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凄愴
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せいそう
ふりがな文庫
“
凄愴
(
せいそう
)” の例文
数日、陽の目を見ず、ここに坐ったきりなので、色はよけいに白く見え、心もち
憔忰
(
しょうすい
)
して、日頃の美貌が、よけい
凄愴
(
せいそう
)
に
冴
(
さ
)
えて見えた。
夏虫行燈
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
やがてカーテンの蔭からヌッと現れてきたのは、まるで西洋の悪魔が無人島に流されたような実に
凄愴
(
せいそう
)
な顔をした辻川博士だった。
地球盗難
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
万籟
(
ばんらい
)
闃
(
げき
)
として声を
呑
(
の
)
む、無人の地帯にただ一人、姉の死体を湖の中へ引き
摺
(
ず
)
り込むスパセニアの姿こそ、思うだに
凄愴
(
せいそう
)
極まりない。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
自分の前に集まっている尾張藩の武士や、持田八郎右衛門の弟子の、大勢の船大工たちを
睨
(
にら
)
んでいる、
凄愴
(
せいそう
)
とした光景でした。
怪しの者
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その声は悲痛
凄愴
(
せいそう
)
を極めたのであった。案内の男は忽ち逃げ出した。昼間幽霊が出たと思ったのか。純之進は心着いて背後を振かえって見た。
丹那山の怪
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
▼ もっと見る
ところが妙な事はこの
滑稽
(
こっけい
)
を
挿
(
はさ
)
んだために今までの
凄愴
(
せいそう
)
たる光景が多少
和
(
やわ
)
らげられて、ここに至って一段とくつろぎがついた感じもなければ
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
あるいは、事件が今夜中に終結するのではないかと思われたほどに、彼の
凄愴
(
せいそう
)
な
神経運動
(
ナーヴァシズム
)
が——その脈打ちさえも聴き取れるような気がした。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
凄愴
(
せいそう
)
な「知性」の旋風のさなかに昂然と立とうとする孤独なる「個性」の運命——これがポオル・ヴァレリイの悲劇だ。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
なども、明らかに一幅の歴史画ではあったが、当時この類の言い伝えはなお鮮かに印象せられていて、殊に念仏修行の光景を
凄愴
(
せいそう
)
ならしめたのである。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
必死に悲しみを
耐
(
こら
)
えながら——この事は後に察したのだが——端然と坐っていた
凄愴
(
せいそう
)
な姿が浮び上って来た。
黄鳥の嘆き:——二川家殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
前は
嬋娟
(
せんけん
)
たる美女と見ゆれど、後は
凄愴
(
せいそう
)
たる骸骨で両肩なし、たまたま人に逢わば乞いてその家に伴れ行き
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
彼は本当に自分の前に、ジャン・ヴァルジャンを、その
凄愴
(
せいそう
)
な顔を見た。その瞬間彼は、その男がだれであるか、自ら怪しみ、その男に
嫌悪
(
けんお
)
の念をいだいた。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
「声は碧の雲の外に断え、影は明けき月の中に沈む」と云う句、「誰か白頭の翁に伴はん」と云う句などを誦する時は、技巧を超絶した
凄愴
(
せいそう
)
な実感が籠って
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
おびただしく馬の
嘶
(
いなな
)
く声、軒の燃え落ちるらしい音、竹のハネル音、それと共に、近隣で鳴らす半鐘の音までが、いとど
凄愴
(
せいそう
)
たる趣を添え
来
(
きた
)
るのであります。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
つづいて下った厳しい処罰——宗家の削封は、彼らの支藩にいたって
凄愴
(
せいそう
)
を極めた。降って湧いたような
顛落
(
てんらく
)
である。一万五千石は文字通り一朝の夢であった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
相手の
卑怯
(
ひきょう
)
な執念深い迫害のために、到頭最後の
堪忍
(
かんにん
)
を、し尽して、反抗の
刃
(
やいば
)
を取って立ち上がった彼女の姿は、
復讐
(
ふくしゅう
)
の女神その物の姿のように美しく
凄愴
(
せいそう
)
だった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
わたしは云い知れない
凄愴
(
せいそう
)
