単衣ひとえもの)” の例文
旧字:單衣
ほかの女たちはさすがにそれぞれ小綺麗な単衣ひとえものを着ていたが、それでもめっきり涼しくなったと寂しそうに言うかれらの顔の上には
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
としは二十八でありますが至って賢い男、大形おおがた縮緬ちりめん単衣ひとえものの上に黒縮緬の羽織を着て大きな鎖付の烟草入たばこいれを握り、頭は櫓落やぐらおとしというあたま
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
久留米か、薩摩か、紺絣こんがすり単衣ひとえもの、これだけは新しいから今年出来たので、卯の花が咲くとともに、おつたが心懸けたものであろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊夫君は何思ったか、にっこり笑って、帽子をかぶせたまま頭蓋骨をわきへ置き、次に破れかけたかすり単衣ひとえものを検査しました。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「里見さん。あなたが単衣ひとえものを着てくれないものだから、着物がかきにくくって困る。まるでいいかげんにやるんだから、少し大胆だいたんすぎますね」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
街燈一つないそのみちは曲りくねっているので、一歩あやまればころがって尻端折しりはしょりにしている単衣ひとえもの赭土あかつちだらけにするか
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
薄紫の単衣ひとえもの鞘形寺屋緞子さやがたてらやどんすの帯、ベッタリ食っ付けガックリ落とした髷の結振りから推察おしはかると、この女どうやら女役者らしい。よい肉附き、高い身長せい
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
久しく会わなかった発戸ほっとの小学校の女教員に例の庚申塚こうしんづかかどでまた二三度邂逅かいこうした。白地の単衣ひとえものに白のリボン、涼しそうななりをして、微笑ほほえみを傾けて通って行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と裏の「叔母さん」は沈着おちついた、深切な調子で、生徒に物を言い含めるように言った。お房は洗濯した単衣ひとえものに着更えさせて貰って、やがて復たぷいと駈出かけだして行った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先ず着物の定役ていえきしるさんに赤き筒袖の着物は単衣ひとえものならば三枚、あわせならば二枚、綿入れならば一枚半、また股引ももひき四足しそく縫い上ぐるを定めとし、古き直し物も修繕の大小によりてあらかじめ定数あり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
此方こなたに、千筋の単衣ひとえもの小倉の帯、紺足袋を穿いた禿頭はげあたまの異様な小男がただ一人、大硝子杯おおコップ五ツ六ツ前に並べて落着払った姿。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしろに腰を掛けて居りました鯔背いなせの男、木綿の小弁慶こべんけい単衣ひとえもの広袖ひろそで半纏はんてんをはおって居る、年三十五六の色の浅黒い気の利いた男でございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
外記は浅黄色の単衣ひとえものの裾を高くからげて、大小を落し差しにしていた。女は緋の長襦袢の上に黒ずんだ縮緬を端折はしょって、水色の細紐しごきを結んでいた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旅憎は溷鼠染どぶねずみぞめと云っているたえの古いどろどろしたような単衣ひとえものを着て、かしらに白菅の笠を被り、首に頭陀袋をかけていた。
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その代り下には手織の単衣ひとえもの一枚だけしきゃ着ていないんだから、つまりしめて見ると自分と大した相違はない事になる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死んでからよほど日数がたっていると見えて、単衣ひとえものに包まれた身体からだも、学校帽子をそばに置いた頭も、ほとんど骨ばかりで、どこの誰とも分かりませんでした。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
広い本堂は蝋燭の立てられてあるにかかわらずなんとなく薄暗かった。父親の禿頭はげあたまと荻生さんの白地の単衣ひとえものがかすかにその中にすかされて見える。読経の声には重々しいところがなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その男は単衣ひとえものを腰にまき付けて、ちぢみの半シャツ一枚になって、足にはゲートルを巻いて足袋はだしになっている。
指輪一つ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二十二三に見える長手ながてな顔をした淋しそうな女で、白っぽい単衣ひとえものの上に銘仙めいせんのような縦縞たてじま羽織はおりを引っかけていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もうこの節じゃ、洗濯ものも出来るし、単衣ひとえものぐらい縫えますって、この間も夜おそく私に逢いに来たんですがね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわせ単衣ひとえもののために存在するですか、綿入のために存在するですか。または袷自身のために存在するですか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しきりに争うておる処へ、ガラリと縁側の障子を開けて這入って来た男を見ると、紋羽もんぱの綿頭巾を鼻被はなっかむりにして、結城ゆうき藍微塵あいみじん単衣ひとえものを重ねて着まして、盲縞の腹掛という扮装こしらえ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
