にかわ)” の例文
昔はよくひびの入ったレコードをにかわかすがいでつけて使ったものだが、針がかちかち打っつかるたびにひどくサウンドボックスを傷める。
出血の長く止まらない時にはゼラチン即ち西洋にかわを湯で溶かして飲むと止血しけつの功がありますけれども西洋膠なぞは滅多にありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「おっと! 待った! おことば中ながら、あの縫着ぬいつけはけものじゃアげえせん、黒馬の尻尾をにかわで貼りつけた別誂えの小道具なんで」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
カンバスなどは使わず、黄色いボール紙に自分でにかわを引いてそれにビチューメンで下図の明暗を塗り分けてかかるというやり方であった。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
是よりいたして雨の降るも風の夜も、首尾を合図におわかの計らい、通える数も積りつゝ、今はたがいに棄てかねて、其のなかうるしにかわの如くなり。
という四本のくじれが出ても差支無しという涼しい料簡で、それで木村父子と氏郷とを鎖で縛ってにかわけたようにしたのかも知れない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は鋸屑おがくずにかわで練っていたのだ。万豊の桐畑から仕入れた材料は、ズイドウ虫や瘤穴こぶあなあとおびただしくて、下彫の穴埋あなうめによほどの手間がかかった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
にかわづけが少しでも変だったり——接目が少しでも普通以上に開いていたり——すれば、それだけで十分に見破られたでしょう
強烈な熱帯の直射のためにすでに血色素ヘモグロビンが変化して、にかわのように凝結して清水で洗ってみてもグリセリンで溶いてもいかんとも溶解が利かず
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ばりっと、にかわぐような音がした。犬の顔は、もう少しで二つになるところでぶらついていた。それを、ぶーんと扉口とぐちから外へ投げやって
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝兵衛、梯子でのぼって行って象の左の脇腹からすこし上った辺を逆目鋸できはじめたが、骨組さえ挽切れば、後は胡粉とにかわで固めた日本紙。
さいえば天下の神人はすべて紙は穢れたる事に使うまじきや。また、津島の神主氷室氏、えがくににかわの入りたる墨を使わず、筆の毛は忌まざるにや
真珠貝で象眼をした書物卓デスクは、もうところどころ象眼がとれて、その跡ににかわのこびりついた溝が黄いろっぽく残っており
ジュピターが人間の少年イカルスの剛胆さに腹をたてて、イカルスの背中に翼をくっつけていたにかわのようなものを太陽の熱気でとかしてしまった。
たすけ下ろすに、髪を解けば、ねばねばとしてにかわらしきが着きたりという。もっともその女昏迷こんめいして前後を知らずとあり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卵膠らんこう』と云って子供だまし、卵とにかわで製したものさ、上から撫でるから取れないのさ。捕り物道具のその中では、秘伝にも行かないつまらない物だよ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
併し、にかわか何かで、以前のように接合せられないことはなかった。私は直ぐその首と胴とを階下の仕事場へ運んだ。
 夏時かじ白木の弓に弦を張ればにかわげるとて秋冷の候を待ちてするなり。故に秋風やと置けり。されどもそればかりにては理屈の句にて些の趣味なし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
味には、ひどく癖があって、一寸ちょっとこうにかわみたいなにおいがする—かく、薬臭いんだ。だから、いまのコーラとは、殆んど別な飲みものだと言っていい。
清涼飲料 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
これはにかわが丈夫でないので除れたのであったが、僕は知らんぷりして多くの木製の牛の中にそれを交ぜてしまった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
近くのかざり屋の主人はそう言って、「これを何かのかざりにすると儲かるのだ。このまま、これをにかわで煮込むのだ。」
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
泥地は胡粉ごふんにかわで下地を仕上げ、漆で塗ったまま仕上げ、研がないのです。泥地でも上物じょうものは中塗りをします。
戦争の後ですから惨忍な殺伐なものが流行り、人に喜ばれたので、芳年よしとしの絵にうるしにかわで血の色を出して、見るからネバネバしているような血だらけのがある。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
雪はほとんど小降りになったが、よく見ると鉛を張ったような都の曇り空とにかわを流したような堀河の間をつめき取った程の雲母きららの片れが絶えず漂っている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
明智が駈け寄って、源造の顔から彼の両手を離そうとしたが、彼の手はにかわづけになった様に、離れなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今の角館かくのだての仕事は、皮ににかわを塗り、これをこてで貼る手法である。そうしてこれが胴乱どうらんの如く木型を用いる場合と、箱類の如く木地を用いる場合と二種に分れる。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それから又或るものは乾いた葉で袋をつくるし、他のものはまた土や腐つた木や、砂の粒で、うつろの球をつくつてその外側をにかわづけにして固める事を知つてゐる。
