つぶ)” の例文
「逸見流の矢は、もそっと長え。」藤吉は眼をつぶったまま、「関の六蔵一安かずやす三十三間堂射抜の矢、あれだ。いやに太短えもんなあ。」
「お母さまがいらつしやらないと、淋しいでせう? あなたは始めからずつとさうして目をつぶつたまゝでいらつしやるの?」
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
戸の隙から、一寸ちょっと覗いて見ると、やはり眼をつぶって何事をか念じているように、太い、白い眉は、何処か、普通なみの僧でないという感じを抱かせた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
と一方が横倒れになるとたんに、目をつぶって、組みついていた腕だすきも、ハッとふりほどかれて、侍の肩を越した。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曠原を盲進す 眼をつぶって進んで見たがどうも進むに困難である。だから少し眼を開いて進んで行くとますます眼が痛み出して今にも潰れるような痛さ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そしてこの一騒ぎ演じた大男も、さすがに今の死に損なった恰好かっこうを思い出したのであろう、片眼かためつぶって面白くもなさそうな顔をしながらニヤリと苦笑して見せた。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この一団の精神から、自分の魂だけを切り離す談判をするのは、さきかまどに立つべき煙を予想しながらたきぎを奪うと一般である。忍びない。人は眼をつぶってにがい物をむ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浴槽ゆぶねの一たん後腦こうなうのせて一たん爪先つまさきかけて、ふわりとうかべてつぶる。とき薄目うすめあけ天井際てんじやうぎは光線窓あかりまどる。みどりきらめくきり半分はんぶんと、蒼々さう/\無際限むさいげん大空おほぞらえる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
目をつぶってしまいました。それでも忠実な黄は私の身を案じてなかなか退さがろうとはせず、躊躇して居りましたが、私はもう相手にもならず、くるりと横を向いてしまいました。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
私は白晝でも眼さへつぶれば、梅川うめがはや、忠兵衞や、おこよや、源三郎や、ロメオや、ジュリヱツトや、パウロや、フランチェスカや、其れ等の若い人々の美しい容貌かほかたち、亂れた髮
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
一人は、腕を組んで、眼をつぶって、身動きもしなかった。二人とも、頬冠りをしていたが
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
寝床に就いてからも、夫人は独りで、「今日は温順おとなしく御留守したかい……母さんの御留守したかい……」と繰返した。眼をつぶりながら、一人づゝ子供の名を口の中で呼んで見た。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「眼をつぶって考えあてるのか。それとも眼をあけて考えるのか。」
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
目をつぶれば物の触合ふ音のする
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
冷吉はその方の目をつぶつて傷を押へて見ると、どうもない筈の左の目が眞つ暗でなんにも見えないから變であつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
或長屋の角に立って、磐を鳴らして、霙混りの泥途ぬかるみの中に立って、やはり眼をつぶって経を唱えていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
前の晩よく寝られなかった津田は、その朝看護婦の運んで来てくれたぜんにちょっと手を出したぎり、また仰向あおむけになって、昨夕ゆうべの不足を取り返すために、重たい眼をつぶっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で頭には小さなブータン製の山繭やままゆの赤い頭掛あたまかけを懸けて、少し俯向うつむき心になって眼をつぶって居られるです。その端にはこの貴婦人を警護して居る巡査のような者が三人ばかり居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
奥様は目をつぶって一口に飲干して、御顔を胡燵おこたに押宛てたと思うと、忍び音に御泣きなさるのが絞るように悲しく聞えました。唐紙に身を寄せて聞いて見れば、私も胸が込上げて来る。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうけえ。」と藤吉は眼をつぶって、「俺らあ一寝入りやらかすとしょう。こうっ、四つ打ったら起してくんな。そいから何だぞ野郎ども、好えか、その時雁首がんくび揃えて待ってろよ——。」
校長は眼をつぶり歯をくいしばったままかしられ両のこぶしひざに乗せている。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と茂十さんはその頃を思い出すようにじっと眼をつぶった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鈴代つぶった眼をひらき
さうして寢椅子を縁側に出して長まつて、久しぶりに與へられた日向をなつかしみつゝ目をつぶつた。
女の子 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
すると不思議ふしぎに、いままで、つぶっていたひらいて、るまに、めきめきとなおりはじめたのです。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もうおねむに成つたんでせう、それで其様そんなな愚図愚図言ふんでせう。」そこへお節は気が着いて自分の膝を枕にさせて居るうちに、子供は泣じやくりをきながら次第に眼をつぶりかけた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こんなからんだ縁をふつりと切るのに想像の眼をいていては出来ぬ。そこで小野さんは眼のつぶれた浅井君を頼んだ。頼んだあとは、想像を殺してしまえば済む。と覚束おぼつかないが決心だけはした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と阿母は眼をつぶって、二、三回頭を振りました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
最初は眼をつぶって、尖った唇で何か甘い物でも飲むような調子で悠然ゆったりと吸い始めたが二口、三口目から、彼の顔付かおつきは怖しく変って、口は耳許まで裂けたように薄黒い歯をむき出して
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あら、目をつぶってるものがあるものか。……さ、写りますよ。……ただ今。はいありがとう」と手に持った厚紙のふたを鑵詰へかぶせると、箱の中から板切れを出して、それをげて
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
退儀たいぎ身體からだ無理むりうごかすわりに、あたまなかすこしもうごいてれないので、また落膽がつかりして、ついにははなしの夜具やぐしたもぐんで、ひととほざけるやうに、かたつぶつて仕舞しまこともあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
口を少し開いて、睫毛まつげの長い目をつぶつてゐられる坊ちやんの寝顔を見守つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
なるたけ、はっきりと分るように……。」と翁は、いって黒板に書かれたボチを睨んで言った。で、自分は足許の椅子に腰を下して、眤と眼をつぶって、両手を広い額に当てて瞑想に耽ったのである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
退儀たいぎ身体からだを無理に動かす割に、頭の中は少しも動いてくれないので、また落胆がっかりして、ついには取り放しの夜具の下へもぐり込んで、人の世を遠ざけるように、眼を堅くつぶってしまう事もあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冷吉は蒲團の上に寢せられると直ぐから目をつぶて、ずつと、昏睡したやうに憊れた眠りに落ちた。ふいと、寢飽きたやうな不愉快な心持に目がさめると、からだ中がじつとり汗になつてゐる。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)