ほと)” の例文
旧字:
すると、道安の嫁のおきぬが、母屋の渡り縁のほとりで、何か大きな声を放った。つづいて、家族や召使たちの声がこもごも聞えた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余此蝶を見ざりしゆゑ、近隣きんりん老婦らうふわかきころ渋海川のほとりよりせし人ありしゆゑたづひしに、その老婦らうふかたりしまゝをこゝにしるせり。
脱ぐ沓の重なると読めるは女のひそかに男のほとりに寄る時ははきたる沓を脱げば、自ずから重なりて脱ぎ置かるるなりというた。
ながれのほとりに、三ぼんのぶなのっていました。ふゆあいだえだについた北風きたかぜにさらさらとらしつづけていました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
今ある文献の示す限り、人がニライを拝むには必ず海のほとりに出で、毎年のニルヤの大主おおぬしは、いつでも海を越えて渡ってくると考えられていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こちらは丘のほとりにポツンと立つた一軒家で、吹く風を遮るものも無いのに「畳が茹る」ほどの暑さです。そちらの酷しさもさぞかしと存じます。
〔婦人手紙範例文〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
なほ御四五跡をしたうて責討せめうてば、古郷ふるさとほとりは四六干戈かんくわみちみちて、四七涿鹿たくろくちまたとなりしよしを四八いひはやす。
美濃の都は岐阜ぎふであります。鵜飼うかいで有名な長良ながら川のほとりに在る町であります。この都の名にちなんだものでは、誰も岐阜提灯ぎふぢょうちんのことが想い浮ぶでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
実に水のほとりに植えたる樹のようなもので、だんだんと芽をき枝を生じてゆくものであると思います。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さてまた洞は岩畳み、鬼蔦おにづたあまたひつきたれど、ほとりにえのきの大樹あれば、そを目印めじるしに討入りたまへ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
根岸の里を物さびしい夜闇やみおかしはじめたころ、片里が住居を打立った三挺の駕籠があって、上野山下を飛ぶがごとく、切通しから湯島台へと上ってゆき、天神のほと
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼の館は金木戸川の水源のほとりに居を占めていた。山吹峠や桑崎山の斜面に高く石垣を畳み、やぐらを設けほりを巡らせ、周囲を廻われば五里十町、正に堂々たる大城である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこは鉄道馬車に乗って三時間もかかって行く隅田すみだ川のほとりで一町内すっかり芸者屋で、芸者の子になるとおいしい物が食べられて、奇麗な着物は着たいほうだい、踊りを踊ったり
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
苦悩の大地の垣根のほとりに
傾ける殿堂 (新字旧仮名) / 上里春生(著)
荒磯ありそほとり、なつ
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
水のほとりにこぼれる
水のほとりに (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
引き此処彼処見物するうち浅草観音に入りたるに思いも掛けず見世物小屋のほとりにて後より「お紺/\」と呼ぶものあり振向き見れば妾の母なり寧児も其傍にあり見違るほど成長したり「オヤ貴女は(母)お前はア私にも云わずに居無く成て夫切それきり便りが無いから何処へいったかと思ったらア東京へア、 ...
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
うまはついにはやしや、や、おかをえて、うみほとりにてしまいました。はようやくれかかって、うみのかなたはあかく、夕焼ゆうやけがしていました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
今、惣領の宗時に、その一つをたくし、召使たちの右往左往している廊を真っ直ぐに通って、わが室のほとりまで来てつと
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人はほとりにありてかれまさに死せんとする時かならずをひるをさける。狐尾をうごかさゞるを見て溺死おぼれしゝたるをり、尾をり大根をぬくがごとくして狐をる。
月と星と白い花と白い鳥と……さうして悲しみに濡れた姫と、池のほとりの静けさは、春の宵の紫に覆はれて、見定めもつかぬ程静かに更けて居りました。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
普通の感能を供えしものにしてたれか己に生を与えし国土を愛せざるものあらんや、鳥獣かつその棲家すみかを認むいわんや人においてをや、かつてユダヤの愛国者がバビロン河のほとりに坐し
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
旅金ろぎんも持たず地理も調べず、とく部落を抜けようとして、硫黄ヶ滝の絶壁の雪を、犯して登りはしたが、登り詰めたほとりに鬼王丸の住む岩石ヶ城のあることを、はたと忘れていたのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「日暮れ近くのこと、これにいる堀越殿が、長良川ながらがわほとりで、一名の怪しげな武芸者ていの男を捕えて参りましたので」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道行く旅人、野に分け入る百姓は相いましめて、決して琵琶池のほとりにちかづかないという。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
云ふまでもなく水のほとりは、まるで幻灯のやうに薄ら蒼く光つて居ります。水蓮の白い花が、……おや、随分大きな花が咲いた、と驚いて見ると、それは安らかに眠つてゐる白鳥でした。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
其所に近きほとりの友人いうじん此頃このごろの事とてさきのとし物がたりせり。
父祖代々の住居である躑躅つつじさき居館きょかんのほかに、「御新府」と称する新城を、甲州韮崎にらさきほとりに築いて、もうそこへ引き移っているという事実であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この町は荒海のほとりにある。石油がでるので斯様こんな辺鄙へんぴな処にも小さな町が出来たのだ。北の空の冴え冴えしいのは見落みおろす下には真青な海があるからのせいもある。北風の強いのも海が近いからである。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
総帥袁紹えんしょうの本営でも、旧朝廷の建章殿のほとりを本陣として、内裏だいりの灰を掻かせたり、掘りちらされた宗廟そうびょうに、早速、仮小屋にひとしい宮を建てさせたりして、日夜、戦後の始末に忙殺されていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう秋も近い日の庭垣根のほとり。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)