一体いったい)” の例文
旧字:一體
八時今市いまいち発の汽車に乗らぬと、今晩中に日光へくことは出来ぬ。一体いったい、塩原から日光へひと跳びというのがすでに人間わざではない。
一体いったいこの人の平素ふだん住んでいるのは有名なブッシュというところで、此処ここには美術学校もあるし、この土地はこの人にって現われたので
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
という調子です。氏のこの言葉は氏のその時の心理の一部を語るものでしょうが、一体いったいは氏は怖くてぞくが追えなかったのです。
かれには一体いったいどうしていいのかわからなかったのです。ただ、こう幸福こうふく気持きもちでいっぱいで、けれども、高慢こうまんこころなどはちりほどもおこしませんでした。
一体いったい怪物ばけものと云えば不思議なもので世間にあまり類と真似の無いもののようだが、よく考えてみるとこの世の中にありとあらゆるものは皆怪物ばけものになる
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
果たして尊者は実際的に問を起していいますには「あなたがいろいろの困難を取ってわざわざラサへ行かれるというのは一体いったい何のためでありますか」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いや、ここにいます。どうか僕にはおかまいなく、大きな音を出して闘っていただきたい。一体いったい、敵は何者ですか」
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれはそのとき一体いったい何をきいたのであろうか、あの女の声でないとすれば、かれは誰から呼び立てられたのであろうかと考えながら、ぶらぶら歩いていた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一体いったい保元ほうげん御謀叛ごむほんは、天照大神の御神勅の趣旨にたがうまいと思って、お思いたちになられたのですか。それとも御自身の私欲から御計画なされたのですか。
このかみ一体いったいどうなっているだろうか。自分は此処まで来て、ブレーゲがブリガッハに合し、そうしてドナウの源流を形づくるところを見て、僕の本望は遂げた。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
……去年の大地震で、海の底が一体いったいに三尺がとこ上りましての、家々の土地面つちじめんが三尺たたら踏んで落込おちこみましたもの、の。いま、さいて来た汐も、あれ、御覧じゃい。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかしな奴だと思って不図ふと見ると、交番所こうばんしょの前に立っていた巡査だ、巡査は笑いながら「一体いったい今何をしていたのか」と訊くから、何しろこんな、出水しゅっすい到底とうてい渡れないから
今戸狐 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
一体いったい夏菊という花は、そう中々なかなかしおれるものでない、それが、ものの二時間もあいだにかかる有様ありさまとなったので、私も何だか一種いやな心持こころもちがして、その日はそれなり何処どこへも出ずすごした
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
じいさんからそう注意ちゅういされるまでもなく、わたくしはもう先刻さっきから一心不乱いっしんふらんふか統一とういつはいって、黒雲くろくもなかにらみつめてたのですが、たちまち一体いったい竜神りゅうじん雄姿ゆうしがそこにあざやかに見出みいだされました。
都会が田舎の意志と感情を無視して吾儘わがままを通すなら、其れこそ本当の無理である。無理は分離である。分離は死である。都会と田舎は一体いったいである。農がみだりに土を離るゝの日は農の死である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「お前さんは奇妙な服装なりをしているが、一体いったい何をする人かね」
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこで一体いったいあの家をどうしたらいいでしょうか
一体いったい蝸牛かたつむりは形そのものがあまりいい感じのものではない。しかもその肉は非常にこわくて弾力性に富んでいる。これを食べるには余程よほどの勇気がいる。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一体いったい出来できが面白い都会で、巴里パリーに遊んでそのいにしえをしのぶとき、今も悵恨ちょうこんはらわたを傷めずにはいられぬものあるが
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
「おや! 一番いちばんおおきいのがまだれないでるよ。まあ一体いったいいつまでたせるんだろうねえ、きしちまった。」
しかし一体いったいなんであろうか。この完全文明理想境をおびやかすところの、暗い問題とは。暗い問題があるということすら、僕には不審ふしんでならないのだが……。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「お柳、」と思わず抱占だきしめた時は、浅黄あさぎ手絡てがらと、雪なす頸が、鮮やかに、狭霧さぎりの中にえがかれたが、見る見る、色があせて、薄くなって、ぼんやりして、一体いったいすみのようになって、やがて
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まだ帰らない、——とすると、一体いったいどこにいるのだろう。」
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
答『一体いったい普通ふつうじゃ、双生児ふたごなどはめったにない……。』
一体いったいお由は、今戸町いまどまちに店を持っている相当手広い牛肉店加藤吉蔵かとうきちぞうめかけけん女房なのであった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一体いったいあちらの人は、夜寝床にく前になると、一般に蝋燭ろうそくともならわしであるのだが、当時そのとき恰度ちょうどその部屋の中に、或る血だらけの顔の人が、煙の如く影の如くうしても見えるというのだ。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
西洋人は一体いったいに女性尊重と見做みなされているが、一概いちがいにそうも言い切れない。
女性崇拝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一体いったい小児こどもの時から、三十年近くのあいだ——ふと思い寄らず、二人のおんなの姿が、私の身の周囲へあらわれて、目に遮る時と云うと、いいにしろ、悪いにしろ、それが境遇なり、生活なりの一転機となるのが
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
問『うまれるのは矢張やは一体いったいづつでございますか?』
一体いったいきみはどういう種類しゅるいかもなのかね。」
エトワールの表と裏とには、制服の警官が張りこんでいるのだったけれど、この地底の小さい怪音かいおんは、彼等の耳に達するには余りにかすかであった。一体いったい誰がそのあやしい音をたてたのだろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巴里パリのレストラントは一体いったい何千軒あるかわからない。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
死んでもようござんすとは御挨拶ごあいさつだ。おお、僕は一体いったいこれからどうなるか。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一体いったい誰ですか、その重大人物博士とやらいうのは……」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)