かしま)” の例文
そのうち毘沙門びしゃもんの谷には、お移りになりまして二度目の青葉が濃くなって参ります。明けても暮れても谷の中はかしましい蝉時雨せみしぐればかり。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
またなく、聞えさせ給ふこと、限りなし——と増鏡もいっているほど、以後の内紛や世間の取沙汰など、いかにかしましかった事だろうか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かしましき田畑たはた人聲ひとごゑと(あいちやんのつてる)へんじました、——遠方ゑんぱうきこゆる家畜かちくうなごゑは、海龜うみがめ重々おも/\しき歔欷すゝりなきであつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
雀の軒近く囀るのをかしましく思ふやうな日も一日一日と少くなつて行くではないか。わたくしは何の爲に突然こんな事を書きはじめたのか。
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
その危険は小児をして利刀をろうせしむるに異ならざるべし。いわんや近来は世上に政談流行して、物論はなはだかしましき時節なるにおいてをや。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
傍らのぶなの木の茂みから、かしましい喋舌しゃべり声が聞こえて来た。やがて姿を現わしたのを見れば、十数匹の甲州猿であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あられ降り」を「鹿島」の枕詞にしたのは、あられが降ってかしましいから、同音でつづけた。カマカマシ、カシカマシ、カシマシとなったのだろうと云われて居る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まだ町々の響もかしましくない五月下旬の朝のうちのことで、マルセエユやリヨンで見て行ったと同じプラタアヌの並木が両側にやわらかい若葉を着けた街路の中を乗って行った時は
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鋭い、れな百舌鳥もずの声が背戸口でかしましい。しみじみと秋の気がする。ああ可憐なる君よ、(可憐という字を許せ)淋しき思索の路を二人肩を並べて勇ましく辿たどろうではないか。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
『七頌堂識小録』に、猿を貢する者、その傍に獼猴数十をあつめ跳ねかしましからしむ。
かしましく雀が鳴く。智恵子はそれをずつと遠いところの事の様に聞くともなく聞いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さようならと清吉は自己おのが仕事におもむきける、後はひとりで物思い、戸外おもてでは無心の児童こどもたちが独楽戦こまあての遊びに声々かしましく、一人殺しじゃ二人殺しじゃ、醜態ざまを見よかたきをとったぞとわめきちらす。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
老人としよりやらが、寄つて、たかつて、いろ/\かしましく語り合つて居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ともさへづりのかしましきならで客足きやくあししげき呉服店ごふくみせあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……かしまびやしく澄明な
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうち毘沙門びしゃもんの谷には、お移りになりまして二度目の青葉が濃くなつて参ります。明けても暮れても谷の中はかしましい蝉時雨せみしぐればかり。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
吉野のゆき霏々ひひ、奥州のあき啾々しゅうしゅうちまたにも、義経詮議の声のかしましく聞えてきた頃、誰やら、義朝の廟、南御堂の壁へ、こんな落書をしたものがある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大勢の人の呼んだり叫んだりする声のかしましい中に、子供の泣く声の烈風にかすれて行くのが一層物哀れにきこえた。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
余輩がとくにここに論ぜざるべからざるものは、かの改進者流の中にても、もっともかしましき政談家のことなり。この政談家は、政府の内にもあり、また外にもあり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
象馬ぞうめ車乗のかしましさに心いよいよ乱れて修行を得ず。地体城中の人民この大仙もし一度でも地を歩まば我ら近く寄りてその足を礼すべきに、毎度飛び来り飛び去るのみで志を遂げぬとかこちいた。
大勢の人の呼んだり叫んだりする声のかしましい中に、子供の泣く声の烈風にかすれて行くのが一層物哀れにきこえた。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かつて日本に先例もなきことなれば、開設後の事情は今より臆測すべからざるところなれども、政事の主義については、色々に仲間をわかちてずいぶんかしましきことならん。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
秋に近い森の奥は、黒いほど緑がかさなり合って、蝉の声もかしましいほどではなく、所々、これこそ泉ともいうべき水溜りに、もう秋草の花が鏡のふちの唐草模様のように乱れ咲いていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればやがて数年ののちには法華ほっけ団扇太鼓うちわだいこ百万遍ひゃくまんべんの声全くみ路地裏の水道共用栓きょうようせん周囲まわりからは人権問題と労働問題のかしましい演説が聞かれるに違いない。
営中のとばりをあけて、秀吉はぶらりと出て来た。耳にかしましいばかり笛やかねや太鼓の音がする。戦陣ながら晩春の真昼、彼も作戦にんだか、にこにこしながらその音曲につられて顔を見せたのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の人聲の中には少しの遠慮もない甲高かんだかな女の笑聲わらひごゑも聞えて、いかにも自由に、樂しく、心置きなく見えながら、其れで居て些かのかしましい亂雜をもきたさない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
供人宿のひさしの蔭では、例によって、なにか、猥雑なこえがかしましい。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金色こんじきいろどりたる高き円天井まるてんじやう、広き舞台、四方の桟敷さじきに輝き渡る燈火の光にはんが為めなれば、余は舞姫多く出でゝかしましく流行歌はやりうたなど歌ふ趣味低きミユーヂカル、コメデーを選び申候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼はそこにたたずんでいた。世間は漸く秋も深まって、其処此処の木の葉が落ちかけて来た。——吉良家対浅野浪人——こう興味を持って眺めている世間の眼と囁きが、その木の葉にもかしましく感じられた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もらしたにより必ず厳しい御咎おとがめになるであろうとのうわさすこぶかしましいのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
空気は重くとざして隙間すきまもなし。いさましく機織はたおる響のごとく、蜜蜂みつばちの群は果実くだものにおひにかしましくも喜び叫ぶ。われその蒸暑き庭の小径こみちを去れば、緑なす若き葡萄ぶどう畠中はたなかの、こゝは曲りし道のはて
月日はそれから二十年あまり過ぎている。一時はあれほどかしましく世の噂に上ったこの親爺おやじが、今日泰然として銀座街頭のカッフェーに飲んでいても、誰一人これを知って怪しみとがめるものもない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)