目的あて)” の例文
兄さんは目的あてもなくまたとめどもなくそこいらを歩いたあげく、しまいに疲れたなりで疲れた場所に蹲踞んでしまったのだそうです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは起きるが早いか、丁字風呂ちょうじぶろを出て、今日はハッキリとした目的あてのあるものの如く、音羽を経て、目白の台へスタスタと上ってゆく。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで今井の叔父さんの持ち場も鹿の逃げ路に当たっているので、鹿の来るのを待っているのも決して目的あてのないのではない。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何時いつしか暗い陰影かげ頭腦あたまはびこつて來る。私は、うして何處へといふ確かな目的あてもなく、外套を引被ひつかけて外へ飛び出して了ふ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
けれどもそうして書箱に、そんな種々いろんな書籍があって、それを時々出して見ていれば、其処に生きがいもあれば、また目的あてもあるように思えた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
虎杖いたどりの花の白く咲いた、荷車の砂塵のはげしい多摩川道を静かにどこという目的あてもなく物思いながらたどるのである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
狡辛こすからく世を送つてゐるものだから、嵌め込む目的あてが無い時は質に入れたり、色気の見える客が出た時は急に質受けしたり、十余年の間といふものは
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
誠に我れは此處をはなれてはいづくへ行かん目的あてもなく、道にて病まば誰れかは助けん其まゝの行仆れと、我身の弱きに心さへ折れて、恥かしけれど直次郎
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
頽然ぐたりとなると、足の運びも自然とおそくなり、そろりそろりと草履を引摺ひきずりながら、目的あてもなく小迷さまよって行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
現にぎっしり詰った鬱金うこん木綿の財布の紐を首から下げて死んでいるのでも目的あて鳥目ちょうもくでないことは知れる。
ところが、十五歩ばかり離れた並木通のはずれに、一人の紳士が立ち止まって、いかにも何か目的あてがあるらしく、しきりに娘の方へ近づこうとしている様子だった。
見渡みわたかぎ雲煙うんゑん渺茫べうぼうたる大空おほぞら漂蕩へうたうして、西にしも、ひがしさだめなきいま何時いつ大陸たいりくたつして、何時いつ橄欖島かんらんたうおもむべしといふ目的あてもなければ、其内そのうち豫定よていの廿五にち
誰に見せて喜んで貰おうという目的あても必要もないこの土地で、なにもそんな時間を掛けて流行の髪に結うことはないじゃないか。雑誌までが、彼には嘘に見えてくる。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
三「有るにア有るけれども、昔と違って突然だしぬけ目的あてが外れたりして極りが無いから困りますのさ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そんなものを買おうというのだ? いったい何の目的あてがあって、どこへおっつけるために
「今夜は何処って目的あてもない。唯誘い出してやれば停留場で別れても宜いんだ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それで、急にまた出京でてくるという目的あてもないから、お前さんにも無理な相談をしたようなわけなんだ。先日来こないだからのようにお前さんが泣いてばかりいちゃア、談話はなしは出来ないし、実に困りきッていたんだ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
栞は木々を縫って目的あてなく彷徨さまよって行った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
目的あてもなくやっつけたのです」
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ゆき子は目的あてもなかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
彼はこのよいの自分を顧りみて、ほとんど夢中歩行者ソムナンビュリストのような気がした。彼の行為は、目的あてもなく家中うちじゅう彷徨うろつき廻ったと一般であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何時しか暗い陰影かげ頭脳あたまはびこつて来る。私は、うして何処へといふ確かな目的あてもなく、外套を引被ひつかけて外へ飛び出して了ふ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どこへどういう目的あてなどは元よりないのである。やぶや畑や雑草の中を、ただ怖ろしさに駆けられるだけ駆けたのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狡辛こすからく世を送っているものだから、め込む目的あてがない時はしちに入れたり、色気の見える客が出た時は急に質受けしたり、十余年の間というものは
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれども唯お前と差向ってばかりいたのでは何を目的あてに生きているのか、というような気がして、心が寂しい。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
坂本町に住む伯母の知己しりあいの世話で私が目黒の駅に務めることになったのは、去年の夏の暮であった。私はもう食を得ることよりほかにさしあたりの目的あてはない。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
