のっと)” の例文
その調練を見ますに全く英国風であって、服も皆英制にのっとりそして実に立派な大きな体格の人間ばかりを択んで王の親兵にしてあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どんな幽霊でも化物でも、人間の形にのっとるのは、不思議なようで不思議で無い。幽霊や化物を創造つくり出した者が、その人間であるのだから。
妖異むだ言 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
元来意見があって、人がそれにのっとるのじゃない。人があって、その人に適した様な意見が出て来るのだから、僕の説は僕に通用するだけだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神自身と見なし奉った宮廷の主の、常も用いられるはずの湯具を、古例にのっとる大嘗祭の時に限って、天の羽衣と申し上げる。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
自分で哲学の体系を立てて、その体系にみずからうなずいて、それにのっとって充実徹底せる生活を求めることができるであろうか。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
で感性界の事物は、超感性界のイデアに、のっとらねばならぬ。現実の事物は、イデアによってのみ、存在することが出来る。
辞典 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
直接、領民の生活に触れる者なら、現実になにが必要であるか、ということがわからない筈はないし、わかれば実情にのっとった方法をとるだろう。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自由連合主義にのっとりながらも、現実的な階級闘争を戦術として採っていた「現実派」のアナーキストは、この砂馬などを「観念派」と言っていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
いわゆる活歴の趣意によって、その脚色は努めて史実を離れないのを専一とし、衣裳道具のたぐいも努めてその時代の風俗にのっとることにしたので
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それには当然、朝廷でもなみならぬ期待のもとに、ずいぶん、古式にのっとってその鼓舞こぶをさかんならしめたものらしい。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず第一にだ、ロシア式にのっとるためなのさ。こうした問題に対するロシア人の会話というものは必ず、このうえもなくばかげた風に運ばれるからな。
一代の流行西洋を迎ふるの時に当り、文学美術もまた師範を西洋にのっとれば世人に喜ばるる事火を見るより明かなり。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
少なくとも一夫一婦毎に一棟を分つという近代の行き方にのっとらねばならないか、我々の植民第一に、その方針を決定してかかる必要はたしかにあります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もし予にして、不断不撓ふとうなる活動もて、人間にそののっとるべき実例を与うることなくんば、人間はみな滅びせん。
鼻というものは万有進化の道程に於て一つの有力な条件と見られている美的方面の原理にのっとって出来たものである。一つは眉毛と同様に顔面の装飾のため。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日本画がある点まで古法にのっとることを必要とするに準じ、俳句もまたある点まで俳句らしい俳句を作るために、古俳句を習熟する必要があるのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
朝茶の炉手前は何かしら苦業くぎょうを修する発端で、その日も終日不可解の茶の渋味を呪法じゅほうのっとるごとき泡立てにやわらげて、静座しつつ、らくの茶碗を取りあげて
ほぼニキシュの指揮法にのっとったものであるが、もう少し細部まで神経の行きわたった、近代人らしいデリカシーを持ったもので、ニキシュを団十郎としたら
分業の便宜をば世界を通じて適用するの自由貿易主義にのっとり、この耕地はもとより山腹水涯、ことごとく桑園茶圃ならざるはなく、わが邦を挙げて養蚕の世界
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
やむをえない場合の手段とは、華族令の規程にのっとる、宗秩寮そうちつりょう審議会に附して厳重な審議の上、処分法を講じて御裁可を仰ぎ、宮内大臣が施行するというのである。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かくて神学者は専制政治の型にのっとって神人の関係を案出した。かくて政治家は神人の例に則って君臣の関係を案出した。社会道徳と産業組織とはそのあとに続いた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
天狗てんぐ孔平以来、江戸末期に行われた何丁がけの法式にのっとらずとも、また平俗であっても、相応の意匠を凝らして作成したもので、アメリカの登山小舎に見る鉛筆の落書や
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一方、在来の手習師匠約四百軒が五年の新学制にのっとって新たに小学校の仲間入り、そのうち数十軒は公立小学校に昇格し、他は私立小学校と称し、これが相当幅を利かせた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
その中、善いの丈けを受けて、これにのっとっていれば、聖賢になれるのだが、お互の受けて則る暗示は可もなく不可もないものが多いのである。何うしても難よりもに就く。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただしかし生きている以上は本能的な生への執着がある、しなければならない事、のっとらなければならない法則もある。それは苦しいかもしれない、苦しくてもやむを得ない。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
昔もそんなものは全く日本になかったと即断すると同然、今にのっとって古を疑う僻見へきけんじゃ。
