鼻面はなづら)” の例文
それでムクの鼻面はなづらに飛んで来た石をパッと受け返す途端にまた一つ、米友のかおを望んで飛んで来た石をすかさずパッと受け留めて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして多くの労働者は、それを作り出すために、おのおの、危険と鼻面はなづらを突き合わせて、凍え、飢え、さまよいながら、労働すべきであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
迷っている男の鼻面はなづらかすめて、黒い影がさっと横切って過ぎた。男はあっと思うせんを越されてしまう。仕方がないから
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はもうこうしの面倒もみない。そして、犢が乳を飲もうとして、ぎごちない脚でち上がると、その鼻面はなづらで押され、そのたんびにひょろひょろする。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いながら、いきなりやかんにをかけますと、はいの中にかくれていたくりがぽんとはねして、とびがって、さる鼻面はなづらちからまかせにけつけました。
猿かに合戦 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「いちいちおれの鼻面はなづらをこするような物云いばかりするやつだ。於虎、貴様は同郷の後輩だから親切に教えてやろうと、俺は好意を示しているのだぞ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……牧草でも、レッドトップならば匂いぐらいはぎまするが、チモーシとなれば、はやもう、鼻面はなづらも寄せん。燕麦えんばくに大豆。それから、ふすまに唐もろこし。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのうちにライオンとも虎ともつかぬ動物がやって来て自分に近寄り、そうして自分の顔のすぐ前に鼻面はなづらを接近させる。振返って見ると西洋人はもういない。
夢判断 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何んだろうとのぞいて見るとお勝さんが、疑いを掛けたその裏長屋の泥棒猫をつかまえて、コン畜生、々々といって力任せに鼻面はなづらを板のこすり附けております。
弾薬庫は開かれ、砲塔の内部には、水兵の背丈ほどある巨弾が、あとからあとへと、ギッシリ鼻面はなづらを並べた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
カシタンカはとびのいて、ぺたんと腹ばいになり、ねこのほうに鼻面はなづらをつきだして、わんわんほえ始めた。
カシタンカ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
た亭主が馬の鼻面はなづらを押しやった。それからこの可憐かれんな動物は桶の中へ首を差込むことを許された。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私にはイルシューという赤毛の一番温和おとなしそうな馬を、スパセニアは例の白馬を、そしてジーナは栗毛のプルーストの鼻面はなづらを並べて……話といって何にもありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
まさに大公爵の鼻面はなづら拳固げんこくらわせようとした。しかし種々の矛盾した感情の混乱に圧倒されていた。
馬はせな、腹の皮をゆるめて汗もしとどに流れんばかり、突張つッぱった脚もなよなよとして身震みぶるいをしたが、鼻面はなづらを地につけて一掴ひとつかみ白泡しろあわ吹出ふきだしたと思うと前足を折ろうとする。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虎の鼻面はなづらがすぐ眼の前に迫っても、声も立てなければ、身動きさえもしなかった。その白蝋はくろうのように美しい肌の上に、一条の血汐ちしおが、赤いへびとなってからみついていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は自分の顏を、おきみの鼻面はなづらへぶつけるやうに持つて來た。その顏の眉間には、ヂヤガ芋ほどのこぶがあつた。その瘤の下へ暗い影を寄せて、彼はぐいとおきみを睨みつけた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
それから、梯子の頂上でサッと撞球棒を投げ、見事落ちてくる玉を鼻面はなづらで受けとめる。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
八五郎と平次は、二頭の若駒のように、鼻面はなづらを並べて明神下から宮永町へ飛びました。
良人おっとはしきりにうま鼻面はなづらでてやりながら『おまえもとうとう出世しゅっせして鈴懸すずかけになったか。イヤ結構けっこう結構けっこう! わしはもう呼名よびなについて反対はんたいはせんぞ……。』そうって、わたくしほうかえりみて
上の窓からはちきれそうな顔をして、乳房をぎゅっとつつんだ百姓女が覗いておれば、下の窓からは、仔牛が顔をのぞけたり、豚がめく滅法めっぽう鼻面はなづらだけ突きだしている。要するに陳腐な光景である。
やせ馬は鼻面はなづらをさし伸べ、苦しげに息をついて、死んでしまった。
弓「此奴こいつおれの鼻面はなづらへ下駄を打着けよつた、ああ、いた
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
空腹くうふくで敏感になつたあいつの鼻面はなづら
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
窯の格子に、鼻面はなづらくつつけ
退かぬものはことごとくころすぞと云わぬばかりに人込の中を全速力でり立てながら、高いひづめの音と共に、馬の鼻面はなづらを坂の方へ一捻ひとひねり向直むけなおした。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
米友は竿の先を手許てもとって、五色の網をキリキリと手丈夫に締め直すと、ヒューとまた鼻面はなづらに飛んで来たのを、鏡でも見るようにしてハッタと受けて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
烈しい秋の光は源の頬をかすめて馬の鼻面はなづらあたりましたから、馬の鼻面は燃えるように見えました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うませなはらかはゆるめてあせもしとゞにながれんばかり、突張つツぱつたあしもなよ/\として身震みぶるひをしたが、鼻面はなづらにつけて、一つかみ白泡しろあは吹出ふきだしたとおもふと前足まへあしらうとする。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
男は、石を投げたり、鼻面はなづらを蹴とばしたりしていた。よほどその男についているに違いない。いくら邪慳じゃけんにされても帰ろうとはしないのである。——西山荘に飼われている、四、五頭の鹿だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さるはさけんであわてて鼻面はなづらをおさえて、台所だいどころへかけしました。
猿かに合戦 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
黒き馬の鼻面はなづらが下に見ゆるとき、身を半ば投げだして、行く人のために白き絹の尺ばかりなるを振る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
屠手の一人は赤い牡牛のそばへ寄り、鼻面はなづらを押えながら「ドウ、ドウ」と言って制する。その側には雑種の牡牛が首を左右に振り、繋がれたまま柱を一廻りして、しきりにのがれよう逃れようとしている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、剣を抜いて、車上の者の鼻面はなづらへつきつけた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄くなった揚句あげくは、しだいしだいに、深い奥へ引き込んで、今までは影のように映ってたものが、影さえ見せなくなる。そうかと思うと、雲の方で山の鼻面はなづらを通り越して動いて行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
軒下に寝ている犬の鼻面はなづらへ手を延ばして見たりした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)