背嚢はいのう)” の例文
電光がすばやく射し込んで、ゆかにおろされてかにのかたちになっている自分の背嚢はいのうをくっきりらしまっ黒なかげさえ おとして行きました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こう注意ちゅういしてやると、後方こうほうから、前線ぜんせんおくられたばかりの、わか兵士へいし一人ひとりが、目前もくぜんで、背嚢はいのうをおろして、そのうちあらためていました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小さい連中は快活に駈け出して、氷のまじった汁を四方にはねかしながら、学校道具を海豹あざらし皮の背嚢はいのうの中でがらがらいわせながらゆく。
やがて、その煙もしずまると、朝から背嚢はいのうの中でコチコチに固まった握飯の食事が始まる。それが終ると、一度外へ出て人員点呼。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
背嚢はいのうのような箱から管が二本出て口と鼻とに連絡し、巧みに弁の作用で、一方から新しい空気を送り、他方に呼気いきを出すようになっている。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
背嚢はいのうを背負って汗びっしょりの兵隊の列が、ほかの埠頭ふとうから軍用船に乗り込んでいて、何やら不気味なあわただしさがあった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
中にはただ少しのつまらぬ物がはいっていた、青い麻の仕事着と、古いズボンと、古い背嚢はいのうと、両端に鉄のはめてある大きな刺々とげとげの棒とが。
大連だいれんでみんなが背嚢はいのうを調べられましたときも、銀のかんざしが出たり、女の着物が出たりして恥を掻く中で、わたくしだけは大息張おおいばりでござりました。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでかれらはろくろく食べもしないうちにパンが背嚢はいのうおさめられるのを見ると、前足を主人のほうに向けて、そのひざがしらを引っかいた。
汽車が来ると、帰る者たちは、珍らしい土産ものをつめこんだ背嚢はいのうを手にさげて、われさきに列車の中へ割込んで行った。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
窓から望むと、冬枯のプラタアヌの並木の下あたりは寄せ集めた銃や肩から卸した背嚢はいのうで埋められた。騎馬から下りて休息する将校等も見えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは、背嚢はいのうの中にあるガソリンタンクからガソリンを供給され、その戦車型の靴を動かすのであったが、最大時速は八十キロと称せられていた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
キシニョーフへ出て来て背嚢はいのうやら何やらを背負せおわされて、数千の戦友とともに出征したが、その中でおれのように志願で行くものは四五人とあるかなし
銃と背嚢はいのうとを二人から受け取ったが、それを背負うとあぶなく倒れそうになった。眼がぐらぐらする。胸がむかつく。脚がけだるい。頭脳ははげしく旋回する。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
徽章きしょうの着いた制帽と、半洋袴はんズボンと、背中にしょった背嚢はいのうとが、その子の来た方角を彼に語るには充分であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
背嚢はいのう、弾薬帯、短剣、小銃、黄色い鉄帽、その他鷲尾が知らぬようなものを背嚢わきにくくりつけていて、近頃の歩兵は歩くだけでも大変だと思われるほどだった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
それは背中に長さ四フィート半の木の枠をくくりつけ、この架掛しょいこに我々の輜重しちょう行李をつけるのである。背中に厚い筵をあてがい、それの上にこの粗末な背嚢はいのう、即ち枠を倚り掛らせる。
城砦じょうさいの模型、軍船の模型、洋刀の模型、背嚢はいのうの模型、馬具の模型、測量器、靴や軍帽や喇叭ラッパや軍鼓や、洋式軍服や携帯テントや望遠鏡というようなものが、整然として置かれてあり
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
背に小さな背嚢はいのうを負った者や、革の鞄を肩にかけている者、短い上着を着、小さい外套を着ている者などがおり、またなかには、よく親に甘やかされた金持の子供がことに好んで誇りとする
従軍記者の携帯品は、ピストルのほかに雨具、雑嚢ざつのうまたは背嚢はいのう飯盒はんごう、水筒、望遠鏡で、通信用具は雑嚢か背嚢に入れるだけですから、たくさんに用意して行くことが出来ないので困りました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あとから、背嚢はいのう荷銃にないづつしたのを、一隊十七人まで数えました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まへかげ人間にんげんかたちうしなひ、おまへ姿すがれ背嚢はいのうかく
じっとこうして背嚢はいのうにもたれて
行軍二 (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
老人ろうじん食料しょくりょうなしに旅をするような不注意ふちゅういな人ではなかった。かれは背中せなかにしょっていた背嚢はいのうから一かたまりのパンを出して、四きれにちぎった。