の感に打たれて、この蛇つかいの兄弟は蛇の化身ではないかと思った。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その間に凝結、
磅礴
(
ほうはく
)
している
凄愴
(
せいそう
)
の気魄はさながらに鉄と火と血の中を突破して来た志士の生涯の断面そのものであった。青黒い地獄色の皮膚、前額に乱れかかった縮れ毛。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
砲声は秋雨をついて山地一帯にとどろきわたり、ロードフ、ホウゴウ、スーク、マヘボ、タイザン、カウツク等の蕃社は相ついで火災を起し、高地一帯
凄愴
(
せいそう
)
の気に充ち満ちた。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
深いのになると三百尺というが、そのうす暗い深みから何本となく巨大な角柱が立ち
聳
(
そび
)
えている様は
凄愴
(
せいそう
)
であり、壮観である。何か原始時代の巨大な建物の内部に入る想いがある。
野州の石屋根
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
生々しい人斬の
噂
(
うわさ
)
なども伝わっているとすれば、寂しい以上に
凄愴
(
せいそう
)
な感じさえ伴ったであろう。けれども「人切り土堤」に附会して、この草の花は赤い方がいいとまでは考えない。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
上宮太子が御幼少の頃より
眼
(
ま
)
のあたり見られたことは、すべて同族の
嫉視
(
しっし
)
や陰謀、血で血を洗うがごとき
凄愴
(
せいそう
)
な戦いだったのである。一日として安らかな日はなかったと
云
(
い
)
っていい。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
私は
凄愴
(
せいそう
)
とでも云うような
陰鬱
(
いんうつ
)
な気もちでそれを見送っていた。と、そのとき、大塚行の電車が動きだした。私は眼が覚めたようにそれに飛び乗って、冷たい
真鍮
(
しんちゅう
)
の棒を握りしめた。
妖影
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
そして更に下顎に及ぶ間延びのした大顴骨筋と咬筋とそれを
被
(
おお
)
う脂肪と、その間を縫うこまやかな深層筋の動きとは彼の顔に幽遠の気を与え、渋味を与え、或時は
凄愴
(
せいそう
)
直視し難いものを与える。
九代目団十郎の首
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
憂欝
(
ゆううつ
)
な面に、
凄愴
(
せいそう
)
な殺気をかくして
孫
(
そん
)
軍曹が、老人にそれとなく戒められて、丘の起伏に長い影を引きながら、鉱区の
黄昏
(
たそがれ
)
の中に溶け込んでから、まだ間もないのに、街は死んだように寂しかった。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
それは
凄愴
(
せいそう
)
そのものという感じであった。
いさましい話
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
たとえば地殻から揺りあげて来た
地震
(
ない
)
の力にでも
委
(
まか
)
されているかのように、何とも名状しがたい物音と
凄愴
(
せいそう
)
の気にくるまれて来たのであった。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そうした
凄愴
(
せいそう
)
な空気の中で、法水は凝然と
眼
(
まなこ
)
を見据え、眼前の妖しい
人型
(
ひとがた
)
を
瞶
(
みつ
)
めはじめた——ああ、この
死物
(
しぶつ
)
の人形が森閑とした夜半の廊下を。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
と、この男女の二人の者が、美作と兵馬へ追い付いて、そうして駆け抜けて行こうとした時に、「紋也か!」と
凄愴
(
せいそう
)
な声が響いて、「お粂も一緒か!」と次いで響いた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「しばし、お控え下さい、この先で、たった今、
凄愴
(
せいそう
)
たる殺陣が行われつつありますから……」
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
孤島の雷雨はいよいよ
凄愴
(
せいそう
)
の感が深い。あたまの上の山からは瀧のように水が落ちて来る、海はどうどうと鳴っている。雷は縦横無尽に駈けめぐってガラガラとひびいている。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
燐火の海のようにギラギラと眼界に浮かみ上っては又グウウ——ンと
以前
(
もと
)
の闇黒の底に消え込んで行く
凄愴
(
せいそう
)
とも、壮烈とも形容の出来ない光景を振り返って、身に沁み渡る寒気と一緒に戦慄し
戦場
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
麓
(
ふもと
)
を照らし出していたもの
凄
(
すご
)
さ……
凄
(
すさ
)
まじさ……その山を背にして、しょんぼりと松の木の下に立っていた二つの墓! 物心ついてからまだ私は、あんな
凄愴
(
せいそう
)
極まる景色は見たことがありません。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
