阿諛あゆ)” の例文
ジュリアンはエマニュエルを知っており、グージャールはムーエーを知っていた。二人はにこやかな阿諛あゆ的な様子で近寄っていった。
阿諛あゆし、哀願し、心身を蹂躙じゅうりんに委せて反抗の気力も失せはて、気息また奄々えんえんたるもの、重なり重なり乗り越え、飛び越ゆるもの
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
人を見る目も出来れば人の価値も信実もわかってくる。阿諛あゆと権謀の周囲で、離れてはじめてたっとさのわかるのはまことだけだ。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
二人の医師くすしに任せて置いて、おのれはあちこちの建物へ行き、阿諛あゆともがらと一つになり、乱倫の真似するであろう、そこを狙って、そこを狙って……
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その相違を、ひと口にいうと、柳生家は柔らかにまた鷹揚おうように。小野家は、阿諛あゆをきらい、率直に烈しい稽古を特色とした。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官吏はただ民に対する誅求ちゆうきうと上に対する阿諛あゆとを事としてゐる、かゝる世の中に腕節うでふしの強い者の腕が鳴らずに居られよう
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
アルイハ主ノ蔵スル所、アルイハ客ノ携ル所、心ヲ潜メテ以テ品賞ス。相菲薄ひはくセズ。相阿諛あゆセズ。惟公論ヲ然リトナス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金眸がひげちりをはらひ、阿諛あゆたくましうして、その威を仮り、数多あまた獣類けものを害せしこと、その罪諏訪すわの湖よりも深く、また那須野なすのはらよりもおおいなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
若しこの高浜とするなら赤シヤツの気障説きざぜつ阿諛あゆして野だが『あの島をターナー島と名づけようぢやありませんか』
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
阿諛あゆ追従ついしょうてんとして恥じず、ぶたれても、きゃんといい尻尾しっぽまいて閉口してみせて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった。
母は官署とか学校や先生とかいうものに無上の権威を感じ、何か阿諛あゆの服従を以て迎えるという性質がありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
阿諛あゆするものもないだけに、自信がようやく本物になってくるということが予期しない大なる収穫でありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何者にも、たとえ偉大なる民衆にも、阿諛あゆの言をろうしてはならないから、吾人はあえて言うのである。すべてがある所には、崇高と相並んで卑賤ひせんも存する。
あの美しい夫人は、彼女を囲む阿諛あゆ追従ついしょうや甘言や、戯恋に倦き/\しているのかも知れない。実際彼女は純真な男性を、心から求めているかも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
徳川氏の兇徳、人みなき果て候よう天朝へ申上げ候者もこれ有るべく候えども、これは阿諛あゆと嫉妬とに出で候事に付き、深く御評議遊ばされずては、大事を
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「対話の精神」の最も忌み嫌ふ性癖は独善と阿諛あゆではないかと思ふ。そして、「対話の精神」の極めて重要な一面は、「よき聴き手」であるといふことである。
しかしF君が現に一銭のたくわえもなくて、私をたよって来たとすると、前に私を讃めたのが、買被りでなくて、世辞ではあるまいか、阿諛あゆではあるまいかと疑われる。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かの党派の罪悪が次第に厚顔になつてきて盲人さへそれを見分けることが出来るやうになつた時、彼等は自党に対する阿諛あゆ追従者をしきりに召集するの必要に迫られた。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
阿諛あゆ諂佞てんねいに取巻かれ、人を見下してばかりきた貫兵衛は、自分の世帯になって、世の中に正面からつかった時、初めて、自分の才能、容貌、魅力——等に対する
彼の身辺がたちまち虚構と偽善と阿諛あゆで塗り固められ、彼を中心にして家臣のあいだに対立と暗闘の始まったのを見て、彼はようやくおのれの身分と境遇をのろうようになった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人間はついに、執着し・狂い・求める対象がなくては生きて行けないのだろうか。やっぱり、自分も、世間が——喝采し、憎悪し、嫉視し、阿諛あゆする世間が、欲しいのだろうか。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
どう考えても、臆病な妥協と、利害関係のある周囲への阿諛あゆ——彼女自身の言葉で云えば、あるべからざるもろもろの曖昧さに根を置いていることを感じずにはいられなくなった。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
絶えず他の人を相手に意識している偽善者が阿諛あゆ的でないことはまれである。偽善が他の人を破滅させるのは、偽善そのものによってよりも、そのうちに含まれる阿諛によってである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
いつも何かによって救いあげられ、高められる己だけしか感じなかったのであるが、これは仏恩というものなのか、それとも仏に対する私の阿諛あゆであるのか。後者の心がなかったとはいえない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
