顛末てんまつ)” の例文
と——まことに奇怪、検挙事実は歴然として人々の口に伝わっているのに、公儀お調べ書にはその顛末てんまつが記録されてなかったのです。
この合戦はエウゲニウス四世法王時代に、有名な法律学者ニコラス・ピストリエンシスの面前でたたかわれ、彼は会戦の全体の顛末てんまつ
薬売りはふるえあがったそうで、かく主人にあって、その顛末てんまつを語りますと、主人のいわれるには、思い当ることがあるというのです。
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
直談判じきだんぱんをして失敗した顛末てんまつを、川添のご新造にざっと言っておいて、ギヤマンのコップに注いで出された白酒を飲んで、暇乞いとまごいをした。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その訥々とつとつとした口調で、どうにか呑み込ませたのは、今日の昼頃から起った、笛の春日藤左衛門一家に起った出来事の顛末てんまつです。
昨夜の捕物の顛末てんまつを聞きただし、さぐりを入れて歩いてみると、岩切というところで、一つの異聞をしっかりと聞きとめました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、それでも行きがかり上、田口と会見をげ得なかった顛末てんまつだけは、一応この母の耳へでも構わないから入れておく必要があるだろう。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この書は英清鴉片戦争の顛末てんまつを通俗平易に書きつづり挿画を入れて、軍記の如き体裁となし、英人侵略のおそるべきことを説いたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ありのままな顛末てんまつを聞いて、劉表も哀れを催したか、その後、家臣をやって、禰衡のかばねを移し、鸚鵡州おうむしゅうの河畔にあつく葬らせた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神々が鏡や玉を作ったりしてあらゆる方策を講じるという顛末てんまつを叙した記事は、ともかくも、相当な長い時間の経過を暗示するからである。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ミミイ嬢には気の毒だが、もう長々と交際つきあっているわけにはゆかない。そこでこれから顛末てんまつは筋だけを追って話すことにする。
妙子の遭難の顛末てんまつについては、その夜当人と貞之助とが交〻こもごも幸子に語ったことであったが、今そのあらましを記すと次のような訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「わたしの辛労なぞは、取るに足らぬこと。あなたこそ、いろいろお骨折りだったろう。おかけなさい、では詳しく、顛末てんまつをお聞きしたい」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
例の御用部屋に行って老中に面謁し一切の顛末てんまつを述べようとすると、そこにはまた思いがけないことがこの駿河を待っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この附記を記した一半の理由は、材料入手の顛末てんまつを明かにして、所在不明のN某君に、私に他意なき次第を告げ、謝意を表したい為であった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして彼は自分の今日一日の冒険に、ひどく可笑しさを感じていたのか、底の底から笑いながら、一切の顛末てんまつを語り出した。
そこで、恒藤主任は北川から、野田の二千円着服のことを訊き出し、それから野田を訊問した顛末てんまつを逐一物語って、最後に
それが福の神で、たちまち爺の家を富貴にしたというまでは、他にも類例の多い話だが、その顛末てんまつは三つの話とも、それぞれにちがっている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「たいして聞きたくもないけれど、その外套も一度は俺の物だったんだからな。一応顛末てんまつを聞いとく義務があるようだな」
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
河野は照道寿真から修真の法を授かった顛末てんまつを書いて、それに「真話しんわ」と云う題を附け、それを宮地翁のもとへ送って来た。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さらばそれに先立て、一旦滑川の旅店までのがれ出でたる下枝の、何とて再び家に帰りてほふり殺さるる次第となりけむ、その顛末てんまつを記し置くべし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今でも、思い出すたび笑わずにいられないのは、夫と、子供と、自分自身の善行に身をささげ尽くしている一人の夫人を誘惑した時の顛末てんまつです。
去年の選挙のとき、マンがお京と逢った顛末てんまつは、なにも聞いていない。金五郎の方から、聞くのもすこし気味が悪かった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この顛末てんまつは「木喰仏発見の縁起」に記してある。私は先人の研究が何もないため、この大仕事に丸三年の歳月を費した。
三月初旬多数の被害民が請願のために上京した顛末てんまつは、都下の各紙が数日にわたって報道したから、世人の視聴もいくぶんはこの問題に注がれた。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
私はひどく取り乱して警視庁へ電話で事の顛末てんまつき合せたが、内務省へ出頭したらいゝとやらで、要領を得なかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
