僧形そうぎょう)” の例文
その出会いがしらに、思いもかけぬ経蔵の裏の闇から、僧形そうぎょうの人の姿が現われて、妙に鷹揚おうよう太刀たちづかいで先登の者をっててました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
武士にをあやつらせ、その舟の中には、僧形そうぎょうの者がひとり乗っていた。これなん安国寺恵瓊えけいであったことはいうまでもない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなふうにてきぱき言う人が僧形そうぎょういかめしい人であるだけ、若い源氏には恥ずかしくて、望んでいることをなお続けて言うことができなかった。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
道庵と昔話の相手をしたその僧形そうぎょう人体にんていにも似ているようなのが、力を合わせて、必死と米友を取押えにかかります。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相手はあきらめてしまったのか、もう追いかけても来ないようです。が、あの男は何ものでしょう? 咄嗟とっさあいだに見た所では、確かに僧形そうぎょうをしていました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
騎馬の将軍というより、毛皮の外套の紳士というより、遠く消息の断えた人には、その僧形そうぎょう可懐なつかしい。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時代の若い世代の人々は、僧形そうぎょうになるとならぬにかかわらず、つきつめた者の心情はすべて隠者的である。でない者は目先をはたらかす機会主義者オッポチュニストになった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
此処につい最近、新しく来た僧形そうぎょう五人の中の一人を、どうも見たような人だと思っていたのが、誰あろう、三位中将維盛殿だったのじゃ、わしも驚いたものじゃよ。
あい、とばかりに泣き濡れて、いと珍しい僧形そうぎょうの花嫁花聟が、恥じらわしげに寄り添いながら、横取りの三公の手引で渡し場目がけつつ闇の道をおりようとしたとき。
薄暗い底の台の上に結跏趺坐けっかふざしたまま睡っている僧形そうぎょうがぼんやり目前に浮かび上がってきた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
黒の法衣に白の頭巾をかぶってい、片手に白い山茶花さざんかを入れた閼伽桶あかおけを持っていた。僧形そうぎょうの彼女とじかに会うのは初めてであるが、岡野さえだということはすぐにわかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その上に馬が乗せている人物は僧形そうぎょうである。鶴見はここでちょっと意外な思いをする。
多分僧形そうぎょうをしているのであろうが、襟に大きな数珠を懸けていることは分るけれども、その身にまとっているものは法衣ころもとも何とも正体が見定め難いほど、袖口やすそり切れていて
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大なる僧形そうぎょうの者赤きころもはねのように羽ばたきして、その木の梢におおいかかりたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見ると人力車をたてかけてその上に袈裟衣をつけた僧形そうぎょうの人が一生懸命に何か云っている。彼はふと足をとめてその話をきいた。何か宗教の話ではないかと思ったのだ。所が突然その坊さんは
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
その階段の下に、顔が水牛すいぎゅうになっている身体の大きな僧形そうぎょうの像が、片足をあげ、長い青竜刀せいりゅうとうを今横に払ったばかりだという恰好をして、正面を切っているのであった。人形はそれ一つであった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
都に上った厨子王は、僧形そうぎょうになっているので、東山の清水寺きよみずでらに泊った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は僧形そうぎょう白衣びゃくえの裾をひるがえして急勾配こうばいの屋根をはった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その出会ひがしらに、思ひもかけぬ経蔵の裏の闇から、僧形そうぎょうの人の姿が現はれて、妙に鷹揚おうよう太刀たちづかひで先登の者をつててました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
中にはさんでいく一ちょう鎖駕籠くさりかごは——まさしく、桑名くわな羽柴秀吉はしばひでよしへおくらんとする貴人きじん僧形そうぎょう武田勝頼たけだかつより幽囚ゆうしゅうされているものと見られる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬が委細を承って、やはり例の僧形そうぎょうで、恵林寺から向岳寺へ向って行ったのは、その日の宵の口であります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僧形そうぎょうの私が姫君のそばにいることは遠慮すべきだとこれまでも思いながら、片時だってお顔を見ねばいられなかった私は、これから先どうするつもりだろう」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
を消すと、あたりがかえつて朦朧もうろうと、薄く鼠色ねずみいろほのめく向うに、石の反橋そりばし欄干らんかんに、僧形そうぎょうすみ法衣ころも、灰色に成つて、うずくまるか、とれば欄干に胡坐あぐらいてうたふ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、その石塔が建った時、二人の僧形そうぎょう紅梅こうばいの枝をげて、朝早く祥光院の門をくぐった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは頭をまるめ法衣を着た、僧形そうぎょうの除村久良馬であった。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「や、これはかたじけないが、じぶんは見らるるとおり僧形そうぎょうの身、幼少ようしょうから酒のあじを知ったことがない、兄貴あにき、かわってくれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万が一にも雑兵ぞうひょう乱入のみぎりなどにはかえって僧形そうぎょうの方が御一統がたの介抱を申上げるにも好都合かと思い返し、慣れぬ手に薙刀なぎなたをとるだけのことに致しました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
