こう)” の例文
ふすましずかに開いて現われたのが梅子である。紳士の顔も梅子の顔も一時いちじにさっとこうをさした。梅子はわずかに会釈して内に入った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
けつしておろかなる船長せんちやうふがごとき、怨靈おんれうとかうみ怪物ばけものとかいふやう得可うべからざるものひかりではなく、りよくこう兩燈りようとうたしかふね舷燈げんとう
ほか、歴戦の猛者もさが、幾十隊の部将となってくりだしたが、中にはこう一点の女頭領おんなとうりょう、一丈青の扈三娘こさんじょうも、こんどは一軍をひきいて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤松の間に二三段のこうを綴った紅葉こうようむかしの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁はなびらをこぼした紅白こうはく山茶花さざんかも残りなく落ち尽した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「日本語なんか僕知らないや、百がサルでにちがスベで、こうがリだろ。英語では百日ってハンドレッド・デイっていうよ」
人造人間 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
小獅子はみちへ橋にった、のけざまあぎとふっくりと、ふたかわこうちょうして、口許くちもと可愛かわいらしい、色の白いであった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
食堂は二十間に八間の長方形にて周囲は紅葉流もみじながしの幔幕まんまくを張詰め、天井には牡丹形のこうおう白色はくしょく常盤ときわの緑を点綴てんてつす。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つまり茶話ちやわ会などの時に歌ふのもあつていいですね。何とかつた。佐竹義敦さたけよしあつ小田野直武をだのなほたけは日本洋画のこう二点、といつた調子ですね。デカンシヨ式でも好し。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
文一郎が答はいまだなかばならざるに、女は満臉まんけんこうちょうして、偏盲へんもうのために義眼を装っていることを告げた。そして涙を流しつつ、旧盟を破らずにいてくれと頼んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と見れば常さえつややかな緑の黒髪は、水気すいきを含んで天鵞絨びろうどをも欺むくばかり、玉と透徹るはだえは塩引の色を帯びて、眼元にはホンノリとこうちょうした塩梅あんばい、何処やらが悪戯いたずららしく見えるが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
月光に照らされこう斑々! 心配はない、返り血だ! 中段に構えて動かない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後ろから追ひすがつたのは、泣き顏が痛々しく匂ふおこうでした。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
さればその頃初めて十九になったとやらいう小半の姿はまさ万緑叢中ばんりょくそうちゅうこう一点あまり引立ち過ぎて何となく気の毒にも見えまた問わずしてこの女がヨウさんの御世話になっているものと推量されるのであった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こなた勇武のアイアースこう燦爛の帶贈る。 305
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
白牡丹はくぼたんといふといへどもこうほのか
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
よべ見し夢の——夢の中なる響の名残か」と女の顔にはたちまこう落ちて、冠の星はきらきらと震う。男も何事か心さわぐ様にて、ゆうべ見しという夢を、女に物語らする。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
てんいまだくらし。東方とうはう臥龍山ぐわりうざんいたゞきすこしくしらみて、旭日きよくじつ一帶いつたいこうてうせり。昧爽まいさうきよく、しんみて、街衢がいく縱横じうわう地平線ちへいせんみな眼眸がんぼううちにあり。しかして國主こくしゆ掌中しやうちうたみ十萬じふまんいまはたなにをなしつゝあるか。
鉄槌の音 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「おこうと言つて、評判の良い娘がありますよ、十九ださうで」
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ただ詩人と画客がかくなるものあって、くまでこの待対たいたい世界の精華をんで、徹骨徹髄てっこつてつずいの清きを知る。かすみさんし、露をみ、ひんし、こうひょうして、死に至って悔いぬ。彼らの楽は物にちゃくするのではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人事ひとごとながら、主税は白面にこうを潮して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)