われは部長殿と談話の顛末てんまつ及び帰国を決心したる旨同行者に語れり。いずれも一兵卒の語を聞きて憤慨せざる者なし。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あの大地震の時に私が妻を殺害せつがいした顛末てんまつは元より、これまでの私の苦しい心中も一切打ち明けなければなりますまい。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてそれをはっきりと目で見た山木が、仲間の少年たちの集っている食堂へとびこんできて、その顛末てんまつを語った。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
藤原は、ボーイ長の寝箱のそばに腰をおろして、今日きょう顛末てんまつを話した。種々とその成り行きを述べて、こういった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いさゝかの繕ふことなく有の儘に、我とアヌンチヤタとの中を語り、我が一たび絶望の境に陷りて後、今又慰藉を自然と藝術とに求むるに至れる顛末てんまつを敍して
善兵衛の説明によると、事件の顛末てんまつはこうであった。鷹匠の光井金之助が、二人の同役と連れ立って、きのうのひるすぎから目黒の方角へお鷹馴らしに出た。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
来る人ごとに同じように顛末てんまつを問われる。妻は人のたずねに答えないのも苦しく、答えるのはなおさら苦しい。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、いきなり鏡を取り出して顔を見ながら寝台の上の母にその顛末てんまつを訴えたのだった。すると吉田の母親は
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「逃げたのか、取られたのか、いなくなってしまった」と、見えなくなった顛末てんまつを語ってほっ嘆息ためいきいた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「でも、これを売りに来た女は、贋物だったんだぜ。」と私は、だまされた顛末てんまつを早速、物語って聞かせた。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
食事の間中私はフェアファックス夫人の話す火事の顛末てんまつが、殆んど耳に入らなかつた。それ程私はグレイス・プウルのなぞめいた性質について頭を惱ましてゐた。
わたくしがおくしながら、先夜の女中の箱屋がかの女にむごたらしくした顛末てんまつつい遠廻とおまわしにたずねかけると
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すでに数年前のことなるが、横浜市内にて人魂ひとだまの出ずるというについて大騒ぎをしたことがある。その顛末てんまつは、『時事新報』の記事を抜抄して掲げることにしよう。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
確か女の子であったと思う。その日、電車通りにある古本屋の飯田さんでその顛末てんまつを聞いたが、無情な感じがした。不幸なんてどこに待ち伏せしているかわからない。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
「君の方の教会員かい? 夫婦喧嘩は一々顛末てんまつを牧師さんのところへ届け出る規則なんだね?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今季こんきの会報には寄宿舎生徒松本なにがしがみずから棄てて自殺した顛末てんまつが書いてあった。深夜、ピストルの音がして人々が驚いてはせ寄ったことがくわしく記してあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
最初に降矢木家の給仕長川那部易介かわなべえきすけの死を発見した、その前後の顛末てんまつを概述しておこうと思う。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こと朝日島あさひじま紀念塔きねんたふ設立せつりつ顛末てんまつ——あの異樣ゐやうなる自動冐險車じどうぼうけんしやが、縱横無盡じうわうむじんに、深山しんざん大澤たいたくあひだ猛進まうしんしたる其時そのとき活劇くわつげき猛獸まうじう毒蛇どくじやとの大奮鬪だいふんとう武村兵曹たけむらへいそう片足かたあしあぶなかつたこと
春日は渡邊に顛末てんまつをすべて速記させ、尚手紙も詳細に調べたがそれは、預って懐中ポケットへ収めた。
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
武運つたなく戦場にたおれた顛末てんまつから、死後、虚空こくうの大霊に頸筋くびすじつかまれ無限の闇黒あんこく彼方かなたへ投げやられる次第をかなしげに語るのは、あきらかに弟デックその人と、だれもが合点がてんした。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼から聴いた顛末てんまつを通告しようかと思ったが、彼になんらの相談もしないで仲介の位地いちに立つことは、なんだか彼を裏切るような感じが強かったので、私は最後に決心して
手早く紙入れを胴巻の底へ押し込んでから、伝二郎はながながと事件の顛末てんまつを話し出した。
こう前置をして、小平太は指先で畳の上に図を描いてみせながら、はいって行った時から出てくるまでの顛末てんまつを仔細に述べはじめた。勘平はそばからすずりに料紙を取って渡した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そもそも王政維新が政治の始まりであるから、話が少し前に戻って長くなりますけれども、一通り私が少年のときからの話をして、政治に関係しない顛末てんまつあきらかにしなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)