一文字いちもんじ)” の例文
一文字いちもんじに抱えると、いだくものも、抱かれたものも、この世界に充満する音楽に合せて、高らかに歌いながら、しずしずと彼方へ立去るのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
膝の処へ一文字いちもんじに、つん、と伏せた笠の上、額を着けそうにして一ツおじぎをした工合が、丁寧と言えば丁寧だが、何とも人を食った形に見える。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこからも、御所の雑色たちが丹精してつくりあげた、見事な一文字いちもんじ造りの大輪の菊の花の群れが眺められた。
(新字新仮名) / 山川方夫(著)
その墓と小栓の墓は小路こみちを隔てて一文字いちもんじに並んでいた。華大媽は見ていると、老女は四皿のおさいと一碗の飯を並べ、立ちながらしばらく泣いて銀紙を焚いた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
Brocken ざんへ! はうきまたがつたばあさんが、赤い月のかかつた空へ、煙突から一文字いちもんじに舞ひあがる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と金剛力を出して一振ひとふりすると恐ろしい力、鳥居は笠木かさぎ一文字いちもんじもろにドンと落ちた。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
戸倉は、頭目をにらみつけたまま、口を一文字いちもんじにつぐんでいる。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「エエ、あれは多分右手なんでしょうが、こうはすかけに、一文字いちもんじの太い線が、ドス黒く見えていたのです」
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上野うへの汽車きしや最後さいご停車場ステエシヨンたつすれば、碓氷峠うすひたうげ馬車ばしやられ、ふたゝ汽車きしやにて直江津なほえつたつし、海路かいろ一文字いちもんじ伏木ふしきいたれば、腕車わんしやせん富山とやまおもむき、四十物町あへものちやうとほけて、町盡まちはづれもりくゞらば
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
保吉はその中を一文字いちもんじに敵の大将へ飛びかかった。敵の大将は身をかわすと、一散に陣地へ逃げこもうとした。保吉はそれへ追いすがった。と思うと石につまずいたのか、仰向あおむけにそこへころんでしまった。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その夜の七時頃、柾木愛造の自動車は、二つの目玉を歓喜に輝かせ、爆音華やかに、の化物屋敷の門を辷り出し、人なき隅田つつみを、吾妻橋の方角へと、一文字いちもんじに快走した。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雪枝ゆきえ一文字いちもんじまへ突切つゝきつて、階子段はしごだん駆上かけあがざまに、女中ぢよちゆう摺違すれちがつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゴールには、二本の柱の間に、白いテープが一文字いちもんじに張られ、その一方の柱のそばに、警官姿の治良右衛門が、第一着を報じる為にピストルを構えながら立ちはだかっていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……すなはかぜこゑなみおとながれひゞき故郷こきやうおもひ、先祖代々せんぞだい/\おもひ、たゞ女房にようばうしのぶべき夜半よは音信おとづれさへ、まどのささんざ、松風まつかぜ濱松はままつぎ、豐橋とよはしすや、ときやゝるにしたがつて、横雲よこぐもそら一文字いちもんじ
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
惜気おしげなく真鍮しんちゅうの火鉢へ打撒ぶちまけると、横に肱掛窓ひじかけまどめいた低い障子が二枚、……其の紙のやぶれから一文字いちもんじに吹いた風に、又ぱっとしたのが鮮麗あざやか朱鷺色ときいろめた、あゝ、秋が深いと、火の気勢けはいしもむ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山をくつがえしたように大畝おおうねりが来たとばかりで、——跣足はだし一文字いちもんじ引返ひきかえしたが、吐息といきもならず——寺の門を入ると、其処そこまで隙間すきまもなく追縋おいすがった、灰汁あくかえしたような海は、自分のせなかから放れてった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やまくつがへしたやうに大畝おほうねりたとばかりで、——跣足はだし一文字いちもんじ引返ひきかへしたが、吐息といきもならず——てらもんはひると、其處そこまで隙間すきまもなく追縋おひすがつた、灰汁あくかへしたやうなうみは、自分じぶんせなかからはなれてつた。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小さな浮木うきほどに成つて居たのが、ツウと浮いて、板ぐるみ、グイと傾いて、水のおもにぴたりとついたと思ふと、罔竜あまりょうかしらえがける鬼火ひとだまの如き一条ひとすじみゃくが、たつくちからむくりといて、水を一文字いちもんじ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一文字いちもんじまゆはきりゝとしながら、すゞしいやさしく見越みこす。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)