冥加みょうが)” の例文
こよいの一きょに加わって、仇家の門を第一に打ち破ることは、彼に取って、もう死んでもよい気のする程、冥加みょうがに思われる歓びだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ全く我が信仰する本師釈迦牟尼世尊しゃかむにせそんの守護下された徳による事であると、実に仏の冥加みょうがの恐ろしいほど有難いのに感涙を催し
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
歌の事につきては諸君より種々御注意御忠告をかたじけのうし御厚意奉謝しゃしたてまつり候。なほまたある諸君よりは御嘲笑ごちょうしょう御罵詈ごばりを辱うし誠に冥加みょうが至極に奉存ぞんじたてまつり候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
他の友人は、自分ひとりで平らげてしまふのは冥加みょうがに尽きるとあつて、三四人の親戚を呼び集め、銀狐のすき焼をやつたさうだ。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
「いいえ、いいえ、めっそうもない! そんなことをしていただいては、冥加みょうがにつきます。ほんとに、それだけは、御辞退申し上げます」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
有難くもあり冥加みょうがに余るとも思われ、これに過ぎた名誉はないともいえようが、実は正直にいって、どうも有難迷惑なのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ほんとうにわたくしふぜいのいやしいものが、なんの冥加みょうがであゝ云うとうといお女中がたのおそばちこう仕えますことができましたのやら。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ついでと言っては悪いけれど、かせぎの繰廻しがどうにか附いて、参宮が出来るというのも、お伊勢様の思召おぼしめし冥加みょうがのほど難有ありがたい。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いいえ、左様ではござりませぬ。手前風情ふぜいがご贔屓ひいき頂いておりますさえも身の冥加みょうが、そのうえ直き直きにあのようなお扱いを
強壮な正しさが美と一致する極致を一生のうち、実感のうちに経験し得る芸術家は、まさにそのためには十年の生命をちぢめても冥加みょうがと思う。
上人皺枯れたる御声にて、これ十兵衛よ、思う存分し遂げて見い、よう仕上らば嬉しいぞよ、と荷担になうに余る冥加みょうがのお言葉。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いやしき身分が、御隠居さまにお目にかかり、お情け深いお言葉をうけたまわるさえ冥加みょうがでござりますに、お奥向へなぞなかなか持ちまして——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一生に一度こんな貴い上人のお手ずからの名号をいただく冥加みょうがの嬉しさ、これが罪障消滅ざいしょうしょうめつ後生安楽ごしょうあんらくと随喜の涙にくれているものばかりであります。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「生命冥加みょうがな奴め、明日とも云わず今宵の内に立退きおれ、さもないと眼につき次第斬捨てるぞ、ここな白痴者たわけものっ」
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
久「何ういたしまして、私の方ではあゝ云われると、冥加みょうがに余って嬉しいと思いますが、お前さんの方で、外聞がわるかろうと思って、誠にお気の毒様」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
義経主従は、毒蛇の口を逃れた思いで、ほっと、息をするが、弁慶は敵を欺く計略とはいえ、主君を打った冥加みょうがの程も恐ろしい、と地に手をついて詑び入る。
冥加みょうが知らずめ」がなりつけてやりたい気をやっとおさえつけた程だった。誰が一体こんな事を言わすのだ。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
常に政治の下に太平の恩沢を蒙っている冥加みょうがとして、その太平を保つに必要な費用には、自分等が生計を節約しても、出銀出米の御用を勤めねばならぬのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
源右衛門『夜更よふけといいかる荒家へ、お上人さま直々のお運び、源右衛門冥加みょうがの至りに存じます』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さ、歩いた、歩いた」——彼女は言う——「わたしの冥加みょうがなんか気にしないで、もっと散歩をしておいで。あたしの冥加はあたしが自分でいいようにするんだから」
揃いの縮緬の浴衣ゆかた赤無垢綸子あかむくりんずふんどしなどはお安いご用。山車人形の衣裳に二千両、三千両。女房も娘も叩き売って山車の費用を出し合うのが江戸ッ子に生れた身の冥加みょうが
「死なぬの、なかなか、それどころではない、車の庄の主として、長く栄えて冥加みょうが得る気じゃ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
常縁に向っても「我は定家宗にて果つべき上は」云々といっており、また有名な言葉だが、「仰於歌道定家を難ぜん輩は、冥加みょうがもあるべからず、罰を蒙るべき事なり。 ...
