何人なんぴと)” の例文
何人なんぴとが進んでそのしょくに応ずるかはの知る限りでない。余はただ文壇のために一言して諸君子の一考いっこうわずらわしたいと思うだけである。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何人なんぴとも反対できないような一般原則をいっているときでも、その中に実は支配権や指導権の争いがかくされていることが少なくない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
世界の何人なんぴとにも認められている事実を、自分の意地から反駁している相手のばかばかしさを、にくむよりもむしろあわれむ方が多くなった。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そとからて、何人なんぴとか、ここにかなしみがあるとおもうだろうか。むろんここには近所きんじょまでせまった飢餓きがもなければ貧困ひんこんもなかったのでした。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
だがあなたがたは何人なんぴとといえども嗅煙草とダイヤモンドとぜんまいと蝋燭との関係をよう見破らんとのみ云われるがわしはその関係を
けだし、「散文で詩を書く」ことの不自然なのは、「韻文で小説を書く」ことの不自然なのと同じく、何人なんぴとにも明白な事實に屬する。
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
問題の長持は、おせいがいて貰い受けて、彼女からひそかに古道具屋に売払われた。その長持は今何人なんぴとの手に納められたことであろう。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれにせよ、信雄卿と三河殿のあいだに、何事か由々しい準備が始められていることだけは、もう何人なんぴとも疑っている者はありません
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きみばかりでない、ぼく朋友ほういううち何人なんぴといま此名このな如何いかぼくこゝろふかい、やさしい、おだやかなひゞきつたへるかの消息せうそくらないのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
どうしても原始未開の時代に戻って何人なんぴともいっさい財産を持たぬことになり、労せずしてどこからか均一な衣食の料の供給を受け
震災後記 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
命日毎に壽阿彌の墓にまうでるお婆あさんは何人なんぴとであらう。わたくしの胸中には壽阿彌研究上に活きた第二の典據を得る望がきざした。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
何人なんぴとも、このやや散慢な感じさえするソナタのうちから、これほど高貴なものを抽き出し得ないであろう。それは驚くべき技術である。
その間に新たに得た経験は、新奇を好む点では何人なんぴとよりも熱心な子供たちが、実は意外な保守党であったということでありました。
いったいわれらの立脚地はどこにあるのか。いったいわれらは何者なのか。君らは何人なんぴとか。僕は何人なんぴとか。まず皇帝のことを説こう。
実にこの歌の通り大小となく仕事するものは、必ず何人なんぴとかにうらみを受けるものである。いわゆる人から邪魔じゃまに思われるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何人なんぴとも否定し得ない科学界の大疑問となっているのであるが、しかも、そうした不可思議現象が、何故なにゆえに今日まで解決されていないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自己の能力に応じ、自ら認めて受持つ所の分業ですから、何人なんぴともその分業に特権を要求する者もなく、また役不足をいう者もありません。
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ほとんど何人なんぴともこれに対してエキゾティックな興味を感じえないまでに、その屋根と壁とをことごとく日本化し去ったのである。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その何人なんぴとの手になり、またいずれの辺より出でたる云々の詮索は、無益の論なりとの説もあらんなれども、鄙見ひけんをもってすれば決して然らず。
読倫理教科書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
沖縄の立場が以上申し述べた通りでありますから、沖縄人にとっては支那大陸で何人なんぴとが君臨してもかまわなかったのであります。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
勝景は多少のインスピレイシヨンを何人なんぴとにも与ふる者なり。故に勝景は如何なる田夫でんぷ野郎をも詩気しふうを帯びて逍遙する者とならしむるなり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大沢一等卒がはたしてそれだけの武功があったかどうかは何人なんぴとも知らないことなのだが、生徒間ではそれを信ずる者がなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
一方を顧みると、そこに何人なんぴとかが寝かされていて、その上には、能登守がここで日頃用ゆる筒袖つつそでの羽織が覆いかけてあるのでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鐘釣温泉の発見されたのは寛政年間で、文政二、三年の頃には浴場を開いたとのことであるから、何人なんぴと此処ここまで来た者があるに相違ない。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
