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つか
ふりがな文庫
“
閊
(
つか
)” の例文
御無事でおめでとうという言葉は
喉
(
のど
)
に
閊
(
つか
)
えて出なかった。それだけいうのが精いっぱいで、母は式台に膝をついたまま、
咽
(
むせ
)
びあげた。
はたし状
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それと一緒に、声がピッタリと
咽喉
(
のど
)
に
閊
(
つか
)
えてしまって、名前を呼べる位ならまだしも、声を立てる事すら出来なくなっているじゃないの。
支那米の袋
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
晝間井元の家に馳つけて、無慘な死體を見て來た田原は、酒が胸に
閊
(
つか
)
へ、それをまぎらす爲めに飮むので、一層醉つてしまつた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
こんなときの正成は、悪い方の右眼のまぶたに、かろい
痙攣
(
けいれん
)
の風を示すのだった。
吃
(
どもり
)
がその感情の
閊
(
つか
)
えを、唇に見せる、あれと似ている。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そんなとき私はなにか胸の
閊
(
つか
)
えでも下りるような気がして、わけもなくこの世の中が有難味のあるものに思えてくるのである。
犬の生活
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
▼ もっと見る
松次郎が胸に
閊
(
つか
)
えたので
拳
(
こぶし
)
でたたいていると、おやあいつ、お茶を持って来なかったんだな、いいつけといたのに、と
呟
(
つぶや
)
いた。
最後の胡弓弾き
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
「あれは偶然にそうなったんだが、いま更めてそう切り出されると、ごつんと
閊
(
つか
)
えてくるね、こだわりが感じられてすらすらと出せない。」
蜜のあわれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
嵌
(
は
)
め、中には
餌
(
え
)
を入れておく。鶏は嘴が長いから柵をとおして
啄
(
ついば
)
むことが出来る。犬は柵に鼻が
閊
(
つか
)
えて食うことが出来ない。故に犬じらしという
故郷
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
○薩摩芋あるいは他の芋類を多食して胸の
閊
(
つか
)
えたる時は昆布を食すべし。あるいは昆布茶を飲むも可なり。昆布は芋類を消化せしむるの功あり。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
そして慌てたやうに画筆を
玩
(
いじ
)
りはじめた。令嬢は胸の
閊
(
つか
)
へがとれたやうな楽な気がした。そこで松の根本へ腰を下した。
傲慢な眼
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
私は非常に
美味
(
おい
)
しかつた。食物もよかつた——これまでは、熱つぽい
臭
(
くさ
)
みの爲めに飮み込んでも胸に
閊
(
つか
)
へてゐたのだけれど。それも攝れて了つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
実際岡倉氏のいう如き方法ならば、私の立場として見て、そう仕事の上に差し
閊
(
つか
)
えることもないように思われ、怪しむところもなくなって来ました。
幕末維新懐古談:65 学校へ奉職した前後のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
高倉は思いに
耽
(
ふけ
)
って歩いていた。あの吹雪の夜が明けて彼だけが生き残っていた。そのことが胸に
閊
(
つか
)
えているのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
「あ、脅かすなよ、八。朝の味噌汁が胸に
閊
(
つか
)
えるじゃないか、——どこの猫の子がいったい五つ子を産んだんだ」
銭形平次捕物控:114 遺書の罪
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
しかし、仕事が山ほど
閊
(
つか
)
えていて、考えごとなどしている暇はなかったので、わたしは晩、宿へ帰ったときに、やっとはじめて手紙を読み返して見ました。
クロイツェル・ソナタ:01 クロイツェル・ソナタ
(新字新仮名)
/
レオ・トルストイ
(著)
気がつくと、咽喉の下あたりと思われるあたりに、何か
南瓜
(
かぼちゃ
)
のようなものが
閊
(
つか
)
えるようで、気持がわるかった。
振動魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
当分家へ来ることは遠慮してもらわなければならぬと
咄嗟
(
とっさ
)
に決心していた胸の
閊
(
つか
)
えが跡形もなく消え失せて、私は電話口を抑えて
吻
(
ほっ
)
と深い溜息を
洩
(
も
)
らした。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ちょっと間をおいては三台五台と
駈
(
か
)
け出して来る車は、みるみる何十台とも知れぬ数に上り、ともすると先が
