人立ひとだち)” の例文
舁夫かごやの安吉と重三郎を連れて荷足の仙太郎が刀の詮議に土手へかゝって参ると、人立ひとだちが有りますから、仙太郎も立止り覗いて見て
かすみせきには返りざきの桜が一面、陽気はづれの暖かさに、冬籠ふゆごもりの長隠居、炬燵こたつから這出はいだしたものと見える。往来おうらい人立ひとだちだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
町中まちなかでしたから忽ち人立ひとだちがして、勘六の仲間も駈けつけて来ました。勘六は腰が抜けたと言って往来の真中へ胡坐あぐらをかいたまゝ動きません。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人立ひとだちおびただしき夫婦めをとあらそひの軒先のきさきなどを過ぐるとも、ただ我れのみは広野ひろのの原の冬枯れを行くやうに、心に止まる物もなく、気にかかる景色にも覚えぬは
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしの友達や何かには日頃ひごろからいたくないと思っているので、停留場の人立ひとだちが次第に多くなるのを見ると共に、こそこそ逃げるがように電信柱と街路樹との間を縫って
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お葉さん。何しろ、この通り人立ひとだちがしては、お前も外聞が悪かろうし、私のうちでも迷惑するから、まあ堪忍してれ。此方こっちに不都合があるなら、んなにも謝るから……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(白萩に)何とて人立ひとだちがすることぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
呼掛よびかける者あり誰ぞと振返ふりかへり見れば古河にありとき召使ひし喜八と云ふ者にて吉之助がそばに來り貴君樣あなたさまには何時御當地へ御出おんいでありしや途中とちうながら御容子ごようすうかゞたしと申けるに此所は人立ひとだちしげければとて傍邊かたへの茶屋にともなひ吉之助は諸藝稽古しよげいけいこの爲め横山町の出店でだなへ來りしより多くの金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
若衆に取寄せさせた、調度を控えて、島の柳にもやった頃は、そうでもない、みぎわ人立ひとだちを遮るためと、用意の紫の幕を垂れた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の前へ来ると黒山のように人立ひとだちがしているのは、の左官の亥太郎ですが、此の亥太郎は変った男で冬は柿色の※袍どてらを着、夏は柿素かきそ単物ひとえものを着ていると云う妙な姿なり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人の聲は、人の聲、我が考へは考へと別々に成りて、更に何事にも氣のまぎれる物なく、人立ひとだちおびたゞしき夫婦あらそひの軒先などを過ぐるとも、唯我れのみは廣野の原の冬枯れを行くやうに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
若衆わかいしゅ取寄とりよせさせた、調度を控へて、島の柳にもやつた頃は、うでもない、みぎわ人立ひとだちさえぎるためと、用意のむらさきの幕を垂れた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとこゑは、ひとこゑかんがへはかんがへと別々べつ/\りて、さら何事なにごとにものまぎれるものなく、人立ひとだちおびたゞしき夫婦めをとあらそひの軒先のきさきなどをぐるとも、たゞれのみは廣野ひろのはら冬枯ふゆがれをくやうに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
文「はい、何か表へ人立ひとだちがして居るが間違いでもあったのか」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのまま襲入おそいいった、向うの露地口には、八九人人立ひとだちしたが、真中まんなかをずッと通るのに、誰も咎めたものが無い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋の上から四辺あたりは一面の人立ひとだちで、往来が止ってしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
石を、青と赤いかかとで踏んで抜けた二頭の鬼が、うしろから、前を引いて、ずしずしずしと小戻りして、人立ひとだちの薄さに、植込の常磐木ときわぎの影もあらわな、夫人の前へ寄って来た。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この町のにぎやかな店々のかっと明るいはてを、縦筋たてすじに暗くくぎった一条ひとすじみちを隔てて、数百すひゃく燈火ともしび織目おりめから抜出ぬけだしたような薄茫乎うすぼんやりとして灰色のくま暗夜やみただよう、まばらな人立ひとだちを前に控えて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
透間すきまのない人立ひとだちしたが、いずれも言合せたように、その後姿を見送っていたらしいから、一見赤毛布あかげっとのその風采ふうで、あわただしく(居る、)と云えば、くだんおんな吃驚びっくりした事は、往来ゆききの人の
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕も器量もすごいのが、唐桟とうざんずくめのいなせななりで、暴風雨あらしに屋根を取られたような人立ひとだちのする我家の帳場を、一渡ひとわたりみまわしながら、悠々として、長火鉢の向側、これがその座に敷いてある
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されば冥土よみじ辿たどるような思いで、弥生町やよいちょうを過ぎて根津までくと、夜更よふけ人立ひとだちはなかったが、交番の中に、蝶吉は、かいなそびらねじられたまま、水を張った手桶ておけにその横顔を押着けられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路端みちばたの芋大根の畑を隔てた、線路の下を抜ける処は、物凄ものすごい渦を巻いて、下田圃へ落ちかかる……線路の上には、ばらばらと人立ひとだちがして、あかるい雲の下に、海の方へ後向うしろむきに、一筆画ひとふでがきの墨絵で突立つッたつ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)