黒白あやめ)” の例文
思いがけなく閉籠とじこめ黒白あやめも分かぬ烏夜玉うばたまのやみらみっちゃな小説が出来しぞやと我ながら肝をつぶしてこの書の巻端に序するものは
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
月光はそれを照らして、鮮やかにするかと思えば、またたちまち、雲は月をおおうと、黒白あやめもつかぬ闇としてしまう。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言った自分の声に、ふと目が覚めると……室内まのうち真暗まっくら黒白あやめが分らぬ。寝てから大分の時がったらしくもあるし、つい今しがた現々うとうとしたかとも思われる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかの霧は海ほどではなかったが、それでも黒白あやめもわかぬというような不安の状態が一時間あまりも続いた。
深川の老漁夫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……黒白あやめもわかぬ暗黒の夜に、蛍火ほたるびのような信号灯一つをたよりに、列車でもなんでも、ふだんと変わらぬ速さと変わらぬ時間で運転するなんて、神さまでも
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とうとう日は暮れて四方八方黒白あやめも分らぬ真の闇、しかし海はおかと違いまして、どのような闇でも水の上は分りますが、最早もはや三人ともこん絶え力尽きて如何いかんともすべなく
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ゑゝことかぬわがまゝものめ、うともおてぜりふひてこゝろともなくにはるに、ぬばだまやみたちおほふて、もの黒白あやめかぬに、山茶花さゞんくわ垣根かきねをもれて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すかし見るに生憎あひにく曇りて黒白あやめも分ず怖々こは/\ながら蹲踞つぐみ居ればくだんの者は河原へあがより一人の女を下しコレ聞よ逃亡者かけおちものと昨日から付纒つきまとひつゝやう/\と此所へ引摺ひきずこむまでは大にほね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
登り登つて漸く六里が原の高原にかゝつたと思はれる頃は全く黒白あやめもわからぬ闇となつたのだが、車室には灯を入れぬ、イヤ、一度小さな洋燈ランプを點したには點したが、すぐ風で消えたのだつた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
独言つぶやきながら奥に行くと、あかりは消えて四辺は黒白あやめも分かぬ真の闇だ。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
あとは塗り込めたような闇、朧月も雲に隠れて、馴れない眼には、本当に黒白あやめも判らない位——、熱帯植物の刺戟的な香気と、若い女の悩ましい体臭が、異常な交錯をして、私の身体を押し包みます。
いつぞや、加茂かもつつみ蚕婆かいこばばあばりにふかれてその目をつぶされ、いまは黒白あやめもわかたぬ不自由な身となった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水らしい水とも思わぬこの細流せせらぎ威力ちからを見よと、流れ廻り、めぐって、黒白あやめわかぬ真の闇夜やみよほしいまま蹂躪ふみにじる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうあたりは黒白あやめも分らぬ闇黒くらやみの世界で、ただ美しい星がギラギラとまたたくのと、はるかにふりかえると、後にして来た地球がいま丁度夜明けと見えて、大きな円屋根まるやねのような球体きゅうたいはし
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けすまじとなれもせぬ江戸の夜道は野山より結句けつくさびしく思はれて進まぬ足をふみしめ/\黒白あやめわかしんやみ辿たどりながらも思ふ樣まづしき中にも手風てかぜも當ず是迄そだてし娘お文を浮川竹に身をしづつらつとめを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
世をうらむ、人間五常の道乱れて、黒白あやめも分かず、日をおおい、月を塗る……魔道の呪詛のろいじゃ、何と! 魔の呪詛を見せますのじゃ、そこをよう見さっしゃるがい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
獄中はもう黒白あやめも分かたぬ黒煙であった。打ち壊した牢格子ろうごうしのあたりもすでに火焔かえんふさがっている。母里太兵衛はさきに用いた角木材でふたたびそこを大きく破壊した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄昏たそがれや、早や黄昏は森の中からその色を浴びせかけて、滝をおおえる下道を、黒白あやめに紛るる女の姿、えにしの糸に引寄せられけむ、裾もたもとびんの毛も、ゆうべの風に漂う風情。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、秀吉のゆるしを得るや、勇躍して、真夜中のうちに、ここを立って天王山へ長駆したもの、鉄砲大将の中村孫兵次、堀秀政、堀尾茂助など、黒白あやめもわかぬ一勢であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立花がいたずらに、黒白あやめも分かず焦りもだえた時にあらしめば、たちまち驚いて倒れたであろう、一間ばかり前途ゆくての路に、たもといて、厚いふきかかとにかさねた、二人、同一おなじ扮装いでたちわらわ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨、風、黒白あやめもわかぬ山中の闇。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺の屋根も、この墓場も、ほとんどものの黒白あやめわかたない。が、門の方の峰の森から、釣鐘堂の屋根に、霧をすべって来たような落葉のしとねを敷いた、青い光明は、半輪の月である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンに早瀬は、身を投げて油の上をぐるぐると転げた。火はこれがために消えて、しばらくは黒白あやめも分かず。阿部街道を戻り馬が、はるかに、ヒイインといななく声。戸外おもてで、犬の吠ゆる声。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もりしたるよとすれば眞暗まつくら三寶さんばう黒白あやめかず。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)