閊
(
つか
)
えるほど後から後から押し寄せて来るのであった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
立ったら頭の
閊
(
つか
)
える箱の中に数人の客をのせたのを二、三人の人間が後押しして曲折の多い山坂を登る。
箱根熱海バス紀行
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
前にはそれもあまり異とせずにすませられたものまでが、この国境にさしかかり急に心に
閊
(
つか
)
えて来たのが、ますます膨張して来そうな気配も伴って矢代は困った。
旅愁
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
そのときそう云われた事が、圭介にはその夜じゅう何か胸に
閊
(
つか
)
えているような気もちだった。彼はその夜は殆どまんじりともしないで妻のことを考え通していた。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
伸子は、喉へものを
閊
(
つか
)
えさせたような表情になって、夫の仰向いた顔を見下した。苦しき昏迷が彼女を襲った。佃は、何と変な癖、或は考えかたをするのであろう。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
貧弱な下宿屋の
鴨居
(
かもい
)
に頭が
閊
(
つか
)
える。
風采
(
ふうさい
)
は
生地
(
きじ
)
の学生時代にロマンスがあったという丈けに
眉目秀麗
(
びもくしゅうれい
)
で通る。間瀬君ほど強度ではないが、矢張り近眼鏡をかけている。
負けない男
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
閊
(
つか
)
えた言葉を茶と共に胃の腑へ戻してから、部長は柔かいハンカチで万遍なく口の囲りを撫でた。
罠を跳び越える女
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
いずれ川上の方の事だから高いには
相違
(
そうい
)
ないが、
恐
(
おそ
)
ろしい高い山々が、余り高くって天に
閊
(
つか
)
えそうだからわざと首を
縮
(
すく
)
めているというような
恰好
(
かっこう
)
をして、がん
張
(
ば
)
っている
状態
(
ありさま
)
は
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
「引っ張れ! 引っ張れ! どっかへ
閊
(
つか
)
えたのかな、あがってこんぞ。引っ張れえ!」
井戸
(新字新仮名)
/
ウイリアム・ワイマーク・ジェイコブス
(著)
餅
(
もち
)
が
閊
(
つか
)
へたか……さア
大変
(
たいへん
)
だ……泣きながら
喫
(
たべ
)
るから
閊
(
つか
)
へるのだ困つたものだ……お待ちなさい……
此子
(
このこ
)
が心配する……
私
(
わし
)
が
脊
(
せなか
)
を
叩
(
たゝ
)
いて
上
(
あ
)
げる……
宜
(
よ
)
いかい……
失礼
(
しつれい
)
だが
叩
(
たゝ
)
きますよ。
大仏餅。袴着の祝。新まへの盲目乞食
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
夫妻が
漸
(
よう
)
やっと
笑顔
(
えがお
)
を見せるようになると、またしても胸に
閊
(
つか
)
える悩みの種、川上座の落成に伴う新築披露、開場式の饗宴などに是非なくてならない一万円の費用の出どころであった。
マダム貞奴
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
勾配
(
こうばい
)
がつかぬので、屋根は
海鼠板
(
なまこいた
)
のトタンにし、
爪立
(
つまだ
)
てば頭が
閊
(
つか
)
える
天井
(
てんじょう
)
を張った。先には食堂にして居たので、此狭い
船房
(
カビン
)
の様な棺の中の様な
室
(
しつ
)
で、色々の人が余等と食を共にした。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
台所の後の、
以前
(
もと
)
は物置だつたらしい四畳半で、屋根の傾斜なりに斜めに張られた天井は黒く、隅の方は頭が
閊
(
つか
)
へて立てなかつた。其狭い室の中に机もあれば、夜具もある、行李もある。
札幌
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
申
掛
(
かけ
)
たる
成
(
なら
)
んと申されしかば
粂之進
(
くめのしん
)
グツとさし
閊
(
つか
)
へしがナニ
不義
(
ふぎ
)
など申
掛
(
かけ
)
たる
覺
(
おぼ
)
え
曾
(
かつ
)
て之なしと云に
大岡殿
(
おほをかどの
)
牛込
改代町
(
かいたいまち
)
の
者
(
もの
)
呼出せと申されしかば
發
(
はつ
)
と
答
(
こた
)
へて彼の
中間
(
ちうげん
)
七
助
(
すけ
)
を
白洲
(
しらす
)
へ
連來
(
つれきた
)
るを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
もっとも今日は謹んで、酒は一滴も口にせず、妙に胸が
閊
(
つか
)
えるのを、やっと
冷麦
(
ひやむぎ
)
を一つ平げて、往来の日足が消えた時分、まるで人目を忍ぶ落人のように、こっそり
暖簾
(
のれん
)
から外へ出ました。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