僕はにかわ臭いココアを飲みながら、人げのないカッフェの中を見まわした。ほこりじみたカッフェの壁には「親子丼おやこどんぶり」だの「カツレツ」だのと云う紙札が何枚もってあった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひのきの板を削って、すげる深さだけそこを削って嵌込はめこにかわでつけて、小刀の柄がピッタリついて取れないようにすげ、それを上手うまく削って父なら父流の柄の形にこしらえ
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
彼のすべての感情が、その瞬間動作を止めて心のうちで化石してしまったように思えた。彼のその時まで、のんびりとしていた心持が、にかわのように、急に硬着してしまった。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ナイヤガラにいる間は最早もう一秒時も乃公の傍を離れられない、此では苦労を求めに旅行をしたようなものだとお母さんが愚痴をこぼした。お母さんはにかわのように乃公に粘着くっついている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
阿古屋の髪の毛を一本一本に黒繻子くろじゅすをほごして植えてあるばかりでなく、眼のたまにはお母様の工夫でにかわを塗って光るようにし、緋縮緬ひぢりめんの着物に、白と絞りの牡丹を少しばかり浮かし
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それをにかわにしてしまうことで、そうすればそれはよくくっついて長もちがする。
すでに久しくにかわの利かなくなったような二人の間も、わずかに文学というものによって、つまり彼女の作家的野心というようなものによってつながれているにすぎず、それさえ思い切れば
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
新しいことは真の生活のすがたである。既に生活が不断に移って行く以上、私たちの倫理観もまた不断に移らねばならない。永久の真理というものを求めることの愚は琴柱ことじにかわするにひとしい。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
すこぶる見事な出来だったので楢屋の主人もおおいに喜んで、早速この画を胴裏として羽織を仕立てて着ると、故意乎、偶然乎、にかわかなかったと見えて、絵具がベッタリ着物に附いてしまった。
おおかたにかわでもていたんだろう。そいつをおめえが間違まちがって。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しばらく睡ると、額や鼻先から玉のような汗が一粒々々にじみ出たので、彼女はこわごわさわってみると、にかわのような水が指先に粘りつき、あわてて小さな胸元でなでおろしたが何の響もない。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
杓子しゃくし定規、琴柱ことじにかわするの類は、手腕ある法律家の事ではない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
容易に渾然融和する事、うるしにかわに投ずるが如くに為り得ぬ。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そんなにして据わっていて、にかわぎ合せて
... その杏のつゆを裏漉しにしてゼラチンで寄せたのです」大原「ゼラチンとは西洋にかわですね、先日僕もお登和さんから聞きました」妻君
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この朝、死刑囚二人は、かたのごとく、白い死衣を着し、油でないにかわの水で、ンがり髪にわせられ、赤い造花が、髪の根元に一本された。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
善は急げで立ちかかると、愛吉、前へ立って、にかわが放れたようだったが、どどどど、どんというと四五段すべり落ちた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金泥きんでいを置き墨のうえににかわを塗って光沢を出したものを漆絵うるしえと呼び、べに絵とともに愛玩されたが、明和二年にいたって、江戸の版木師はんぎし金六という者
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
木枠籠胴きわくかごどうに上質の日本紙を幾枚も水で貼り、その上へにかわでへちまをつけて形を整え、それを胡粉ごふん仕上げにしたもの。
「あのお楽ときた日には大変さ。ただもうネットリして、にかわでねって、鳥黐とりもちでこねて、味噌で味を付けたようだよ」
おそらくにかわのようなものや脂酸のようなもので COOH 根を有するものが最も有効であろうと考えられる。
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
特に朱塗は評判を高めました。面白いことに地塗に泥土と豚の血とを交ぜて用います。血は凝結してにかわのような役を勤めます。一種の秘伝ともいいましょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
色どりは繊美であやもこいけれども、全く生気を欠いていてどこかにかわの匂いのする泥でつくられたその大人形は、カーメネヷ夫人の全存在と余りかけはなれていた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)