何人なんぴとも完成し得なかった人工心臓研究の第一の難関を破り得た私たちの歓びには、家兎も心あらば同感であってくれるだろうと思いました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かれは何人なんぴとの恵みをも受けることが出来なくなって、早く他領へ立退くか、あるいはここでみすみす飢え死にしなければならないのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七十の声を聞いたならばその時こそは全国行脚あんぎゃをこころざし、一本の錫杖しゃくじょうを力に、風雲に身を任せ、古聖も何人なんぴとぞと発憤して
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「西洋紀聞」を読んだ何人なんぴとが屋久島を神代杉に覆はれた巨大な山塊と知りうるであらうか。我々は史料によつて歴史を知る。
歴史と現実 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
同じ心の法則を万人にいんとするのは馬鹿ばかげたことだろう。何人なんぴとも心のために義務を犠牲にするの権利をもってはしない。
その眼は敏捷で活々として居り、その底から覗いてゐる茶目つ氣は何人なんぴとの頬をもほころばせずにおかない底のものであつた。
されば、憲政の円満なる運用をするには、君主は平日無事の時に於て、何人なんぴとが最も賢者にして最も国民の心を得るかを洞察しおかねばならぬ。
見れば、彼の眼の前の雲の中には、何人なんぴとか不思議な人の顔がぼんやり浮かび出てゐる。それはまつたく不意に現はれた招かれざる客であつた。
何人なんぴとに断って、おれの妻と手紙の遣取やりとりをする。一応主人たるべきものに挨拶をしろ! 遣兼ねやしない……地方いなかうるさいからな。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されど単純なる二色しくは三色の配置によりてかへつてたくみに複雑美妙なる効果を収むる所何人なんぴともよく企て及ぶ所にあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一水の存在が必要だとすればその水がいかなる役目をするかについては、おそらく何人なんぴともいまだ適確な答解を与えることができないであろう。
日常身辺の物理的諸問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうであるにもかかわらず、これこそ純文学よりも一層高級な、純粋小説の範とも云わるべき優れた作品であると、何人なんぴとにも思わせるのである。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
之は新聞にも業々ぎょうぎょうしく伝えられて警察非難の声も挙った位だから、知っている人もあろうが、ある兇暴な団体(事実は何人なんぴと仕業しわざか分らないが)
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
(五) 天然の美を誇張的に形容したる句 天然の美、殊に花樹花草の美は何人なんぴともこれを感ぜざるはあらず、予は特にこれに感じやすき性あり。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
寝室の中にはともしびの光がきらきらと輝いて、細君はまだ寝ずに何人なんぴとかとくどくどと話していた。周は窓をめてのぞいてみた。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
病人の食物は何人なんぴとの家庭にても知らざるべからず。しかるに今の世は医師すら多く薬物療法に重きを置きて食物療法の大効あるを悟らざるなり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何人なんぴとにせよ清純な愛などはあるものでないとは知りながらなおかつ漠然とその要求を心に感ずるという事実——これは果たして偏見だろうかね。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けだし新たに徴収さるべき金は、まず第一に、わが国の海岸を何人なんぴとにも侵さしめざるようこれを保証することのために費やさるべきものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
恐らくに、徳市という兄と共に、或いは、少し低脳な母親と共に、永久に自分の父親は何人なんぴとであるかを知らないだろう。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
研究者が何人なんぴとであっても、もしこの優れた作品がその正当な形態を回復し得さえすれば、自分の望みは足りるのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これ実に破天荒はてんこうの卓識といわざるを得ず。しかれども彼の卓識も、桃太郎鬼が島征伐せいばつ昔噺むかしばなしの如く、何人なんぴと真面目まじめにこれを聞くものなきぞ遺憾なる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いや、御安心下さい。これが二時間前ならばともかく、現在では、あの禁制があってもすでに無効です。もう何人なんぴとといえども、貴方の持ち分相続を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ああこのこわれたる指環、この指環にまことあたひの籠もつてゐるとは、恐らく百年の後ならでは、何人なんぴとにも分りますまい。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
まさか、平松子爵の次男がスリだとは何人なんぴとも感付かないだろう、知っているのは妹一人位のものだと彼は考えていた。
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そしてこの書の名声とともに高まったものは、そもそもこの無名の論客は果して何人なんぴとであるかという疑問の声であった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
流暢りゅうちょうさの代りに、絶対に人に疑をいだかせぬ重厚さを備え、諧謔かいぎゃくの代りに、含蓄がんちくに富む譬喩ひゆつその弁は、何人なんぴとといえども逆らうことの出来ぬものだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)