴェルフェル」と云うのに少し似ていた。そしてそれが下級生たちに彼を偶像化させていた。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先生はそれから希臘ギリシヤの劇場の構造をくわしく話して呉れた。三四郎は此時先生から、Theatronテアトロン, Orchêstraオルケストラ, Skênêスケーネ, Proskênionプロスケニオン などゝ云ふ字の講釈を聞いた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先づ印度インドに赴いて其れから埃及エヂプト希臘ギリシヤを巡遊して歸國すると云ふ事である。春子はどうしたのであらう。遂に音信たよりがない………。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
現に古代には軽羅けいらをまとつた希臘ギリシヤ羅馬ロオマ等の暖国の民さへ、今では北狄ほくてきの考案した、寒気に堪へるのに都合の善い洋服と云ふものを用ひてゐる。
其れとなゝめに対して右方うはうそびえたウフイツチ邸は階下の広大な看棚ロオヂアを広場に面せしめて、その中には希臘ギリシヤ羅馬ロオマ時代の古彫像が生ける如くぐんを成して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
当時希臘ギリシヤに於ては悲哀戯曲トラゲヂーのみを貴重し、トラゲヂーと言へばあらゆる戯曲の別名の如くなりをりて、悲哀戯曲外に戯曲なしと思惟しゐするの傾向ありたり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
朝鮮、支那、印度はもとより、どうかするとペルシャから印度を通して來た希臘ギリシヤ的なものまでがこの島國に着いた時代もあつたらうかと想像されるのもその海だ。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
丁度ちやうど希臘ギリシヤ神話の中の諸神が生命の培養に用ひたと伝へらるるアムブロジアのやうな役目を演じて居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
父に聞いた九淵のはなし、友が訳した希臘ギリシヤの狂詩——水中に潜む渾沌未分の世界……「どうでもいいわ」……小初はすべてをぶん流したあとの涼やかさを想像した。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見ると、町並木と郵便箱とは希臘ギリシヤの賢人のやうな顔をして、この哀れな日本の将校を見つめてゐた。
女を甘やかす今の欧羅巴ヨーロッパの„Dame“社会状態は、全亜細亜アジヤ人からも、それから古代希臘ギリシヤ、古代羅馬ロオマの人々からも嘲笑ちょうしょうされるにまっているといったショペンハウエルは
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ピシアスは、それではおおせのままに殺しておもらいしましょうと言いました。しかし、そのまえに一つお願があります、私は希臘ギリシヤに土地を持っており、身うちのものもおります。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
怪頭醜貌の女怪ゴルゴンは、見る人をして悉く石に化せしめたと希臘ギリシヤ神話は伝へてゐる。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
たゞこの平凡な一句でも自分には百万の火箭を放つべき堅固なゆみづるだ。昔希臘ギリシヤといふ国があつた。基督キリスト磔刑はりつけにされた。人は生れた時何物をも持つて居ないが精神だけは持つて居る。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
凡そ情熱のあるところには必らずまもるところあり、故に大なる詩人には必らず一種の信仰あり、必らず一種の宗教あり、必らず一種の神学あり、ホーマーに於て希臘ギリシヤ古神の精を見る
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
芸術美にみたる希臘ギリシヤ詩人の永生に対する熱望の悲音を聞くべく、「ソオル」には事業の永続に不老不死の影ばかりなるを喜ぶ事のはかなき夢なるを説きて、更に個人の不滅を断言す。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
希臘ギリシヤは地の利を得て勃興した。而して希臘人が其地利を乱用して却て地を離れ地を忘れたる時、頽廃に帰した。強大なる羅馬ローマ帝国も、土臭を厭へる貴族や富豪の重量の為に倒潰したのである。
土民生活 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
貴方あなたはそんな哲学てつがくは、あたたかあんずはなにおいのする希臘ギリシヤっておつたえなさい、ここではそんな哲学てつがく気候きこういません。いやそうと、わたくしたれかとジオゲンのはなしをしましたっけ、貴方あなたとでしたろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「君希臘ギリシヤの芝居を知つてゐるか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
志摩の国こそ希臘ギリシヤなれ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)