襯衣しゃつ)” の例文
このほかそこには、モンテ・カアロの誘因アトラクションの一の鳩射撃ピジョン・シウテングの世紀的大家、歯と襯衣しゃつの白い小亜細亜アジア生れのヴィクトル・アリ氏があった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
例のしま襯衣しゃつに、そのかすり単衣ひとえを着て、紺の小倉こくらの帯をぐるぐると巻きつけたが、じんじん端折ばしょりの空脛からずねに、草履ばきで帽はかぶらず。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腹に子ができてから、女は楽しそうに小さい襯衣しゃつやおむつを縫いはじめた。それを幾枚も畳んでは、一枚でも殖えるのを喜んだ。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして身には赤い襯衣しゃつを着て、青い腰巻の下から出た毛だらけの素足に半長はんながの古靴を穿いていたが、赤い顔に白髪髯しらがひげ茫々ぼうぼうやして酒嗅さけくさ呼吸いききながら
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
またきのう自分が学校で赤い羅紗のマークをつけて上げた兄のボールの襯衣しゃつをもう一度着て見せて貰いたかった。けれども彼女は動くことが恐ろしく不安だった。
咲いてゆく花 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
みょうに女のような優しい声を出す人だった。もっとも驚いたのはこの暑いのにフランネルの襯衣しゃつを着ている。いくらかうすい地には相違そういなくっても暑いには極ってる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さあさあ、襯衣しゃつも下帯も外して……」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と肩をゆすりて嘲笑せせらわらえる、かれは少しく背かがみながら、くれない襯衣しゃつの袖二ツ、むらさきの帯に突挿しつつ、腰を振りてのさりと去りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでもここでも襯衣しゃつ一まいの男が人の海のうえに不可思議な白日のふぁんたしあを踊っている。
あんぺら帽子を阿弥陀あみだかぶり、しま襯衣しゃつ大膚脱おおはだぬぎ、赤い団扇うちわを帯にさして、手甲てっこう甲掛こうがけ厳重に、荷をかついで続くは亭主。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この「黒襯衣しゃつを着た世紀の怪物」を、一瞬間でも邪魔することなしに、彼を、彼の大好きな首相、外相、飛行大臣、拓殖大臣等々々の七つの大臣椅子の上に、彼の讃美者に取り巻かせたまま
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
するりと槍を取直し、肩に立懸けつえつきつつ、前にかがみて、突出つきいだせる胸のくれない襯衣しゃつ花やかに、右手めてに押広げてたたいたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手甲てっこう見たような、腕へだけまる毛糸で編んだ、萌黄もえぎの手袋を嵌めて、赤い襯衣しゃつを着て、例の目を光らしていたのさ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白地にあい縦縞たてじまの、ちぢみ襯衣しゃつを着て、襟のこはぜも見えそうに、衣紋えもんゆる紺絣こんがすり、二三度水へ入ったろう、色は薄くも透いたが、糊沢山のりだくさんの折目高。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い襯衣しゃつを手首で留めた、肥った腕の、肩のあたりまで捲手まくりでで何とももって忙しそうな、そのくせ、する事は薩張さっぱりはかどらぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人は照子の答えざるを見て、伯爵夫人を婆様よばわり、これもまた異数なり。「おや、返事をしないね。耳がうといのか、この襯衣しゃつを買ってげよう。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……とし十一二三ばかり。皆真赤なランニング襯衣しゃつで、赤い運動帽子をかぶっている。彼等を率いた頭目らしいのは、独り、年配五十にも余るであろう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廉平はに似てあおすじのあるなめらかな一座の岩の上に、海に面して見すぼらしくしゃがんだ、身にただ襯衣しゃつまとえるのみ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風の、そのあわただしい中でも、対手あいてが教頭心得の先生だけ、ものとわれた心のほこりに、話を咲せたい源助が、薄汚れた襯衣しゃつぼたんをはずして、ひくひくとした胸を出す。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と声を掛け、仕切の板に手をきて、われを呼びたるは国麿なり。ぼたん三ツばかり見ゆるまで、胸を広く掻広かきひろげて、袖をもひじまでまくし上げたる、燃立つごときくれない襯衣しゃつ着たり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また一片ひとひら、……ここへかすりの羽織、しまの着物、膨らんだ襯衣しゃつかたのごとく、中折なかおれ阿弥陀あみだかぶって、靴を穿いた、肩に画板をかけたのは、いうまでもない、到る処、足のとどまる処
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テエブルの上へ、煙管きせるを持ったまま長く露出むきだした火鉢へかざした、鼠色の襯衣しゃつの腕を、先生ぶるぶると震わすと、歯をくいしばって、引立ひったてるようにぐいともたげて、床板へ火鉢をどさり。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴下様あなたさま、もうこれ布子から単衣ひとえものと飛びまする処を、今日こんにちあたりはどういたして、また襯衣しゃつ股引ももひきなどを貴下様、下女の宿下り見まするように、古葛籠ふるつづら引覆ひっくりかえしますような事でござりまして
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桂木は伸びて手首をおおはんとする、襯衣しゃつそでき上げたが、手も白く、たたかいいどむやうではないおとなしやかなものであつた、けれども、世に力あるは、かえつてかかる少年の意を決した時であらう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時節もので、めりやすの襯衣しゃつ、めちゃめちゃの大安売、ふらんねる切地きれじの見切物、浜から輸出品の羽二重はぶたえ手巾ハンケチ棄直段すてねだんというのもあり、外套がいとう、まんと、古洋服、どれも一式の店さえ八九ヶ所。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのかかり船に、長崎辺の伯父が一人乗込んでいると云うて、お小遣こづかいの無心に来て、泊込んでおりました、二見から鳥羽がよいの馬車に、馭者ぎょしゃをします、寒中、襯衣しゃつ一枚に袴服ずぼん穿いた若い人が
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ホワイト襯衣しゃつに、しまあらゆるやか筒服ずぼん、上靴を穿いたが、ビイルをあおったらしい。充血した顔の、額に顱割はちわれのある、ひげの薄い人物で、ギラリと輝く黄金縁きんぶちの目金越に、看護婦等をめ着けながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売溜うりだめ金子かねはいくらあろうと鐚一銭びたいちもんでも手出てだしをしめえぜ。金子で買ってしのぐような優長な次第わけではないから、かつえてるものは何でも食いな。寒い手合は、そこらにあるきれでも襯衣しゃつでも構わず貰え。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ雪のしずくない足袋は、ぬれ草鞋わらじのように脱いだから、素足の冷たさ。実は、フランネルの手首までの襯衣しゃつは着て出たが、洗濯をしないから、仇汚あだよごれて、且つその……言い憎いけれど、少し臭う。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)