そうした冬枯の景色の間を、背嚢はいのうの革や銃の油の匂、又は煙硝えんしょうの匂などを嗅ぎながら、私達は一日中駈けずり廻った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わたくしが写真器と背嚢はいのうをたくさんもってセンダードの停車場に下りたのは、ちょうど灯がやっとついた所でした。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢はいのうのようなものを背おっているでしょう。それが人工心臓なのよ」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ新しい背嚢はいのうを負い、手にはふしのあるごく大きなつえを持ち、足には靴足袋くつたびもはかずに鉄鋲てつびょうを打った短靴を穿うがち、頭は短く刈り込み、ひげを長くはやしている。
倒れた兵士は、雪におおわれ、暫らくするうちに、背嚢はいのうも、靴も、軍帽も、すべて雪の下にかくれて、彼等が横たわっている痕跡こんせきは、すっかり分らなくなってしまった。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
銃が重い、背嚢はいのうが重い、あしが重い、アルミニウム製の金椀かなわんが腰の剣に当たってカタカタと鳴る。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのとき、老兵士ろうへいしは、ふくらんだ背嚢はいのうをみつめて、まごまごしているわか兵士へいしかって
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
背嚢はいのうの中では弁当箱だか教科書だかが互にぶつかり合う音がごとりごとりと聞こえた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とがった三角がたの軍帽をかぶり、背嚢はいのう襷掛たすきがけに負い、筒袖つつそでを身につけ、脚絆草鞋きゃはんわらじばきで、左の肩の上のにしき小片こぎれに官軍のしるしを見せたところは、実地を踏んで来た人の身軽ないでたちである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
背嚢はいのうへ毛布を付けている。
高知がえり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こう言ってわたしは背嚢はいのうから人形を出して、リーズのおとなりのいすにのせた。そのときのかの女の目つきをわたしはけっしてわすれることはできない。
老人ろうじんはだまってしげしげと二人のつかれたなりを見た。二人ともおおきな背嚢はいのうをしょって地図を首からかけて鉄槌かなづちっている。そしてまだまるでの子供こどもだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢はいのうのようなものを背おっているでしょう。それが人工心臓なのよ」
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝所の片すみに投げすてて置いた背嚢はいのうさわってみ、それから両あしを寝台からぶら下げて足先をゆかにつけ、ほとんどみずから知らないまにそこに腰掛けてしまった。
背嚢はいのう背負しょって、尨犬むくいぬの皮でこしらえたといわれる例の靴を穿いたまま、「きっとくれる?」と云いながら、ほとんど平たい幅をもっていない、つるつるすべりそうな材木を渡り始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、二人にいて歩いた。二人は気の毒がって、銃と背嚢はいのうとを持ってくれた。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
老人ろうじんはジョリクールをかたの上に乗せたり、背嚢はいのうの中に入れたりして、しじゅう規則きそく正しく、大またに歩いていた。三びきの犬はあとからくっついて来た。
富沢とみざわは地図のその点にだいだいって番号ばんごうを書きながら読んだ。斉田はそれを包みの上に書きつけて背嚢はいのうに入れた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
叫喚の声、絶望の声、麦畑の中に投げ込まれた背嚢はいのうと銃、わずかに剣によって切り開かれる通路、もはや戦友もなく将校もなく将軍もなく、ただ名状すべからざる恐怖のみだった。
そこで私は持って行ったパンのふくろ背嚢はいのうから出して、すぐべようとしましたが、急に水がほしくなりました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしたちはおたがいに尊敬そんけいし合った。わたしは背嚢はいのうのふたをめると、マチアが代わってそれをかたにのせた。
私はそこで、長靴をぬいで、スリッパをはき、背嚢はいのうをおろして手にもちました。その間に先生は校長室へ入って行きましたが、間もなく校長と二人で出て来ました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それからくつ下にむすぶ赤リボン、最後さいごにもう一つの背嚢はいのうであった。代わりばんこに重い背嚢をしょうよりも、てんでんが軽い背嚢をしじゅうしょっているほうが楽であった。
望みのとおりみんな背嚢はいのうの中に納めてやりたいことはもちろんだったが、それでは僕も身動きもできなくなるのだから気の毒だったがその中からごくいいやつだけえらんださ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこで、私たちは、にわかに元気がついて、まるで一息にその峠をかけ下りました。トルコ人たちはあしが長いし、背嚢はいのうを背負って、まるで磁石じしゃくに引かれた砂鉄とい〔以下原稿数枚なし〕
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私は仕方なく背嚢はいのうからそれを出しました。校長は手にとってしばらく見てから
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)