といったきり、これも、ぎっくりと
閊
(
つか
)
えて、つづく言葉もないふうであった。
我が家の楽園
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「どうかしましたか」といったが、街灯の光に照出された白蝋のような女の顔を見ると、余りの驚愕に私は言葉が
閊
(
つか
)
えてしまった。それは夕方以来、私を悩ましていた、あの美しい女である。
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
松村は喉に
閊
(
つか
)
えた様な声で云って、尚おも新聞紙をすっかり取り去った。
二銭銅貨
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
之が
閊
(
つか
)
えて戸を開け放す事が出来なんだけれど、若し十二時になれば意地の悪い凸点が悉く隠れるから戸は人の力で充分開け放す事が出来るのだ、斯う思って再び戸を見ると戸は自然に後へ返り
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
しかし、そこへ来て、やっぱり
閊
(
つか
)
えてしまうのは蝶子さん、あんたである。あんたは突出た河瀬の杭のように自分に閊える。そして結婚の淵へと身投げしようとする自分をその杭の先に
終め
(
ママ
)
止める。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
胸板の裏へ、何か物が
閊
(
つか
)
えたような気持ちになった。
酒徒漂泊
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
などといった言葉も、頭のどこかに
閊
(
つか
)
えている感じである。あたかも、わざわざ小次郎を称揚しに来たような印象を、余五郎は受けていた。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
新発見のつもりで研究を進めて行っても直ぐに鼻が
閊
(
つか
)
えるからで、今一つは、この研究に一々
独逸
(
ドイツ
)
式の例証を引いていたら
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「注文の仕事が
閊
(
つか
)
えてるんだ」と繁次は眼をそらしながら答える、「名ざしの注文なんだから、休みだからって遊んでるわけにはいかないんだよ」
落葉の隣り
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
教室の緊張がどっと破れてしまった。その騒音に包まれて杉本は、なぜかほっと胸の
閊
(
つか
)
えを吐きだすのであった。
白い壁
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
それは差し
閊
(
つか
)
えないだろうとの事であったので、とうとう競技会へ製作が持ち出されることになったのでした。
幕末維新懐古談:55 四頭の狆を製作したはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
「あ、
脅
(
おど
)
かすなよ、八。朝の味噌汁が胸に
閊
(
つか
)
へるぢやないか、——何處の猫の子が一體五つ子を産んだんだ」
銭形平次捕物控:114 遺書の罪
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
心配が胸に
閊
(
つか
)
えて食物の味が解らんような豪傑は一向ありがたくない。今の人たちにも食物に
無頓着
(
むとんちゃく
)
な事を自慢する者があるけれども僕には一向訳が分らんよ。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
銀子も淡い慾がないわけでもなかったが、それも棒が
吭
(
のど
)
へ
閊
(
つか
)
えたようで、気恥ずかしい感じだった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「あなたは、硝子窓を外から押して合わせた。きっちりとは入らなかった。どこかに
閊
(
つか
)
えているらしかった。そのままにしてあなたはクラブへ引返した。そうでしょう」
地獄の使者
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
とお母さんに
外
(
はず
)
れた
鈕
(
ボタン
)
をはめて貰った時には、乃公は喉へ団子が
閊
(
つか
)
えたような心持がして、黙ってお辞儀をした。車が余程行ってから振返って見たら、皆は未だ立っていた。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
と私も
閊
(
つか
)
えているものを下すような気持でそう言ったが、あんまり亭主の様子の滑稽なのに思わず微笑んだ。が、その真っ青な顔を見ていると、何か真剣なものが私にまでも迫ってきた。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
が、張り切った死人の手足が縁に
閊
(
つか
)
えて
嵌
(
はま
)
らなかった。秋三は堅い柴を折るように、膝頭で安次の手足の関節をへし折った。そして、棺を立てると身体はごそりと音を立てて横さまに底へ
辷
(
すべ
)
った。
南北
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
閊
漢検1級
部首:⾨
11画
“閊”を含む語句
差閊
指閊