阿諛あゆは、恐らく、かう云ふ時に、もつとも自然に生れて来るものであらう。読者は、今後、赤鼻の五位の態度に、幇間ほうかんのやうな何物かを見出しても、それだけでみだりにこの男の人格を、疑ふ可きではない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三斎は、日頃、自分の前へ出ると、いやに阿諛あゆの色を見せたり、不安の挙動を示したりするような、人間ばかり見て来ているので、闇太郎のこの冷々とした物腰に、一層、心を惹かれるらしかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人の好い主君は、阿諛あゆする旧臣下や芸人のやからに取巻かれて、いたずらに遊楽の日を送り迎えていた。またそれよりもわるいのは、いろいろの女性によって家庭の乱されたことである。禍の種はそこにあった。
それは権勢に対する阿諛あゆを強いることだ
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
成功を博した役者はすぐに、自分の芝居と、阿諛あゆ的な仕立屋たる自分の作者と、尺度に合わした自分の脚本を、もつようになるのだった。
これが家中の大多数で、潮あい次第で、時にはかん阿諛あゆし、時にはせいくみし、流れにまかせていかださおさすようにうまくその日その日を渡ってゆく。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠臣義士はことごとく遠退き、残ったは阿諛あゆの佞臣ばかり、金銭財宝もおおかた尽き、ろくに兵備とてなさそうである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
阿諛あゆ諂佞てんねいに取卷かれ、人を見下みくだしてばかり來た貫兵衞は、自分の世帶になつて、世の中に正面から打つかつた時、初めて、自分の才能、容貌ようばう魅力みりよく——等に對する
初め旧幕に阿諛あゆし、恐多おそれおほくも廃帝之説を唱へ、万古一統の天日嗣あまつひつぎあやううせんとす。かつ憂国之正士を構陥讒戮こうかんざんりくし、此頃外夷ぐわいいに内通し、耶蘇やそ教を皇国に蔓布まんぷすることを約す。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蜀山という男は、微禄ながら幕府の禄をむ身分でありながら、一代の名政治家を蚊にたとえるとは言語道断である。あの堕落、阿諛あゆ、迎合、無気力を極めた田沼の時代でさえ
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「希望館」の作者によって言われている強靭な意志というのは、何故にお経を読まされること、阿諛あゆを強いられる境遇に落ちつくことだけを内容とし現代の可能としているのであろう。
これは、決して、虚飾きょしょくや、阿諛あゆからではなくて、如何いかなる場合にも他人に一縷いちるの逃げみちを与えてくつろがせるだけの余裕を、氏の善良性が氏から分泌ぶんぴつさせる自然の滋味じみほかならないのです。
はあ、第一は忠言あらば卑賤の者たりとも採用すべきこと、第二は親疎によって賞罰を軽重せず、阿諛あゆの者を大敵とすること、第三は両後見、互いに隔心なきこと、以上でございました。
同じ阿諛あゆ迎合げいごうを事としても、杜周としゅう(最近この男は前任者王卿おうけいを陥れてまんまと御史大夫ぎょしたいふとなりおおせた)のようなやつは自らそれと知っているに違いないがこのお人好しの丞相ときた日には
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ひげはやし洋服を着てコケをおどそうという田舎紳士風の野心さえ起さなければ、よしや身に一銭のたくわえなく、友人と称する共謀者、先輩もしくは親分と称する阿諛あゆの目的物なぞ一切皆無かいむたりとも
人みなき果て候よう天朝へ申上げ候者もこれ有るべく候えども、これは阿諛あゆと嫉妬とに出で候事に付き、深く御評議遊ばされずては大事を誤るに至るべく、水戸、越前その外を察観仕り候処
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
阿諛あゆ追従ついしょう、見るにしのびざるものがあったのである。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らの阿諛あゆはハスレルに有害であって、彼をあまりに自惚うぬぼれさしていた。彼は頭に浮かぶ楽想を、少しもしらべないでことごとく取り上げた。
欺瞞ぎまんおし阿諛あゆの声、吏民りみんともに廃頽にまかせ、自壊じかいをいそぎ、滔々とうとう行くところも知らぬありさま……
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆるお世辭、——齒の浮くやうな阿諛あゆを、法外な金で買つて、貫兵衞は溜飮りういんを下げました。
酒と女と遊楽と阿諛あゆと、「ああよろしい」「ああそうせい」といわれるままに従って、自分の意思など通そうとはせず、また通すことの出来なかった生活——そういう生活の連続であった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我らに阿諛あゆなし、猥雑わいざつの世をはるかに見下して、飢と貧困の楼高く我らはうたう。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今日もし私たちが阿諛あゆ的な賞讃など得られるとしたら、それこそ! それこそ! 謂わば、もしめられたら、それこそ目玉をくりむいて、賞めた人と賞められた点とを見きわめなければならない。
阿諛あゆするに甘んじないかぎり、あれはあれでどうしようもない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
阿諛あゆ的な風習、共和党員のない共和国。巡遊の王者の前に歓喜してる、社会主義の新聞。肩書や金モールや勲章の前に平伏してる奴僕的な魂。
金、虚名、貪慾、無節操、乱倫、阿諛あゆ奸争かんそう佞策ねいさく、何でも、利にしたがって、嗅覚のあさりにはしり、ばかばかしい人間の理想などというものを、極端にまで、軽蔑けいべつし合った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)