九月ももう末で、朝晩は少しひやひやする風が吹くので、この紳士はセル地の単衣ひとえものに縮緬のへこおびを締めていた。さてその次は問題のステッキだ。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
九月と云えば、暗いのも、あかるいのも、そこいら、……御神燈なみに、なり、おめしなり単衣ひとえもの衣更きかえるはず。……しょぼしょぼ雨で涼しかったが葉月の声を聞く前だった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はって出て往った。登は出て往く女の紫色の単衣ひとえものからまった白い素足すあしに眼をやりながら、前夜の女の足の感じをそれといっしょにしていた。彼はうっとりとなって考え込んでいた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もし旦那……内儀かみさんでしょうが、結髪すきあげに手織木綿の単衣ひとえものに、前掛細帯でげすが、一寸ちょっと品のい女で……貴方あなた彼処あすこに糸をくって、こんな事をして居るのは女房の妹でしょう、好くて居る
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その娘の島田に結っているびん付きから襟元から、四入よつい青梅おうめ単衣ひとえものをきている後ろ姿までがかれと寸分も違わないので、西岡はすこし不思議に思った。
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴下様あなたさま、もうこれ布子から単衣ひとえものと飛びまする処を、今日こんにちあたりはどういたして、また襯衣しゃつ股引ももひきなどを貴下様、下女の宿下り見まするように、古葛籠ふるつづら引覆ひっくりかえしますような事でござりまして
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筋金のったる鉢巻を致しまして、無地の眼立たぬ単衣ひとえものに献上の帯をしめて、其の上から上締うわじめを固く致して端折はしおりを高く取りまして、藤四郎吉光の一刀に兼元の差添さしぞえをさし、國俊くにとし合口あいくちを懐に呑み
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兇行は昨夜八時頃より今暁こんぎょう四時頃までのあいだに仕遂げられたらしく、磯貝は銘仙めいせん単衣ひとえものの上にの羽織をかさねて含満がんまんふちのほとりに倒れていたり。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
傘を傾けているので、女の顔は見えないが、白地に桔梗ききょうを染め出した中形ちゅうがた単衣ひとえものを着ているのが暗いなかにもはっきりと見えたので、私は実にぎょっとした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
袴は普通のもので、めいめいの単衣ひとえものはだぬぎにして腰に垂れ、浅黄またはあかで染められた唐草模様の襦袢じゅばん(?)の上に、舞楽の衣装のようなものをかさねていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少女はまだ八つか九つぐらいで、袖のせまい上総かずさ木綿の単衣ひとえもの、それも縞目の判らないほどに垢付いているのを肌寒そうに着ていた。髪はもちろん振り散らしていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
髪は油気の薄い銀杏いちょうがえしに結って、紺飛白こんがすり単衣ひとえものに紅い帯を締めていた。その風体はこの丘の下にある鉱泉会社のサイダー製造にかよっている女工らしく思われた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旅装のままで——といったところで、白飛白しろがすり単衣ひとえものに小倉の袴をはいただけの僕は、麦わら帽に夕日をよけながら、菩提寺ぼだいじへいそいで行った。地方のことだから、寺は近い。
海亀 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暑い時分で、単衣ひとえものの胸をはだけていたので、ぬれている藻がふところに滑り込んで、乳のあたりにぬらりとねばり付くと、わたくしは冷たいのと気味が悪いのとでぞっとしました。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはまあいいとして、女の着ている白地の単衣ひとえものはどこもかしこも血だらけで、とりわけて肩や脇腹のあたりには、大きな撫子なでしこの花でも染め出したようにべっとりと紅くにじんでいる。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
娘は十七、八らしい、髪は油気の薄い銀杏返いちょうがえしに結って、紺飛白こんがすり単衣ひとえものに紅い帯を締めていた。その風体ふうていはこの丘の下にある鉱泉会社のサイダー製造に通っている女工らしく思われた。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お銀は単衣ひとえものではもう涼し過ぎるような夜風に吹かれながら、わびしげに暗い往来をながめている時、ふと気がつくと、隣りの空家あきやの出窓の下にひとりの女が立っているらしい姿がみえた。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれは単衣ひとえものの尻を端折はしょった町人ていの男で、大きい風呂敷包みを抱えている。それだけならば別に不思議もないのであるが、彼はその頭に鉄の兜をいただいていた。兜にはしころも付いていた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お銀は単衣ひとえものではもう涼し過ぎるような夜風に吹かれながら、わびしげに暗い往来をながめている時、ふと気がつくと、隣りのあき家の出窓の下にひとりの女の立っているらしい姿がみえた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まったく朝晩は冷々ひやびやして単衣ひとえものの上に羽織ぐらいは欲しいほどでした。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は白地の飛白かすり単衣ひとえものを着て、麦わら帽子をかぶっていた。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)