釣竿つりざお)” の例文
そして壁に沿った長い卓の半分は、釣竿つりざおだの、釣道具だので一杯である。残りの半分は、鉄砲と火薬類の缶とがずらりと並んでいる。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あれをかたづけたり、これをとりちらかしたりした挙句、夕方になると清二はふいと気をかえて、釣竿つりざおを持って、すぐ前の川原に出た。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
左手へ退場。そこに水浴び場がある気持。やがて、彼女が家に歩いて行くのが見える。そのあとにトリゴーリンが、釣竿つりざお手桶ておけ
富岡老人釣竿つりざお投出なげだしてぬッくと起上たちあがった。屹度きっと三人の方を白眼にらんで「大馬鹿者!」と大声に一喝いっかつした。この物凄ものすごい声が川面かわづらに鳴り響いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
旅行に釣竿つりざおをかついで出掛けるということは、それは釣の名人というよりは、旅行の名人といった方が、適切なのではなかろうかと考えて居る。
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
草履ぞうり足痕あしあとがつく程、縁の先の大地には、青白い柿の花がいっぱいにこぼれていた。一学は釣竿つりざおを納屋の横へ置いて来て
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日用品で特に見るべきものはありませんが、指導さえよろしきを得たら、随分色々なものを生み得るでありましょう。同じ川口では釣竿つりざおを作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私は青べかを二つ𣱿いりへ漕ぎ入れ、細い水路を二百メートルほどいった、川柳の茂みのところにつないで、釣竿つりざおをおろした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よしよ。今じゃあ痛くもなんともないが、打たれた時にあ痛かったよ。だって布袋竹ほていちく釣竿つりざおのよくしなやつでもってピューッと一ツやられたのだもの。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ゆえにそのくきは向こうに突きで、あたかも釣竿つりざおを差し出したようになっており、その先に花が下向いて咲いている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その橋の右のたもとにも釣竿つりざおを持った男が立っていた。それは鼻の下に靴ばけのようなひげを生やした頬骨の出た男で、黒のモスの兵児帯へこおび尻高しりだかに締めていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私はその辺の枝を折って、なんなく釣竿つりざおをこしらえる。外套がいとうにピンが一本さしてある。それを曲げて釣針にする。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
船頭は一人ひとりで、ふねは細長い東京辺では見た事もない恰好かっこうである。さっきから船中見渡みわたすが釣竿つりざおが一本も見えない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その男はなんでも麦藁帽むぎわらぼうをかぶり、風立った柳やあしを後ろに長い釣竿つりざおを手にしていた。僕は不思議にその男の顔がネルソンに近かったような気がしている。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔時むかし、直樹の父親が、釣竿つりざおを手にしては二町ばかりある家の方からやって来て、その辺の柳並木の陰で、わずかのひまを自分のものとして楽んだものであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
座敷の縁側の軒下に投網とあみがつり下げてあって、長押なげしのようなものに釣竿つりざおがたくさん掛けてある。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
父は死ぬ間際は、書斎の窓の外に掘った池へ、書斎の中から釣竿つりざおを差し出して、憂鬱ゆううつな顔をして鮒やはえを一日じゅう釣っていましたよ。関節炎で動けなくなっていました。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
くわしく説明すると、その人影のみきとも謂うべき丸太ン棒のような部分が魚心堂先生、それにクッ着いている小枝のようなところは、先生がかついでいらっしゃる釣竿つりざおである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こうして二本の鞭のようなものがえていて、釣竿つりざおのように、だらんと下っているが、昆虫の触角しょっかくと似ていて、月の世界で、われわれ同志が話をするのには、なくてはならない仕掛けだ
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、引立てるように、片手で杖を上げて、釣竿つりざおめるがごとく松のこずえをさした。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして部屋の隅々には、猟銃や、釣竿つりざおや、そのほかの猟の道具がおいてあった。
店は息子むすこゆずって、自分は家作かさくを五軒ほど持って、老妻と二人で暮らしているというのんきな身分、つりと植木が大好きで、朝早く大きな麦稈帽子むぎわらぼうしをかぶって、笭箵びくを下げて、釣竿つりざおを持って
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二本のマストは釣竿つりざおのようにたわんで、ビュウビュウ泣き出した。波は丸太棒の上でも一またぎする位の無雑作で、船の片側から他の側へ暴力団のようにあばれ込んできて、流れ出て行った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そこで、歓迎会がすむまで、おまえたち、本村の八幡さまや観音さんで遊ぶといい。お弁当べんとうは、波止場はとばででも食べなさいよ。そうだ、釣竿つりざおもってって波止場で釣りしたっておもしろいよ。どう?
