尾籠びろう)” の例文
尾籠びろうな話だが、垂れ流しがあり、そんな人達は衛生兵がコットごと、あるいは担架に乗せたまま、海の中に入れて身体を洗ってやる。
尾籠びろうな話で恐縮だが、人間が例の最も小さな部屋——豊臣秀吉でもあの部屋だけはそう大きくは拡げなかったということだ——で
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
芝生の花壇で尾籠びろうなほどなまの色の赤い花、黄の花、紺の花、赭の花が花弁を犬の口のように開いて、れ、み合っている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「旦那、まことに申しかねますが、提灯これをちょッと持っていて下さいませんか……どうも尾籠びろうなお話ですが、すこし小用がつかえまして……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬作は尾籠びろうなお話だがげろ/\吐きまして、腹はしまいには何もないので、物も出ませんで、皺枯しゃがれっ声になりまして南無金比羅大権現、南無水天宮
と——かの美妓、尾籠びろうな話だが、急に尿意を催してきた。美妓だろうが、名妓だろうが、こればかりは仕方がない。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ガラッ八の八五郎は、敷居際に声をひそめて、尾籠びろうな腰になりました。入口には女の客が来たらしく平次の女房のお静が物柔かに掛け合っております。
尾籠びろうなことを申して甚だ恐れ入りますが、この伊賀の国ほど小便の出るところは天下にありませんな。実は今日もその小便で思わぬ不覚を取ったのです。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは先ずファウストと云うものはえらい物だと聞いてわけも分からずに集まる衆愚を欺いて、協会が大入をち得たのは、尾籠びろうの振舞だと云うのである。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでも子が出来ぬから、おかしいと思って気を付けて見ると、私の妻は非常な疳持ちで、尾籠びろうな話だが、事ある毎にそこを徹底的に洗うことに気がついた。
それをいかりてくって懸れば、手に合う者はその場で捻返ねじかえし、手に合わぬ者は一笑ッて済ましてのち、必ずあだむくゆる……尾籠びろうながら、犬のくそ横面そっぽう打曲はりまげる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ここまでは万事がすこぶる理想的に発展したが、遺憾ながらくと同時に、急に胸がむかついて来て、Hはその儘その廊下へ甚だ尾籠びろうながら嘔吐へどを吐いてしまつた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「それ目潰めつぶし。」とお丹の指揮さしず手空てあきの奴等、一足先に駈出かけいだして、派出所の前にずらりと並び、臆面おくめんもなく一斉に尾籠びろうの振舞、さはせぬ奴は背後うしろより手をたたきて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお、行くことしばらくにして、あろうことか、コテコテと人間の尾籠びろうな排泄物が、煙を立てている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こゝで、少しく尾籠びろうながら、その頃の高貴な婦人が使うかわやの構造について述べることを許されたい。
「鼠どころか、いや実に愚劣だ。言語道断だ。けしからぬ。デンマークの恥だ。ハムレットさま、お話しましょう。いや、どうにも、無礼千万、奇怪至極、尾籠びろう低級!」
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
尾籠びろうな話をするようですが、ラサ府のお厠というのは大抵一軒の家に一つか二つある。または一つ長屋ながやの内に一つとかいうような具合ぐあいになかなか大きく建てられてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
尾籠びろうなはなしですけれど、ご不浄の中にいる時だって、やはりそれを考えつづけているのよ。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
きたない手ぬぐいが三本、破れた手甲、脚絆きゃはん、それから尾籠びろうこのうえない女のはだ着……。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
尾籠びろうな話ですがその、何処へ行っても、煙管を口から離したことがなかったものですよ。
この日頃の尾籠びろうの振る舞い! ……それにもかかわらず御自おんみずから、頼むぞよとのご一言! 兵衛身にとり生々世々の誉れ! ……お心安うこそおぼしめせ、戸野の一族身を粉に砕き
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「じゃなにかね、芭蕉に於ては床しく、太宰の場合は尾籠びろうだ、とでもいうのかね。」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
尾籠びろうな話であるが室戸の宿の宿泊料が十一銭であったことを覚えている。大変に御馳走があって二の膳付の豊富な晩食を食わされたのでいささか嚢中のうちゅうの懸念があったではないかと思う。
初旅 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人のいい驢馬の稚気に富んだ尾籠びろう、そしてその尾籠の犠牲になった子供の可愛い困惑。それはほんとうに可愛い困惑です。然し笑い笑いしていた私はへんに笑えなくなって来たのです。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
今夜、月見の御相伴にあずかり、下座にいてお糸の方の踊を拝見していたが、あまりの白々しさに腹がたち、我を忘れて尾籠びろうなことを口走ったという次第を述べ、言い終ってまた平伏した。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そしてその峠のところで尾籠びろうな話だがたまたま大便を催したので、路傍の林中へはいって用を足しつつそこらを睨め回していたら、ツイ直ぐ眼前の木の枝に異形な物が着いているのを見つけた。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
