かか)” の例文
ちょうど通りかかった相乗俥あいのりぐるまがありましたからそれに乗って幌をすっかり下して、その中から二階のボーイさんを呼び出してもらって
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「旦那、御心配なせえますな。𤢖なんて云うものは、意気地のねえ奴ですから、もうかかって来る気配きづかいありませんよ。はははは。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ざまあ見やがれ。意気地なしめ。……さ先生、行きましょう。どう見たって、一匹でも、かかって来られるつらはないじゃアございませんか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機関手は直に機関車をめたるに飛込み遅れたる同行の青年はくと見るや直に同校の土堤にかかざま短刀にて咽喉部を突きて打倒れたり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ビアトレスは軽く会釈をして、手をかけた把手ハンドルを廻しながら、扉を開けた瞬間、背後うしろに立っていた給仕が突然いきなり躍りかかった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
人に見せまじき場面を太子に目撃せられて血迷った駐在官は、逆上して、相手の見境もなく悪鬼のように躍りかかってきた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いうが早いか、猛然と、さ、どう気が狂ったのか、分りませんが、踊りかかって、白いくびを抱きました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こっちにも落度おちどがあるとはいうものの竜之助の仕打しうちがあまりに面憎つらにくく思えるから、血気の連中の立ちかかるのをあえて止めなかったから、勢込んでバラバラと竜之助に飛びかかる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もっと好きそうなものが身近かに目つかるかすると、抑えがたい慾望のほのおがさらに彼女を駆り立て、別の異性へと飛びかかって行くのであったが、一つ一つの現実についてみれば
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いっそ飛びかかって白い喉笛のどぶえを食い切ってやろうかとまで、劇しい忿怒ふんぬにかられていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ちようあたりてひるむその時、貫一は蹶起はねおきて三歩ばかりものがれしを打転うちこけし檳榔子のをどかかりて、拝打をがみうちおろせる杖は小鬢こびんかすり、肩をすべりて、かばん持つ手をちぎれんとすばかりにちけるを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「小説家を提調にしてどうする」と厲声れいせい川島に喰ってかかると、「くも一度会って見るサ」といわれて川島の仲介で二葉亭と会見し、鼎座ていざして相語って忽ち器識の凡ならざるに嘆服し
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
健気者けなげものが、まだ少しは、いるらしいな。——ござるならはやくござれよ。三人四人、束となってかかっても苦しゅうないが」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もすそを乱して一旦は倒れたが又たちまね起きて、脱兎だっとの如くに表へ逃げ出そうとするのを、𤢖は飛びかかって又引据ひきすえた。お葉もう見てはられぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
突然ウーッ! と、地響きのするような猛烈なうなり声を立てて、小牛ほどもある真っ黒な猛犬に、襲いかかられました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
箒売は土間の真中に突立ったまま唖然となって、上機嫌の二人を眺めておった……が、やがてガラリと血相を変えると、知らん顔をして指をめている仁三郎に喰ってかかった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
腕は鳴り刀はさやを走ろうとするのを抑えて、土方を先に十余人が乗物のあとをついて、五軒町、末広町と過ぎて広小路へかかろうとするが、土方はまだ斬れともかかれとも言いません。
殺す気でかかれ。こっちは覚悟だ、さあ。ときに女房おかみさん、袖摺そですり合うのも他生たしょうの縁ッさ。旅空掛けてこうしたお世話を受けるのもさきの世の何かだろう、何んだか、おなごりがおしいんです。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急にその美しいものに飛びかかって見詰めなければならないか、しかもそのめに一時に断たれた視線が、その美しいものに追いすがるまでの瞬間に仮令たとえ一時的にも何故に麻痺するかということを
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
丁度二葉亭は居合わしたので不法をなじってかれこれ押問答をすると、無法にも二、三人の巡査が一度に二葉亭におどかかって戸外へ突飛ばし、四の五のいわさず拘引して留置かんへ投げ込んでしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と、アランはうめきつつウェンデルが起き上ってきたと見ると、たちまちまた身構えてウェンデルへ躍りかかった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこで先に取り落した自身の槍を拾うと、さらに、踏み上がって、敵へ突いてかかった——というのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これみこまれたのがの冬子で、彼等は吉岡家へ忍び寄って窺ううちに、便所へかよった冬子は手を洗うべく雨戸を明けたので、彼等は矢庭やにわに飛びかかって彼女かれを捉えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……いきおいはさりながら、ものすごいくらい庭の雨戸を圧して、ばさばさ鉢前の南天まで押寄せた敵に対して、驚破すわや、かかれと、木戸を開いて切ってづべき矢種はないので、逸雄はやりおの面々歯噛はがみをしながら
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木剣を拾って、机竜之助の天蓋の上から、脳骨微塵のうこつみじんと打ちかかる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今夕七時、マフチャズを檻へ入れた途端、アランが私に躍りかかって来たがまだ錠を降ろしてなかったのでマフチャズがいきなり躍り出てアランに一撃をくれた。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
すると、薙刀なぎなたを持って、壁へ貼りついていた若者は、突然、逆上したように、それをりまわしてかかってきた。然し、その刃風のもろさに、安兵衛は苦笑を催した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偸児どろぼう!」と呼びけて白糸に飛びかかりつ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その片岡へ、無言のまま、ひゅっと長刀のぎを伸ばして、源五が、あッとかかり足をすくめたわずかな隙に、一学は、縁を躍って、ふたたび広庭の雪の中へ出ていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女主人の制止に、仕方がないとあきらめたように、犬はウウッーと喉音こうおんを立てながら、後退あとずさりして行きました。が、驚破すわといえばまだ躍りかからんばかりの、すさまじい形相です。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、藤三は、はやぶさかかるような眼をして見廻したが、宗清が指した場所には、もう何も見えなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも鎖を解かれて低い唸りを立てて今にも飛びかからんばかりの悲哀トリステサは、飛び込んで来たのが私とわかった瞬間、たちまち尻尾を股に挟んで哀しげなき声を挙げながら
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
猛鷲もうしゅうかかるように、宗厳はいきなり跳びついた。理念をふみ超えた一瞬の捨身である。床板が踏み抜けるように鳴った。ふたつの体のうごきが一うず旋風せんぷうとも見えたせつな
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬自身の方から能動的に挑みかかるような本能が付与せられているということなのです。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
子供の小腕だし、刀も小さいが、あなどがたいのは、その血相である。なにか、り移っているようにかかって来る向う見ずな切先には、兵庫も、一歩退かなければならなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっとのことでおどかかって蒲団蒸しにして三人の火を揉み消したところと見えた。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「——上月城の後詰にかかっていることは、取りも直さず、敵の第二戦線の計に乗ぜられるものである。即刻、後退して、信忠様の軍勢とひとつになり、三木の城へかかられよ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この女は!」と叫ぶといきなり私は拳銃ピストルを投げ棄てて妻の身体におどかかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、われがちに、謙信のすがたを臨んで、おどりかかる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、次に、突いてかかろうとしている血相へ振向いて
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(負けるものか、みんなかかっても——)
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いよいよ敵へおかかりになりますか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄壁の士気を潰乱かいらんしにかかって来る。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)