を消すと、あたりがかえって朦朧もうろうと、薄く鼠色にほのめく向うに、石の反橋そりばしの欄干に、僧形そうぎょうの墨の法衣ころも、灰色になって、うずくまるか、と視れば欄干に胡坐あぐらいて唄う。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兵馬は例のうわべだけの僧形そうぎょうで、神尾の屋敷の前まで来かかると、門前に人集ひとだかりがあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たちまち、らんの方に分れていた武士の組、僧形そうぎょうたちの組、ほかすべても、日野蔵人俊基をめぐって、その左右に、大きな輪となって居流れた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万が一にも雑兵ぞうひょう乱入のみぎりなどにはかえつて僧形そうぎょうの方が御一統がたの介抱を申上げるにも好都合かと思ひ返し、慣れぬ手に薙刀なぎなたをとるだけのことに致しました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
まさかとは思う……ことにその言った通り人恋しい折からなり、対手あいて僧形そうぎょうにも何分なにぶんか気が許されて
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが自分と同じことに僧形そうぎょうをしている人物であると見て、なお不思議に思いながら近づいて見ると意外、それは頭と顔の円いので見紛みまごうべくもあらぬ師家の慢心和尚であろうとは。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とも知らず——晴季は、障子しょうじめてほッとしたもののように、また小声で、目のまえにいる僧形そうぎょう貴人きじんへ話しかけていたことばをつづける。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ればその前に人だかりがしてゐる。通りすがりに横目でうかがふと、円頂僧形そうぎょうの赤ら顔の男が、上人腰掛石の上につつ立ち、何ごとか熱弁をふるふ様子である。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その軒の土間に、背後うしろむきにしゃがんだ僧形そうぎょうのものがある。坊主であろう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道庵が、つまらないところでせ我慢をいうと、僧形そうぎょうの同職も笑って
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は、僧形そうぎょうでこそあれ、毛利輝元の政略にも参与さんよしておる人物です。……蘭丸どの、どうじゃ、それがしの方が、はるかに人相観にんそうみ上手じょうずであろうが、はははは
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弁士と同じく僧形そうぎょうで、頭にはかき色の網代笠あじろがさをいただき、太い長杖をついてゐる。後姿なので人相も年の頃も分らないが、声から察するところ、まづ五十がらみの年配でもあらうか。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
其ののき土間どまに、背後うしろむきにしゃがんだ僧形そうぎょうのものがある。坊主ぼうずであらう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かくて、臨川寺の方丈の上で、道庵先生と、僧形そうぎょうの御同職(仮りに)とは相対して、酒をくみかわしながら、寝覚の床をつるべ落しにながめて閑談をはじめました。僧形の同職が先以まずもって言いけらく
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
明智勢の方でも寺僧を殺戮さつりくする意志はないので、僧形そうぎょうの者と見れば、むしろ積極的に脱出をたすけたのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋を越してなおもさ迷って参りますうち、地獄谷への坂道にやがて掛ろうというあたりで、のそりのそりと前を歩んで参る僧形そうぎょうの肩つきが、なんと松王様に生き写しではございませんか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
イヤに改まったものですから、僧形そうぎょうの同職も高らかに笑い
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
信長を奔命につからせてしまおうとはかったり——すべては霊山の大堂に住む僧形そうぎょうの策や指命であった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋を越してなおもさ迷つて参りますうち、地獄谷への坂道にやがて掛らうといふあたりで、のそりのそりと前を歩んで参る僧形そうぎょうの肩つきが、なんと松王様に生き写しではございませんか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして彼方あなたの原を、十二、三名の僧形そうぎょうの人影が、おのおの、真っ赤なほのおをかざして——それはもちろん松明たいまつであるが——粛々と無言を守って通って行くのが眼に映った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ今、御家中の渡辺天蔵と仰せられる僧形そうぎょうの者が、甲州の旅より立ち帰って来たばかりとかで、すぐお眼にかかりたいと、丘の下に待っておりまする。——何か、火急を
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧形そうぎょうの雲水、結綿ゆいわたの娘、ろうたけたる貴女、魔に似たる兇漢、遊女、博徒ばくと、不具者、覆面の武士、腕のない浪人、刺青ほりもののある百姓、虚無僧、乞食ものごい鮓箱すしばこをかついだ男、等、等
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰なのか、愉快そうに、こう大きな声で言った者があると思うと、蹌踉そうろうとして、草履ぞうりばきの僧形そうぎょうの男が、あぶない足つきで、一人の町人に、背中を支えられながら歩いてきた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)