かといって、どこと定まる目的あてもないらしく、今夜のように足にまかせてほうつきまわるのだが、公儀を向こうへまわす身にとっては寸刻の油断もあってはならぬ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はフラフラと目的あてもなくまちじゅうを歩きまわりながら、これは一体、自分の頭が狂っているのか、それとも役人どもの気がふれているのか、これは夢の中の出来ごとなのか
いま吾等われらは、重大ぢゆうだい使命しめいびながら、何時いつ大陸たいりくくといふ目的あてく、此儘このまゝ空中くうちう漂蕩へうたうしてつて、其間そのあひだむなしく豫定よてい期日きじつ經※けいくわしてしまつたことならば、後悔こうくわいほぞむともおよぶまい。
又そんな不実な人ではありませぬ、じゃアうがすが、何処かく所がありますかと云うと、何処も目的あてがねえ、こう云うからわっちも困って、兎も角粂さんに逢ってからの事に仕ましょうといって
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯ういう風に先祖代々観光客のお賽銭のこぼれを目的あてにして生計を立てゝいますから、奈良の人はそれは/\消極的ですわ。多少企業心のあるのは遷都の折、皆京へついて行ってしまったのですもの。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とおのものには十五の返しをなさる御姉さんの気性を知ってるもんだから、皆なその御礼を目的あてに何か呉れるんだそうですよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「七内様は、何も話してくれないので。——人間、目的あての分らないことをやっている程、苦しいことはございません」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渠は恁麽こんな事を止度とめどもなく滅茶苦茶に考へ乍ら、目的あてもなく唯町中を彷徨うろつき𢌞つて居た。何處からどう歩いたか自身にも解らぬ。洲崎町の角の煙草屋の前には二度出た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それからそれへと、種々いろんなことが思われて、相変らず心の遣りばに迷いながら、気抜けがしたようになって、またしても、以前のように何処という目的あてもなく方々歩き廻った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ここで彼は、別に何の目的あてもなしに、ほんのちょっと嘘を吐いたのだが、それが思わぬ効果を表わした。御用達という言葉が、強くナスターシャ・ペトローヴナの心を動かした。
せめて腕の半分も吾夫うちのひとの気心が働いて呉れたならば斯も貧乏は為まいに、技倆わざはあつても宝の持ち腐れの俗諺たとへの通り、何日いつ手腕うでの顕れて万人の眼に止まると云ふことの目的あてもない
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これからどこへ行くという目的あてのない私は、ただ先生の歩く方へ歩いて行った。先生はいつもより口数をかなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、いつまんだ理由わけを話しながら、二つの笠の間に挟まれて、何処へ落ち着く目的あてもなく歩きだした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渠は恁麽こんな事を止度もなく滅茶苦茶に考へ乍ら、目的あてもなく唯町中を彷徨うろつき廻つて居た。何処からどう歩いたか自身にも解らぬ。洲崎町の角の煙草屋の前には二度出た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
せめて腕の半分も吾夫の気心が働いてくれたならばこうも貧乏はしまいに、技倆わざはあっても宝の持ち腐れの俗諺たとえの通り、いつその手腕うであらわれて万人の眼に止まるということの目的あてもない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「今までは金鵄勲章きんしくんしょうの年金だけはちゃんちゃんとこっちへ来たんですがね。それが急になくなると、まるで目的あてが外れるような始末で、わたしも困るんです」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして又、目的あてもなく軒下の日陰に立つて、時々藤野さんの姿の見えるのを待つてゐたものだ。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「おい、戸狩へ帰んねえ。おらあ、これから目的あてなしに高飛びだ。お父っさんによろしくな」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目的あてなしにただ来るはずがないという感じが細君には強くあった。健三も丁度同じ感じに多少支配されていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今、話を聞いていたところだが、唖への計略は、すっかり目的あてはずれたそうだな」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目的あてが外れたといふ樣に、富江は急に眞面目な顏をして、『眞箇ほんとうですよ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私にはただ卒業したという自覚があるだけで、これから何をしようという目的あてもなかった。返事にためらっている私を見た時、奥さんは「教師?」と聞いた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目的あてはづれたといふ様に、富江は急に真面目な顔をして
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「まるで目的あてはずれました」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)