在所ありか)” の例文
胸に燃ゆる憤怨ふんえんの情を抱きながら、藁しべにでもすがりつきたい頼りない弱い心で、私たちはそれから、二人の在所ありかを探して歩いた。
(新字新仮名) / 金子ふみ子(著)
ここしばらくは、奥様に、在所ありかが知れぬといふておく。確かに己れが預つて、滅多な事はささぬから、思案を仕替えて見るがよい。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「いや、無電を出すことを許せば、わが飛行島大戦隊の在所ありかを、敵に知らせるようなものじゃ。そいつは絶対に許すことができぬ」
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
殿を狙うておるとのこと——これら二人の者どもはマドリド司僧の遺児であれば、髑髏盃の由緒と在所ありかとを心得ておるに相違ない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
網元あみもとらしい。釣れなければそこで貰って行く法もあると教えた。お昼にお弁当を食べにおいでなさいと言って、家の在所ありかを詳しく説明した。
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その音信不通の旦那の在所ありかが何年か後に遠いところから知れて来て、わずかに手紙の往復があるようになったのも、丁度その頃だ。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土藏を破つて千兩箱を二つ盜み出し、その時は在所ありかの判らなかつた妹の身を案じて、今晩は、それを救ひ出しに入つたのでした。
家臣は、晴賢の首を紫の袖に包み、谷の奥に隠しておいたが、晴賢の草履取り乙若というのがつかまった為、其在所ありかが分った。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「その傷をあばいたら口があくはずじゃ、それがいやならば、ただ一言ひとこと、太兵衛女房の在所ありかを知らせてくれ、それだけでよい」
金田君は幸い横顔を向けて客と相対しているから例の平坦な部分は半分かくれて見えぬが、その代り鼻の在所ありかが判然しない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刀の在所ありか仇敵かたき匿家かくれがまで教えて呉れた其の功にでゝ、永く苦痛をさするも不便ふびんゆえ、この小三郎が介錯して取らせるぞ
支倉の家はその子の代に一旦亡びたので、墓の在所ありかも久しく不分明であったが、明治二十七年に至って再び発見された。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「雞」の行方に関してはその後私は知らなかったが、地主の一党は私に依ってそれの緒口をつかもうとして私の在所ありかくまなく諸方にもとめているそうだ。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「いづれ殺す、けては置かぬが、男の居所いどころを謂ふまでは、いかさぬ、殺さぬ。やあ、手ぬるい、打て。しもとの音が長く続いて在所ありかを語る声になるまで。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きまりきった宿の部屋であったから、闇の中でも、床の間の在所ありか、そこを枕としている調所の臥床ふしどは、想像できた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
使用人には鍵の在所ありかが判らないから、では、今日のうちに鍵を持って、後からもう一度出直して来るというのだ。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
少くとも世を楽しむメエテルリンクの悲愁かなしみ神秘ミスチツクな蒼い陰影の靄の中に寂しい心の在所ありかを探す物馴れぬ Stranger の心持、その心を私は慕ふ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「のうフローラ、姉の才量で、今日から城内に、グレプニツキーを入れることにした。そして、黄金郷の在所ありかを、じわじわ吐かせることに決めたのじゃ」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
相良寛十郎のその後や在所ありかを知っていて申し出るかまたはその手がかりとなるべきことをしらせた者には礼をする意味の貼り紙をさせたのは忠相だった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
細い手で受け取った鏡を、京子は朝日にかざしてきらりと光らせ、傍の者をまぶしがらせてから、も一度、朝陽の在所ありかを見極める。鏡と朝陽の照り合いをしらべる。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
包が邪魔になるとそれを座敷の眞中に置き放しにして來て、在所ありかを忘れて又彼方此方あちらこちらを探したりした。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
かくてゴーゴンの在所ありかを三人の処女から教はつたパーシユーズは、四つの品を携へてゴーゴンの棲処すみかに向つた。いよ/\目的地に来て見ると三つのゴーゴンは熟睡して居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
あくる朝鴈治郎は、弟子に買つて来させた世界地図を拡げて、しきりと英吉利の在所ありかを捜してゐた。英吉利は持つて生れた小柄を恥ぢるやうに海の中に小さくなつてゐた。
都に風聞ふうぶんの立ったとき、その在所ありかをしらべよとはおいいつけになりましたが、罪人ざいにんあつかいにして、桑名に護送ごそうすることなどは、まッたく、秀吉公のごぞんじないこと。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声の在所ありかもとむる如く、キヨロ/\と落着かぬ様に目を働かせて、径もなき木蔭地こさぢの湿りを、智恵子は樹々の間を其方そなたに抜け此方こなたに潜る。夢見る人の足調あしどりとは是であらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さゝれしにぞ左仲はグツと再度ふたゝび閉口へいこうの樣子ゆゑやゝあつて内記殿何はもあれ藤五郎兄弟の者の行方ゆくへ又家來兩人の在所ありかとも早々尋ぬべし此義かんがふるに渠等かれら兩人の者主人の子息しそく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どちらへがったらいいかわからなかったので、しばらくたたずんで、きかかったひとに、教会堂きょうかいどう在所ありかをたずねますと、すぐわかって、そこから三、四ちょうのところでありました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
