きい)” の例文
順作はしかたなしにそう云って父親の小さなきいろな顔を見た時、その左の眼の上瞼うわまぶたの青黒くれあがっているのに気がいた。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
午食前ひるめしまえに、夫妻鶴子ピンを連れて田圃に摘草つみくさに出た。田のくろの猫柳が絹毛きぬげかつぎを脱いできいろい花になった。路傍みちばた草木瓜くさぼけつぼみあけにふくれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
萱やすゝきが人の肩も見えぬばかりに生ひ茂つて、をり/\見る一軒屋には、桔槹はねつるべが高くかゝつて、甜瓜まくわうりきいろく熟してゐた。
草津から伊香保まで (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そう思ってゆくてをみると、白い道が夕もやの中へきえて、そのさきそらには二つ三つ、きいろい星が光りだしているばかり。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そのうち、遠くから角笛ホルンが聞えて、入り乱れた蹄の響がすると、間もなく宿の前に、きいろく塗った郵便馬車が着いた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
ある日、まゆのあとの青いおかみさんが女の子を連れて来て、祖母にボソボソ言っていたが、またあとから白髪しらがきいろいのを振りこぼしたおばあさんが来た。
星の光も見えない何となく憂鬱なゆうべだ、四隣あたりともしがポツリポツリと見えめて、人の顔などが、最早もう明白はっきりとはわからず、物の色がすべきいろくなる頃であった。
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
「いわんばってんが、顔色はよかなかごたる。先生顔色がきいですばい。近頃は釣がいいです。品川から舟を一艘雇うて——私はこの前の日曜に行きました」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日本の将校ジヤパニイス・ゼネラルさん」み出る程どつさり載つた群衆の中からきいろい女の声が突走つつぱしつた。「めでたい今日を記念するために、あなたも是非こゝへ載つて下さいな。」
まづその鼻の色はすみれの色をしてゐます。それに目玉はあゐ、耳朶みみたぶはうす青、前足はみどり、胴体はきい、うしろ足は橙色オレンヂで、尾は赤です。ですから、ちやうど、にじのやうに七色をしたふしぎな猫でした。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
めづらしいきいろさで、あかるく。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
きいろいランプにが二つ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
菜の花きいろく咲けば
丘陵風景 (新字新仮名) / 今野大力(著)
きいふくろのセメンエン
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
女がそう云ってとうとするので、哲郎は絡んでいた指を解いた。と、女は起って棚のきいろなボール箱に手をやろうとしたがとどかなかった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老画家の方からは幾度か招待せうだいをするが、和尚は漬物石のやうにきいろい顔をして黙りこくつてゐる。
髪の毛は赤くもきいろくもないんだ、そうだ、此奴は色盲に違いない、なんでも病気でリヴイェラに転地にゆくと云ってるから、大方、南欧の気候が色盲によく利くんだろう。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
きいふくろがおちてゐた
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
章一ははかまひもを結んでいた。章一は右斜みぎななめに眼をやった。じぶんが今ひげっていた鏡台の前に細君さいくんおでこの出たきいろな顔があった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぢぢむさいさなぎが化けて羽のきいろい足長蜂となると、尻つ尾の先に剣をつけるやうに、中村雄次郎だんは、満鉄総裁から関東都督に職業替へをしたばつかりに、一旦予備役よびえきになつた身で
きいふくろ石版いしずり
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「何」章一ははずかしめられてかっとなった。彼はいきなり細君さいくんに迫って妊娠のために醜くなっているそのきいろな顔をなぐりつけた。「ばか野郎」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると勝田氏は馬のやうにきいろい歯をき出して
長吉はきいろにしなびた手を出した。音蔵もそれと見ると思わず一方の手を出してそれを握った。音蔵の頬には涙が流れていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
省三は舟のことは女がくわしいから云うとおりに乗ろうと思ってそのまま乗り移った。舟のどこかに脚燈をけてあるように脚下あしもときいろくすかして見えた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
弘光はこう云って、私と離れて電車通りを横断よこぎって、日本橋のほうへ往ったが、その後姿は、黄昏ゆうぐれきいろな光の底にうごめいている人群の中へかくれてしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
頭の往った方はとこになっているが、そこも亀裂ひびの入ったきいろな壁土かべつちわびしそうに見えるばかりで、軸らしい物もない。見た処どうしても空家としか思われない。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老婆はぎろりと眼を光らして、きいろにしなびているあごを右の方へ一二度突きだした。道夫は鬼魅きみがわるいので、もう何も云わないで老婆の頤で指した方へ往った。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細君さいくんは両手をついて腹這はらばいになり、ひっくり返ったコップの上からきいろなどろどろする物を吐いていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこは縁側えんがわもなかった。へやには藺莚いむしろのようなきいろくなった筵を敷いてあった。武士の眼は再びゆくともなしに仏壇の上の仏像に往った。仏像の左の眼はつぶれていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は数多たくさんある髪の毛の乗った頭をかすかに動かして新吉を見あげた。女のうしろきいろな紙を貼った壁になっていたが、その紙が古くなってねずみ色のしみが一めんに出来ていた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「かしこまりました」それから懐中かいちゅうからちいさなきいろな紙で包んだ物を出して、「これは、てまえ隠居の家伝でござりまして、血の道の妙薬でござります、どうかお岩さまへ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
省三はおそる怖る女の顔に眼をやった。きいろな燃えるような光の中に女の顔が浮いていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きいろな顔の狭長い長吉は、眼が見えないので手探りに煙草を詰めているところであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて道人は壇の上に坐ってかじを書いて焼いた。と、三四人の武士がどこからともなしにやって来た。皆きいろな頭巾ずきんかぶって、よろいを着、にしき直衣なおしを着けて、手に手に長いほこを持っていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その方を見ると、きいろな頬の肉の厚いちょいと因業いんごうらしい婆さんですよ。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
水の噴出をやめた毘沙門びしゃもんの像が月の光にさらされてきいろく立っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、障子がすうといてきいろな小さな顔が見えた。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)