父の顔は
益
(
ますます
)
凄愴
(
せいそう
)
な色を帯びていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
彼方此方
(
あなたこなた
)
、踏みやぶる戸障子の物音をも
衝
(
つ
)
きぬいて、女たちの泣きさけぶ声、呼び
交
(
か
)
う悲鳴が、一層、ここの揺れる
甍
(
いらか
)
の下を
凄愴
(
せいそう
)
なものにしていた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「そうなんだ。それが、実に
凄愴
(
せいそう
)
をきわめた光景なんだよ。つまり僕は、
鐘鳴器
(
カリルロン
)
特有の
唸
(
うな
)
りの世界を指して云うのだ」
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
戸外の雪は松明に照らされボッとそこだけ桃色に明るみ
凄愴
(
せいそう
)
として美しい。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
あまりの
凄愴
(
せいそう
)
さに、我々は思わずそこに
佇立
(
ちょりつ
)
しましたが、しかもその奥の部屋からは、
帷
(
とばり
)
を揚げて三人ばかりの侍女たちが、両手で顔を掩いつつ、声を放って泣きながら
転
(
まろ
)
ぶように出てきたのです。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
と、いうような
喚
(
おめ
)
きと喚きが、甲冑の響きや
剣
(
つるぎ
)
の音に入り交じって、この世のものとも思われない
凄愴
(
せいそう
)
な
谺
(
こだま
)
を呼んだ。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「ああ、トラヴィスト。」それだけで法水の言葉がブッツリ
杜絶
(
とぎ
)
れたが、その後数秒に
渉
(
わた
)
って、二人の間に
凄愴
(
せいそう
)
な黙闘が交されているように思われた。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
そうしてそれは
怨恨
(
うらみ
)
に充ちた哀切
凄愴
(
せいそう
)
たる声でもあった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ひとつ
星
(
ぼし
)
、ふたつ星。……空は
凄愴
(
せいそう
)
な
暮色
(
ぼしょく
)
をもってきた。だが、
矢来
(
やらい
)
のそとの
群集
(
ぐんしゅう
)
は
容易
(
ようい
)
にそこをさろうとしない。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして読みおわると、ほっと、
凄愴
(
せいそう
)
な面色を醒まして、先帝の霊壇に、また長いこと黙拝してしずかに退がった。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そのあとの、
凄愴
(
せいそう
)
なしじまの下に、将門のうめきが聞えた。いや、断続してしゃくり泣く彼の異様な声だった。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一種
凄愴
(
せいそう
)
な気をおびた
哭
(
な
)
き
声
(
ごえ
)
のようにさえ聞えたと、あとで言った者があったほど、とにかくそれは異常としかいいようのない猛突入をあえておこなったものらしい。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
つかつかと歩み寄った鐘巻自斎は、門人たちに
支
(
ささ
)
えられている面色
凄愴
(
せいそう
)
の新九郎の
面
(
おもて
)
をじっと見て
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
最前までこの城中も、奥は夜宴に、お表は
賜酒
(
ししゅ
)
の無礼講で、たいそう平和であったのが、この老人ひとりの言葉から、たちまち、
凄愴
(
せいそう
)
な気が城内にみなぎってしまった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼が門前へ出ていってみると、なるほど、
荘丁
(
いえのこ
)
大勢、ただ遠巻きにだけして、恐れおののいている様子だ。中には、手脚を
傷
(
いた
)
められて
凄愴
(
せいそう
)
な
面
(
つら
)
をしている連中も少なくない。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
顔を見あわすと、小次郎は、やあといって、初めて
凄愴
(
せいそう
)
な青白さを、顔から捨てて笑った。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たたかい合い、さけびあい、
双鶏
(
そうけい
)
の
爪
(
つめ
)
、くちばしに、
阿修羅
(
あしゅら
)
の舞を見るがごときとき——ばくちの
魔魅
(
まみ
)
に
憑
(
つ
)
かれた人間たちこそ、鶏以上にも
凄愴
(
せいそう
)
な殺気を面にみなぎらせてくる。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“凄愴”の意味
《名詞》
凄愴(せいそう)
非常に痛ましいこと。
(出典:Wiktionary)
凄
常用漢字
中学
部首:⼎
10画
愴
漢検1級
部首:⼼
13画
“凄”で始まる語句
凄
凄惨
凄味
凄艶
凄気
凄腕
凄然
凄婉
凄絶
凄文句