ちゅう)” の例文
というささやき声がして、なにかドアのひらくような音が聞こえ、かばんは、ふわッとちゅうに浮いて、どっかりと下におろされました。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うしろから吹きつける風にあおられて身体ぐるみちゅうに浮いたまま、二三歩前へよろけてから、やっとみとどまるくせがついてしまった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
おれの位置はいま滑稽こっけいちゅうぶらりんを描いているが、しかし秋夜の大気をこうしてひとりめしてみたのは悪い気持でもないと思う。
主人しゅじんは、かごのなかから、一ぴきのたいをつまみあげて、ちゅうにぶらさげました。そのたいは、つめたく、おおきかったが、じっとしてはねなかった。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
かと思うと、くるりとちゅうがえりを打つようにして、象の背中せなかの三人の少女たちの中へ、すっぽりとのっかってしまいました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あっちでもこっちでも、警官がちゅうねとばされています。壁へ叩きつけられて気絶きぜつをするもの、ガックリと伸びるものなどあって、形勢は不利です。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「うむ、そりゃあ……そりゃこのちゅう彷徨さまよっていてな、好きな奴へは乗りうつり、恨みのある奴には取ッつく」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ばばあがやかましいから急ごう、と云うと、髪をばらりとって、私の手をむずと取って駆出かけだしたんだが、引立ひったてたうでげるように痛む、足もちゅうで息がつまった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さいごに、いすがすうっとちゅうにうかんだ。とみるまに、おかみさんめがけて、すごいいきおいで飛んできた。
そして宮崎さんは黒い洋服をカラなしで着て真暗な部屋にいた為めに青い顔だけがちゅうに見えたのであった。
怪談 (新字新仮名) / 平山蘆江(著)
胸のはりさけるほど無言の絶叫をつづけながら足をちゅうに左膳の危難に駈けつけて短銃一ちょうの放れわざ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分は片足をちゅうに浮かしたまま、床の奥から黒塗の重箱を取り出して、それを彼女の前へ置いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでは、なにもかも、ふしぎな、青い光につつまれているので、それはふかい海の底にいるというよりも、なにかちゅうに浮いていて、上にも下にも青空をみているようでした。
老人ろうじんつえると、二人はちゅうんで、すぐにその高い山の上にきました。王子はそこのいわの上に立ってながめました。しろや町はもうひとつのてんぐらいにしか見えませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
間もなく次の電光は、明るくサッサッとひらめいて、にわ幻燈げんとうのように青くうかび、雨のつぶうつくしい楕円形だえんけいの粒になってちゅうとどまり、そしてガドルフのいとしい花は、まっ白にかっといかって立ちました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
声とともにしし王の足がちゅうにひるがえってばったり地上にたおれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
自分は、ちゅうにぶらさがったままで力をこめてハンドルをまわした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そわそわと心もちゅうにあるように昂奮していた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
するどい声と共に、彼の体とやいばとが、ちゅうへ閃めいて、伸び上ったと思うと、水面に片羽を切られた燕が一羽、浮いて流れて行った。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白犬が、地上をはなれて、スーッと、ちゅうにうきあがったのです。巨大な腕につかまれて、上の方へ引きあげられているように見えるのです。
天空の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ファットマンは、その長い強い鼻をぐいとべて、新吉のからだをふわりとちゅうで受け止めてしまったのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ふくだけがちゅうに浮かび、そして、まるで生命せいめいのあるもののように動いて、一枚一枚ぬぎすてられていくのだ。
だから普通では猫又ねこまたを見ようが腰を抜かす筈がない。だからそのときはおどろきましたよ、実に……なぜといってその仔猫がですね、ちゅうにふらふら浮いているじゃないですか、びっくりしましたね
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老人ろうじんつえると、二人はまたちゅうんでその山の上へ行きました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
再び、朱総しゅぶさをしごきざま、ちゅう鳴りして来る江府こうふばん壁辰の十手だ。喬之助は、この場合、血を好まなかった。が、こうなってはもう止むを得ない。裸身はだかのままたもとひそませていた河内太郎蛇丸かわちたろうじゃまるの短剣だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
フワリと足が大地をはなれたとたんに、かれのからだはちゅうをかすって、どての若草を二、三げんさきへズデンともんどり打っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ニコラ博士は、フワフワと、ちゅうにうくように、歩いていきます。やみのなかでも、博士の姿だけは、クッキリと見えるのです。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世にもふしぎなちゅうに浮く鉄棒てつぼうを追って、おじさんはステッキでその鉄棒を、たたき落とそうとした。
新吉は、からだがちゅうかんでいるような気持ちで、テントのまわりを何べんとなくまわり歩きました。と、ある場所にちょっとしたすき間があり、ちらりと中のようすが見えました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そこで、捕縄の先が、ちゅうをうねって行った途端に、一角は早くも感づいて、ならの茂った谷間たにあいの崖へ身を躍らしてしまったのだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目かくしをされたかとおもうと、スーッと、からだが、ちゅうにうきました。カニじいさんに、だきあげられたような気持です。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すこし力を入れたかと、思うと、ふわりとちゅうへおよがせて冠桜かんむりざくら根瘤ねこぶのあたりへ、エエッ、ずでーんと気味きみよくたたきつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シャツのボタンが、ひきちぎれるように、一つ一つはずれてゆき、いちばん下のボタンがはずれたかと思うと、白いシャツがフワッとちゅうに浮いて、地面におちました。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大きな火ばしらは、音をたてて今、一棟を焼きたおしていた。廓内の大樹にもみな火がついて、火の葉、火のはなが、ちゅうに咲いた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、テーブルの外までいっても、下へ落ちないで、ちゅうに浮いているではありませんか。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たちまち火花、たちまちつるぎの音、斬りおられたやりちゅうにとび、太刀さきに当ったものは、無残なうめきをあげて、たおれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スーッとちゅうにういたかと思うと、何かひどくツルツルした、公園などにあるすべり台のようなものの上に落ち、そのまま、ひじょうな早さで、下のほうへすべっていきました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ちゅうは、無数の星だったが、人間の手にともされた光といえばそれ一点しか見あたらない。右を見ても山、左を振返っても山、ただ真っ黒な闇の屏風びょうぶだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕だけがちゅうをとんで逃げたとすると、いくらさがしたって、見つかりっこないからね。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は竹籠の中へもどって銅鈴すずを鳴らした。スルスルスルスル。えいや、えいや。上へあがるやいな彼はあたりへ向って黒裸こくらの両手をちゅうへ振ッて報告した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとには、かくばったロボットの首ばかりが、フラフラと、ちゅうに浮いているのです。
探偵少年 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
強右衛門の体は、長篠城の方へ向って、高々とちゅうに掲げられた。——遠く竹楯たけたてや土塁の陰には、勝頼以下旗本の面々も来て、ひそかにここを見まもっていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと見ると、森のおくのほうに、なんだか白く光るものが、ちゅうに浮いていました。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「かしこまりました」性善坊は、ちゅうをとんで、もう宇治の大橋を彼方かなたへ越えてしまった女の影を追って行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただアッケにとられて、ちゅうにただよう白いものを、見つめているばかりでした。
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ、さっきよりいくらかましなことは、このいちめんな篠が生えているために、自分も自由に走れないが、追う者もちゅうを飛ぶわけにはゆかないことです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二少年は、いきなりちゅうにういて、そのままスーッと下におちていきました。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこに落着いていると、ちゅうを隔てた向うの崖に、まだそこを去らぬお蝶の影がうッすらと見えるのでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の寝まきをきた小林君のからだが、ちゅうにおどりました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)