小褄こづま)” の例文
お秋は立上たちあがると、小袖を取って投げかけるように着ました。キリキリと帯を締めると、小褄こづまをとって、二つ三つ足踏みを
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私は少してれたりした。継母はそれには平気で、小褄こづまをからげて、はでな長襦袢の蹴出けだしを見せながら私の後からついた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
別に、小褄こづまをからげるでもなく、そのまま奥庭のくらがりの、植込みの蔭につとより添って、母家おもやの方をじっとみつめる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
鬼怒川きぬがは徃復わうふくする高瀬船たかせぶね船頭せんどうかぶ編笠あみがさいたゞいて、あらざらしの單衣ひとへすそひだり小褄こづまをとつておびはさんだだけで、あめはこれてかたからけてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それには、空耳からみみを装って、しどけない帯の結びや小褄こづまの前を直し、顔にかかる乱れ髪を白い指先でかきあげながら——
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懐炉を持ってお春が戻って来たのを見ると、妙子は口紅のあとの着いた吸いかけを灰皿の縁に置いて、小褄こづまを取った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
座敷から見渡すと向うの河原の芝生しばふが真青にでて、そちらにも小褄こづまなどをとった美しい女たちが笑い興じている声が、花やかに聞えてきたりした。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
無法者が、足を其方そなたに向けて、じりじりと寄るのを避けもしないで、かえって、膝掛を取って外すと、小褄こづまも乱さず身をかろく、ひらりと下に下り立ったが。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きいた風な若旦那は俳諧師はいかいしらしい十徳じっとく姿の老人と連れ立ち、角隠つのかくしに日傘をかざしたうわかたの御女中はちょこちょこ走りの虚無僧下駄こむそうげた小褄こづまを取った芸者と行交ゆきちがえば
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
話しながらゆきませうとてお関は小褄こづま少し引あげて、ぬり下駄のおとこれも淋しげなり。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小褄こづまを取るとたしなみの懐刀、懐中ふところへ入れるのも忙しく、後に続いて走り出た。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さしかざす小傘をがさに紅き揚羽蝶小褄こづまとる手に雪散りかかる
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
浅けりゃ、ちょいと小褄こづまをとって。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
奥に細く灯っている丸行燈まるあんどん燈芯とうしんをかき立て、それを左にさげながら、寝巻の小褄こづまを取ってスルスルと出てきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪之丞、ぐっと、唇を噛むと、小褄こづまをかかげて、息をととのえて、闇の中を、ひた走りに駈け出した。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
台所の豪傑儕ごうけつばら座敷方ざしきがた僭上せんじょう栄耀栄華えようえいがいきどおりを発し、しゃ討て、緋縮緬ひぢりめん小褄こづまの前を奪取ばいとれとて、かまど将軍が押取おっとった柄杓ひしゃくの采配、火吹竹の貝を吹いて、鍋釜の鎧武者が
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はなしながらゆきませうとておせき小褄こづますこひきあげて、ぬり下駄げたのおとれもさびしげなり。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
持てとも言わず、角樽を柳の枝に預けると、小褄こづまをぐい、と取ったしまった足の白いこと。——姿も婀娜あだに、ながれへ張出しの板を踏むと、大川の水に箱造りの生簀いけすがある。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木下蔭このしたかげの暗がりで、長裾すそをぐっと引き上げ、小褄こづまをからげ、お高祖頭巾をまぶかにして帯の間に手をやると、師匠が返してくれた一松斎譲りの銘刀が、体熱に熱くなって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小褄こづまを下ろした襟掛えりかけ婀娜女あだものはどこまでも少し笑いを含んで、夏なら涼んでいるという形だ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あねさま唐茄子とうなすほうかふり、吉原よしはらかふりをするもり、且那だんなさまあさよりお留守るすにて、お指圖さしづたまおくさまのふうれば、小褄こづまかた友仙ゆふぜん長襦袢ながじゆばんしたながく、あか鼻緒はなを麻裏あさうらめして、あれよ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小褄こづまを取った手に、黒繻子くろじゅすの襟が緩い。胸が少しはだかって、褄を引揚げたなりに乱れて、こぼれた浅葱あさぎが長くからまった、ぼっとりものの中肉が、帯もないのに、嬌娜しなやかである。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
珊瑚さんご六分珠ろくぶだまをおさえながら、思わずにかわについたように、足首からむずむずして、爪立ったなり小褄こづまを取って上げたのは、謙斎の話の舌とともに、蛞蝓なめくじのあとを踏んだからで
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と例のかずき取除とりのくれば、この人形は左の手にて小褄こづま掻取かいどり、右の手を上へ差伸べて被を支うるものにして、上げたる手にてひるがえる、綾羅りょうらの袖の八口やつくちと、〆めたるにしきの帯との間に
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお一段と余情のあるのは、日が暮れると、竹の柄の小提灯こぢょうちんで、松の中のこみちを送出すのだそうである。小褄こづまの色が露にすべって、こぼれ松葉へ映るのは、どんなにかなまめかしかろうと思う。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杜若の花を小褄こづまに、欠盥かけだらいで洗濯をしている、束ね髪で、窶々やつやつしいが
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)