海上に出でて龍を食う——その大気魄にのっとって、命名した所の「五点之次第」で更に詳しく述べる時は、敵の刀を宙へね、自刀セメルの位置を以て、敵の真胴を輪切るのであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その雑銘を読めば、かんたいより、すい[#「箠」は底本では「※」]、あんれんしゃ等に至る、各物一々にとう日新にっしんの銘にのっとりて、語を下し文をす、反省修養の意、看取すべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
改めて言ふまでもなくQ国の家屋は、その国是こくぜのっとつて、礎石と鉄骨を除くほかは壁も床も天井も屋根も、全部が無色の透明ガラスである。カーテンや家具や食器も、やはり同様である。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
祖先の厳正なる性格にのっとらずして、典雅魂を奪い、麗美心をとろかすべきの法を以てし、かくのごとくして、吾人をして、今や衰境におちいれるラテン民族の如くに美しからしむるを可なりとせん。
我が教育の欠陥 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大宝律令たいほうりつりょうにしても漢文で記されねばならなかったし、詔勅も上奏も太政官符だいじょうかんぷも戸籍も歴史も、すべて支那文化にのっとる政治風教の百科の事務はみな漢文の記録にたよらなくてはならなかった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
かの康有為こうゆういが、日本の維新にのっとり、旧弊を打破し大いに世界の新知識を採り、もって国力回復の策を立てよと叫び、所謂「変法自強の説」を帝にすすめ、いれられて国政の大改革に着手したが
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして、建国以来の精神にのっとり、日本的感情と叡智えいちを一切の文化の上に輝かさなければならぬ。剛健、素朴、協和、優美、そして東洋的な憧憬と、夢幻こそは、新しい時代の童話の骨子である。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
文珠問経の戒法にのっとって百戒の戒相を保ち、四不浄食に堕せず、托鉢した清浄なもの以外には食わぬこと、日本人としての一切の地縁と血縁を放下し、今生では父母兄弟師友と相見あいまみえないこと
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
様式だけは北魏にのっとって造られているが、この破天荒とも言うべき表現の直接性は決して様式伝習の間から生れているのではなく、かえって様式破綻はたんからあふれ出る技術と精神気魄きはくとの作ったものである。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
これは仏の大智にのっとる者である。古来幾許いくばくかの僧侶はかかる修行に徹した。だが力なき者が無数に残る。これをまのあたりに見て仏の大悲は動く。彼の悲願なくしては衆生の済度は覚束おぼつかないのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それのみにのっとるわけには行きそうもない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
天下泰平のそのためには、甘んじて賊臣の汚名を受け、しかも俯仰天地ふぎょうてんちに恥じず、どうどうと所信を貫いた。……俺は義時にのっとろうと思う。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
他は自己の本然の性質にのっとり、内心の最深の動機によりて必然的に動く内面的必然という意味の自由である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その型にそむかないで行雲流水と同じくきわめて自然に流れると一般に、我々も一種の型を社会に与えて、その型を社会の人にのっとらしめて、無理がなく行くものか
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心身を潔斎けっさいしてゆくことは、常例であるが、上杉謙信は、神式にのっとって神をまつりし、武田信玄は、その出陣となるや、かならずこの烈石山雲峰寺に祈願をこめて進発した。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将来の小曲が、短歌にのっとるべきだと言うのは、琉歌・なげぶし等の形から見ても見当がつく。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
人類はここに長い経験の結果を綜合そうごうして、相共に依拠すべき範律を作り、その範律にのっとって自己を生活しなければならぬ。努力は実に人を石からふるい分ける大事な試金石だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ゴンクウルは歌麿が蚊帳美人かちょうびじん掛物かげものにつきて、その蚊帳の緑色りょくしょく女帯おんなおび黒色こくしょくとの用法の如き全く板画にのっとりしものとなせり。肉筆画の木板画に及ばざるの理由は布局ふきょくの点なり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
福音書にのっとってる者もあり、ベルグソンに則ってる者もあり、その他、カール・マルクスやプルードンやジョゼフ・ド・メーストルやニーチェやジョルジュ・ソレルなど種々だった。
そこでピックウィック君の予定にのっとって先ず箱根の彼方むこうから始めて二週間で行けるところまで行くというのを大体の方針としようじゃないか? 残余あとは暑中休暇にまた継ぎ足すとしてね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一、遠くは本邦古先帝王にのっとらせられ、近くは魯西亜ロシアのペートルにのっとられたき事
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たとえば「転経唱礼は規矩に従うべきであるに近ごろの僧尼は我流の調子を出す。これが習慣となってはよろしくない。以後は唐僧道栄どうえい・学問僧勝暁しょうぎょうの式にのっとれ」(養老四年)というごときである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
が併しどうも結構でないのは、折角せっかく「サム」にのっとり乍ら、一向「サム」の精神なるものを咀嚼していないことである。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝廷におかせられては、旧例にのっとって、御文治のほかに出でず、うち、御融和美しく、そと、聖徳をもっぱらにし給うて、万民と共に、お楽しい弥栄いやさかな御代をかさねられますれば
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)