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
そこへお師匠さんまで出張でばって呉んなすったんでげすから、若旦那も冥加みょうがに尽きるなかと申してな、へっへ、下方衆したかたしゅうはもう寄ると触るとその噂で——いや、本心、へへへへへへ
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ミケル尊者は麪包パン屋、アフル女尊者は女郎屋、ジュスト尊者は料理屋、ジャングール尊者は悪縁の夫婦を冥加みょうがし、ガウダンス尊者は蠍を除き、ラボニ尊者は妻をしいたぐる夫を殺し
国恩を報ずべき時節であると言って、三都の市中はもちろん、諸国の御料所ごりょうしょ在方ざいかた村々まで、めいめい冥加みょうがのため上納金を差し出せとの江戸からの達しだということが書いてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現に内裡だいりの梅見の宴からの御帰りに、大殿様の御車みくるまの牛がそれて、往来の老人に怪我させた時、その老人がかえって手を合せて、権者ごんじゃのような大殿様の御牛みうしにかけられた冥加みょうがのほどを
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たすけて強きをくじくと江戸で逢ったる長兵衛殿を応用しおれはおれだと小春お夏を跳ね飛ばし泣けるなら泣けとあくッぽく出たのが直打ねうちとなりそれまで拝見すれば女冥加みょうがと手の内見えたの格を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
とてもこの世では添われぬ縁ゆえ一先ひとまずわが親里の知人しりびとをたより其処そこまで落延びてから心安く未来の冥加みょうがを祈り、共々にあの世へ旅立つという事の次第がこまごまと物哀れに書いてあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
煙草一株につき冥加みょうがとして葉の極上の部分を選んで半分とられ、又、それらの物品が揃はぬときは、茄子一本につき何個といふ割当の賦課か、或ひは、何物かの年貢を納めねばならなかつた。
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そのおことば冥加みょうがにあまりて、このがんかならずかなうようと、百日のあいだ人にも知らさず、窟へ日参いたせしに、女夫の桂のしるしありて、ゆくえも知れぬ川水も、うれしき逢瀬おうせにながれ合い
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
スティンゲル君、これは困ったな。容易ならぬことになってきたぞ! せっかくここまで命冥加みょうがに生き永らえてきたのに、このまま南極へ流されてしまうのは実に残念だ! 何とかうまく艦を
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
銭形ファンがたくさんあることは作家冥加みょうがではあるが、かつて菊池寛氏が銀座は歩けないといったように、案外なところで顔を知られていて、ウッカリものを食いにも行けないということがあるので
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
冥加みょうがのために運んで来て、祝福を受けるのでござります。
弓矢の冥加みょうが平家の上にとどまっているものと存ずる。
わが立つそま冥加みょうがあらせたまえ
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
もうしご冥加みょうがご報謝と
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ならば、研いでさし上げましょう。いや、あなた様のような侍のたましいを、研がせていただくのは研師の冥加みょうがと申すもので」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不敵な女じゃが、貴様のこととなるとからきし意気地がなくなって、まるで小娘、いやもう、見ていて不憫ふびんだよ。貴様もすこしは冥加みょうがに思うがいい
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
生命いのち冥加みょうがなくらい、馬でも牛でも吸い殺すのでございますもの。しかしうずくようにおかゆいのでござんしょうね。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冥加みょうがとも、かたじけないとも——この雪之丞とても、尽未来じんみらい、あなたさまのほかに、世上の女性にこころをうごかすようなことはいたしませぬ——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「若旦那さまのおぼし召は、身に余る冥加みょうがでございますけれど、本当に勿体もったいないほど有難うございますけれど、わたくし国のほうに約束をした者がございまして」
日本婦道記:小指 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
せっかくこいさんが仕込んでおやりなされましたらどうでござります定めし本人も冥加みょうがに余り喜ぶことでござりましょうなどと水を向けたのではなかったであろうか。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
斬られて冥加みょうがになる奴もあるんだ、はばかりながら宇治山田の米友も、槍にかけては腕に覚えがあるんだぜ、覚えがあるから、こう言っちゃ悪かろうわけはねえんだ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は天の冥加みょうがに叶って今かくとうとい身にはなったが、氏も素性もないものである、草刈りが成上ったものであるから、いにしえ鎌子かまこ大臣おとど御名おんなよすがにして藤原氏になりたいものだ。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
王「吾子よ最もな事をぬかす、さらばこの衣類を遣わすからそこで着よ」、豹殺し「父様有難くて冥加みょうがに余って誠にどうもどうも、しかしこんな尤物べっぴんに木をってやる人がござらぬ」
娘お町は思掛おもいがけないことで、飯炊きの奉公に来ようと云ったのが嫁となり、世にたぐいなき文治郎のような夫を持つのは冥加みょうがに余ったことと嬉しいが一杯で、側へも寄ることが出来ず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かかるものに美があり、かかるものでなくば深い美が現れ難いとは、何たる冥加みょうがでありましょう。私達は財物的悪から最も遠く逃れる領域において、最も厚く美の世界に入るのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「はは、申しおくれましてござりまするが、拙者は北町奉行所配下の同心、杉浦権之兵衛と申しまする端役者はやくもの、役儀に免じて手前の手柄におさせ願われますれば、身の冥加みょうがにござります」
それと同時にやつれたほおへ、冷たく涙のあとが見えた。「兵衛——兵衛は冥加みょうがな奴でござる。」——甚太夫は口惜くちおしそうにつぶやいたまま、蘭袋に礼を云うつもりか、床の上へ乱れたかしらを垂れた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)