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
これは両国のたもと釣竿つりざお屋の金という人がこしらえて売る凧で、龍という字が二重になっているのだが、これは喧嘩凧けんかだことして有名なもので、したがって尾などは絶対につけずに揚げるいわゆる坊主凧ぼうずだこであった。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
釣竿つりざおで捕物は始めてですね」
三の少年こども釣竿つりざおを持って、小陰から出て来て豊吉には気が付かぬらしく、こなたを見向きもしないで軍歌らしいものを小声でうたいながらむこうへ行く
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小砂利の鳴る音を聞いたからであるが、振返ってみると帯刀たてわきであった。萱笠すげがさをかぶり短袴たんこに草履ばきで、釣竿つりざお魚籠びくを持ち、餌箱えばこひもで肩に掛けていた。
釣竿つりざおみたいな物の先に、稗米ひえまい握飯むすび梅干うめぼしの入ったのを一つ、竹の皮にくるんで誰か窓から吊り下げてくれた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにお爺さんでも釣りの道具は、むずかしかろう、と二人の子供がそう思って見てました。この兄弟のうち周囲まわりには釣竿つりざお一本売る店がありませんでしたから。
二人の兄弟 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれども、その、むだなポオズにも、すぐ疲れて来る様子で、立ち上って散歩に出かける。宿から釣竿つりざおを借りて、渓流の山女やまめ釣りを試みる時もある。一匹も釣れた事は無い。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
兄が高圧的に釣竿つりざおを担がしたり、魚籃びくを提げさせたりして、釣堀へ随行を命ずるものだから、まあ目をつむってくっついて行って、気味の悪いふななどを釣っていやいや帰ってくるのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はれた岩の上に腰をおろし、韃靼だったん人のやりほどもある長くて重い釣竿つりざおをもって、日がな一日釣をして、ぶつりとも言わず、たとえ魚がいっぺんも食いつかなくても、まったく平気なのだ。
ただ細い釣竿つりざおにずっと黄色をなするのは存外ぞんがい彼にはむずかしかった。蓑亀みのがめも毛だけを緑に塗るのは中々なかなかなまやさしい仕事ではない。最後に海は代赭色である。バケツのさびに似た代赭色である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヤーコフ (テーブルの上を片づけながら)釣竿つりざおもやはり入れますんで?
私がじっと釣竿つりざおを出していると、一羽の翡翠かわせみが来てその上に止った。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私は起き直って本を閉じ、釣竿つりざおをあげて帰り支度にかかったが、ふと、その話し声にひきつけられて手を止めた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
伊奈いな半十郎の配下が、舟番所から見張っている。五本の釣竿つりざおで、わいわいと騒いでいるからすぐ見つかる。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「来たよ、おじさん……。釣竿つりざおの用意、しといてくれた?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
甲斐は釣ることを忘れたように、流木に腰をかけ、手に釣竿つりざおを持ったまま、いつまでもじっと動かなかった。
盛綱は、釣竿つりざおを上げながら振向いた。ピラッと、鮠は彼の手の中へ躍ってきた。はりから魚をはずしながら
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お宅に、釣竿つりざおがあったら貸しておくれぬか。——今なら、そこの河端に、上げしおに乗って、うんとこさと魚が来て跳ねているので、いくらでも釣れるでな、釣ったら晩のお菜を
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どのくらいってからだろう、をさますと、すぐ近くで人の話す声が聞えた。私は起き直って本を閉じ、釣竿つりざおをあげて帰り支度にかかったが、ふと、その話し声にひきつけられて手を止めた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それからまた釣竿つりざおの先へ眼を戻した。畠中は話があって来たのだ。城下から一里半ちかくもあるこんな山の中へ、用もなしにやって来るわけがない。そして、その話の内容も益村には察しがついた。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いや、ほんとですよ。釣竿つりざおをおかしなさい」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)