真夏の朝のひとゝきまなつのあさのひととき
芝区で、二本榎の谷間に部屋を借りてゐた。既に七月の夢が消えてゐた。寺院の鐘の音が霧の深い崖下に渦を巻いた。妻子は私の因循にあきれて、海辺の故郷に赴いてゐた。 私は寺院の鐘の音では夢を破られなかつたが、直ぐの窓下で芝居の幕あきの調子で鳴る紙芝 …