尾籠びろうながら
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
見ると、並木のこずえに、一匹の小猿が、キョトンとした眼を下へ向け、わざとのように、尾籠びろうな姿態を示している。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその塔々には昼日中にも係らず菜種いろの電灯がほのかにつき、窓々には尾籠びろうなほど濃い色彩の嵌硝子はめガラスが唇で嘗め濡したように光っています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ガラツ八の八五郎は、敷居際に聲をひそめて、尾籠びろうな腰になりました。入口には女の客が來たらしく平次の女房のお靜が物柔かに掛け合つてをります。
尾籠びろうな事にはおのずか尾籠びろうな法則が有るから、既に一種の関係が成立った以上は、女に多少の手当をしてかなきゃならん——と、さ、私は思わざるを得なかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「湯茶が好きで無暗に飲みますから、尾籠びろうな話ですが、夜分必ず二回ぐらい小用に起きるんです」
社長秘書 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尾籠びろうながら、わたしはハタと小用こようこまつた。辻便所つじべんじよなんにもない。家内かない才覺さいかくして、避難場ひなんばちかい、四谷よつや髮結かみゆひさんのもとをたよつて、ひとけ、けつゝ辿たどつてく。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これは尾籠びろうなお話ですが脱腸を押し込む時でも同様で、患者にお尻の事を気にかけるなと云っても、指が脱腸に触れると、ドウしてもお尻の穴の周囲に在る括約筋を引き締めるのです。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
少し躊躇ちゅうちょしたが、ええ、悪びれず言ってしまえと勇をふるって、「小説を書いているんだ。小説家、というもんだ。」言ってしまってから、ひどく尾籠びろうなことを言ったような気がした。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なん其様そん尾籠びろうなことをつちやアなりませんよ、結構けつこう御軸おぢくでございますとふんだ、出して見せるかけて見せるか知らんけれどもけてつたら辞儀じぎをして、一おう拝見はいけんして
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
尾籠びろう千万ではございますが、隣り座敷で洩れ承われば、どうやら大分ご退屈のご様子、実は私も退屈のまま、何か珍しい諸国話でも、お耳に入れたいと存じまして、お叱りを覚悟でまずい面を
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人側のこれを呼んだのは、もとより流に随って波を揚げたのであるが、その中で紫玉一人は兼て花山の所為しょいにくんでいたので、もし我目前で尾籠びろうの振舞をしたら、懲して遣ろうと待ち構えていた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
甚だ尾籠びろうなお話ですが、第一下痢げりをする時には何だかさめの卵か何かを生み落してゐるやうに感ずるのです。それだけでももうがつかりします。おまけに胃袋までくぢらのやうに時々潮をき出すのです。
無題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『まだ、装束も昨夜のままにて、あまり尾籠びろうていにござります故、もそっと端近はしぢかにて頂戴いたしとうござる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の地位を築き上げるためには他人を陥入おとしいれる位のことは、まことに——尾籠びろうたとえで恐縮ですが、——屁とも思わないといった、冷酷無残な性格の持主でした。
子供の癖に尾籠びろう流行歌はやりうたを大声にうたいながら、飛んだり、跳ねたり、曲駈きょくがけというのを遣り遣り使に行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
熱いつゆ下腹したばらへ、たらたらとみたところから、一睡ひとねむりして目が覚めると、きやきや痛み出して、やがて吐くやら、くだすやら、尾籠びろうなお話だが七顛八倒しちてんはっとうよくも生きていられた事と、今でも思うです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人のあらばかり捜して嘲笑せんとの心掛は下品尾籠びろうの極度なり、よしよし今宵は天に代りて汝を、などと申述べ候も、入歯をはずし申候ゆえ、発音いちじるしく明瞭を欠き、われながらいやになり
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひねり倒すと、尾籠びろうのお話だが鼻血が出ました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尾籠びろうながら便所はばかりを」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尾籠びろうでござるが、十郎左は、下痢げり気味なのでござる。両三日、我慢いたしておりますが、お手当を」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚だ尾籠びろうな腰つきですが、江戸の親分と呼ばれては、顫へてばかりも居られません。
朱の盤 (不意に)や、姥殿、獅子のお頭に見惚みとれまい。尾籠びろう千万。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍「ういう尾籠びろうの話はいけんなア」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)