所が兇漢は偶然宝石の在所ありかを知りました。それは今回の事件で岩見がある家に忍び込んだと云う事から、宝石はたしかにその家のどこかに隠されていると云う事を知ったのです。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「あれは魔法使コルドゥーンめが、自分の穢らはしい巣窟の在所ありかを知られまいとして、人を脅しをるのだよ。こんなことでビクビクするのはあまつこばかりだ! さあ、坊やをこちらへおよこし!」
言ふまでもなく、そんな筈ではなかつたのだが、計算をはみでた時間の思ひがけない帰結であるから、今更事の重苦しさに当惑を深めるほかには改めて心の在所ありかといふものもなかつた。
なにとぞ手前の辛苦をあわれと思召され、一日も早く源次郎さまの在所ありかをば……
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何うして斯様のような不思議の事あるか、拇印ならば誰が捺したのか一向証拠にならん、兵隊に手の形を受書の下に捺させても、どうして是が当人逃げたる際在所ありかを探ねる助けになるか
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢庭やには引捕ひつとらへてくわんうつたへると二のもなく伏罪ふくざいしたので、石の在所ありか判明はんめいした。官吏やくにんぐ石を取寄とりよせて一見すると、これ亦たたちま慾心よくしんおこし、これはくわん没收ぼつしうするぞとおごそかにわたした。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
トランクの在所ありかはすぐわかった。が、鍵がかかっているらしくあかなかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
X光線によって照し出された鯛の骨の在所ありかを、正面と、横からと、二枚の図に写してもらった松浦先生は、又も遠藤博士の処に引返して来たが、博士はたった今急患を往診に出かけたというので
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして一人一人に授けられた缶を背負って出掛けた上で、自分の受持方面の井戸の在所ありかを捜して歩かなければならない。井戸を見付けて、それから人の見ない機会をねらって、いよいよ投下する。
流言蜚語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いつまでも女のいるところが知れなくって懊悩に懊悩を重ねていた時分には、もう思案に余って愚かになり、女の在所ありかを探し出すことが出来なければ、せめて彼女の話でも、誰かを対手にしていたい
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「あのね、羽衣の在所ありかが分つたよ。」
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
太陽の在所ありかを。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一郎は教授に耳うちして、室内の電灯のスイッチの在所ありかいた。それは室を入ったすぐの壁にとりつけてあるということだった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
胸に燃ゆる憤怨ふんえんの情を抱きながら、わらすべにでもすがりつきたい頼りない弱い心で、私達はそれから、二人の在所ありかを探して歩いた。
「明朝までに御墨附が返らなければ、生きてお前に逢ふのもこれ限りだ、——その娘とやらを拷問がうもんにかけても、御墨附の在所ありかを訊してくれ」
(しめた、お吉は九十郎の妾、あいつの後を尾行けて行ったなら、九十郎の在所ありか知れるかもしれぬ。……つきとめてお浦を取り返してやろう)
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蛙の肉に附けて置いた紙のきれで、それをくはへて飛んで行く蜂の行方を眺めると、巣の在所ありかが知れました。小鳥の種類の豐富なことも故郷の山林の特色です。
見つけ出して、そっと磯五とそういう話し合いになるように、日本一太郎のほうから磯五へ、それとなく在所ありか
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
内実ないじつは暫く不問に置かれる、但し、右の古金、新金の在所ありかはこの場でただして帰らねば、身共役目が立ち申さぬ
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
例へば虫の在所ありかでも単に驚きの叫びを挙げてそれを指摘するばかりで、誰も自ら捕へたためしもなかつた。
真夏の朝のひとゝき (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さりながら凡ての因襲から逃れて常に新らしい官能の薄明りにわれとわが霊の在所ありかをたづねゆくわかい旅人の心にも思ひ棄てがたきは日本の笛のあはれである。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
余計な御苦労かけるのが御不便ごふびんさ。決して私は明さんに、在所ありかを知らせず隠れていたのに、つい膝許ひざもとおさないものが、粗相で手毬てまりを流したのが悪縁となりました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(もし、第三番手の刺客が派遣されたとして、自分等より早く、牧の在所ありかを突き留めて討ったとしたなら、自分らの面目は——目的は——立場は——一切が崩壊だ)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)